へんな長寿

松長良樹

へんな長寿


「私は長年、不老不死の探求をしてまいりましたが、この度ついにそれに近いものを完成いたしました」

 

 額の広い聡明そうな博士が意気揚々とそう言った。


「それに近いと言いますと、どういうことでしょう博士?」


 研究発表のホール会場に詰めかけた大勢の記者の一人が質問した。


「私は不老とはいかないまでも、人間の寿命を著しく長くする薬をやっと作りあげました」


「長寿ということですか」


「そうです。みなさんは哺乳類の寿命を決定しているものはなんだかご存じですか」


「染色体上のテロメアが関係していると聞きましたが……」

 

 にわか仕込みの知識で報道記者が答えた。


「そうです。私たちの体内には細胞分裂時に短くなる染色体上のテロメアと呼ばれる配列があり、動物体細胞ではそれを延長できず、その為に寿命が尽きてしまう」


 ホールには大勢の人々が博士の言葉と一挙手一投足に細心の注意をはらっている。


「私は最初このテロメアに細工しようと懸命に研究しましたが、どうしてもそのようなことは不可能でした。技術的な壁に突き当たってしまったのです。だから思い切って発想を転換したのです」


「なるほど、どんなふうにです?」


「私は心臓の鼓動に目をつけたのです」


「鼓動ですか?」


「ええ、そうです鼓動です。哺乳類の寿命は鼓動のスピードと密接な関係があるのです。たとえばネズミの鼓動はとても速い。反対に像の鼓動はとても遅い。両者の寿命を比べてみてください。ネズミは約三年、そして像は約八十年。鼓動の遅いものほど長寿だ。単純明瞭なる事実です。まあごく一部に例外はあるにしても」


「……それで?」


「私は鼓動を抑え、人間の寿命を二百歳にまで延長する薬を発明しました。この薬を服用した人間は百歳でも、五十代の若さを維持できます」


「それは凄い薬ですねえ」


「はい。この薬はこれから先、長い年月を必要とする宇宙探検に役立つでしょう。場合によっては人間の寿命を五百歳にまで引き延ばせる」


「それは凄い、たまげました。素晴らしい」


「今日は、親愛なる私の助手に実際にこの薬を飲んでもらいましたので、皆さんにご紹介致しましょう」

 

 さっきから博士の横にいた若い助手がとてもゆっくりと頭を下げ挨拶をした。


「みーーーーーーーーーーなーーーーーーーーーーさーーーーーーーーーーん。わーーーーーーーーーたーーーーーーーーーし………………」

 


  ――日が暮れた。




                 了

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へんな長寿 松長良樹 @yoshiki2020

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