読み口の重厚さが光る掌編ホラー

 近所のスーパーからの帰路、唐突に怪異に飲み込まれてしまった人のお話。
 ホラーです。恐るべき怪異を描いた物語で、でも少なくとも「体験談的な意味での怪談話」という趣はほとんどない作品。怪異(怪現象)そのものが非常に抽象的であることといい、またそもそもの文体や描かれ方といい、非常に小説的な感じがして、そこがものすごく好みでした。たぶんホラーとしてはなかなか珍しいタイプの味付け。
 非常に個人的な感想ではあるのですけれど、読み口の重厚さが楽しいというか、なんとなく古典の海外文学のような雰囲気を感じました。一文一文は長めながらも、語や修辞の順番を過つことなく、読点で丁寧にくさびを打つようにして積み上げていくような描かれ方。この味わいだけでもう十分に魅力があって、まあ単純に趣味に合ったということなのかもしれませんけれど、でも作品そのものはあくまでホラーであるというのが本当に面白い。組み合わせの妙というか、心の思ってもない部分をくすぐられるような不思議な魅力。
 描かれている怪異そのものは非常に抽象的で、なかなかに想像力を要求される部分があるのですけれど、それを情報量そのものを増やす方向で手助けするのではなく、文章の感触の方を優先しているような印象。ここになんともいえない気持ち良さを感じて、お話にしっかり引き込まれるのに、不思議な形での飲まれ方をしたような気分です。なにこの感覚。
 物語の内容についてはネタバレになるため触れませんが、しっかりホラーしています。オチの落差(というとニュアンスが違うのですけれど、でも終盤の空気感というか、それまでとの差異)も好き。本当にホラーらしい恐怖を描いているのに、そこまでのアプローチの仕方そのものにも味わいのある、とても丁寧に書かれた作品でした。