白頭巾ちゃんと黒頭巾ちゃん

@HasumiChouji

白頭巾ちゃんと黒頭巾ちゃん

昔々、ある所に1人の男が住んでいました。

ある日、男の家に絶世の美女が訪ねて来て、こう言いました。

「私は幸運の神です。貴方の家に住まわせてくれれば、あらゆる幸せを貴方に与えましょう」

男は一も二もなく、その女神を家に招き入れました。

ところが、続いて、世にも稀なほどの醜女が訪ねて来て、こう言いました。

「私は不運の神だ。お前の家に住まわせてくれれば、あらゆる不幸を与えてやろう」

男は当然、その女神を追い出しました。

しかし、不運の女神はこう言いました。

「お前は愚か者だ。先程の女は私の姉で、私達は常に一緒なのだ。不運を受け入れる者のみが幸運を手にする事ができ、不運を拒む事は幸運を拒む事でも有るのだ」

男の家から幸運の女神はいつの間にか居なくなっており、男は不幸も無い代りに幸運も無いつまらない一生を送りましたとさ。

中世期の日本の仏教説話より


 家出しても、まぁ、そんな年頃だからで済むのは高校までだろう。

 二十はたちの大学生が大晦日に家出など、他人ひとに知られたら、いい笑い物だ。

 問題は、それをやらかしたのが俺だと云う事だ。


 後期に一科目でも落とせば留年決定。だが、絶望的な科目がいくつも有る。

 それが親にバレれて、年末年始は嫌でも帰省する羽目になった。

 そして、面倒を避ける……と言うより後回しにする為に家出した。

 親の携帯の番号は一時的に着信拒否にしている。

 ……我ながら、いい齢して、何やってんだろう?


 人1人居ない夜道をトボトボと歩いていると……前の方に何かが見えた……。

 白い何か……いや……違う……。

 白いフード付の上着、白いスカート、白いタイツ、白い靴……全身白づくめの小学生ぐらいらしい女の子と……黒いフード付の上着、黒いスカート、黒いタイツ、黒い靴……全身黒づくめの小学生ぐらいの女の子が手をつないで夜道を歩いていた……。

 その2人は……俺の方を見た……。

 何だ……これは……。

 顔も髪も……片方は白で……もう片方は黒。

 それも……人間の肌や髪には有り得ない白と黒だった。

 まるで……この世で最も白いペンキと、この世で最も黒いペンキを塗りたくったような……。

 白い方の顔は……目・鼻・口、1つ1つのパーツは何も変な所が無いのに、何故か顔全体のバランスが狂っているように感じられ……黒い方の顔は……まるで天才芸術家が作った彫刻のように整った顔だった。


 気付いた時、2人の幼女は居なくなっていた……。

 スマホを取り出して、時刻を確認する……。

 夜中の十一時過ぎ。

 そうだ……そう言えば、何故、こんな時間に、子供が2人だけで……いや……あれは……子供だったのか? それ以前に……人間だったのか?


 恐くなって……人気の有りそうな場所を探した。

 そうだ……今年から初詣用の電車の終夜運転が再開した筈だ。

 俺は、近くの駅に向かい……。

 電車には乗れたが……電車の中には誰も居ない……。

 電車は次の駅に到着し……窓から見えるホームには……誰も居な……いや……人影が2つ。

 白一色の小さな人影と……黒一色の小さな人影が……手をつないでいた。


 いくつかの駅を通り過ぎたが……その度に、誰も電車には乗らず……その代りに、ホームには白と黒の2つの人影だけが有った。

 やがて、この近隣で最も大きい神社の最寄り駅に着いた。

 俺は電車を降り……そして、神社の方に向かった。

 人手は多い。

 果して、あれが人が居る所には現われないかどうかは判らないが……それでも少しは安心出来た。

 俺は初詣で賑う神社の本殿に入り……。

 スマホから通知音がいくつも鳴った。

 メールとLINEがいくつも届いていた。

 だが……全て文字化けしており……そして……その全てに、ある画像が添付されていた。

 白と黒の幼女が手をつないでいる画像だった。


歳神としがみ様の御成りぃ〜。吉祥天様と黒闇天様の御来臨にございますぅ〜」

 それが……俺が最後に聞いた……日本語の言葉だった。

 スマホに表示されている時刻が午前0時0分になった、その瞬間だった。

 高齢の男の声のようにも……若い女の声のようにも思える……奇怪な声だった。

 神社の本殿の奥から……あの白と黒の幼女が歩いて……いや……宙に浮いてこちらに向かって来るのを「歩く」と言って良いのかは判らないが……ともかく「歩く」ような動作をしながら……手をつないで……俺の方に……。

「○×△‼」

「∴□◎‼」

 境内の群集は俺の方を見ながら……喜びの声をあげていた。

 だが、その意味は全く判らなかった。


 俺は意識を失ない……そして気付いた時は……病室らしき場所に居た。

 だが……ここは……本当に病院なのか? それとも、別の世界か何かに迷い込み……たまたま、その世界で俺が監禁されている場所が元の世界の「病院の病室」に似た外見をしているだけなのか? それとも……。

「×*+@」

「%$=#」

 病室……少なくとも、そう見える俺が居る部屋にやって来たその2人が何を言っているか判らなかった。

 この2人は看護師で……俺の脳がどうかなっているせいで……あの姿に見えているだけなのか?

 それとも……あの2人なのか?

 ともかく……その……白と黒の幼女に見える「何か」は俺の両腕をつかみ……そして……。

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