クロスチャイルド 第1章 ミラク編 6 [2/4]

ユキはアクセルをさらに踏み、どんどん目の前の車を追い越していく。

通り過ぎていく景色の中で散らばる光は道筋だけを照らし、それらには何の感情の機微も感じず、ただの背景が線状に通り過ぎていった。


と、その時、ドン!という音ともに、窓ガラスに蜘蛛の巣状の亀裂が入った。


ガラスは防弾・防レーザー装備なので弾が貫通することはないのだが、横を見ると黒塗りのスモーク車の助手席の窓が開いており、防護服に身を包んだ戦闘員が、こちらに銃を向けていた。


「チッ、ユキ、撒けるか。こいつらに構っているほど暇はない。」


ハダルの言葉に頷くと、ユキは急に蛇行運転を始め、ぐんぐんと車を追い越しながら危険な運転を繰り返す。


同車線区域を走っている車から警報が次々に鳴らされるが、そんなことは気にも留めなかった。


警備ドローンは群がるようにユキらの乗る車を追いかけてきた。


10台分くらい追い越して差をつけた時に、「ハダル」とユキが叫んだ。

阿吽の呼吸で「ハイハイわかってるって」と言い、ハダルの足元に乗せていたロケットランチャー取り出すと、窓を開けて先ほどの車をめがけて撃ち、命中した。


ドンと言う音ともに、車から赤い炎と黒い煙が立ち昇り、地に落ちて行く。


ハイウェイは上も下もパニックになり、車の前後で渋滞していた。


あまりの出来事に玉突き事故も起こっている。


一度歯車が止まってしまうと、静まり返ったように全てが止まってしまい、ただ警報音だけがどこかしこから叫ぶように流れていた。


ハダルはこれを好機と捉え、どさくさに紛れて撮影しているドローンも全て撃ち落とした。


しかし、追いかけていたのは一台ではなかったようだ。


次々と黒塗りのスモーク車が並んで追いかけてくる。


それでも、世界屈指のスーパーカーの速さには到底敵わない。さらにユキはお構いなしに速度を上げると、一気に距離を広げた。


「ジェフリーに小言言われるかも知れねーな。小言どころじゃねーかも知れないけど。」


あまり目立つなと言われているが、そうもいかない。


向こうはこちらを殺す気で来ているのだから、こちらもそれ相応の対応をする必要がある。


「まぁ、もう遅いけどね。」


「たしかにな」


完全に相手国には察知されているのだろう。

人間離れした、人間のようなものは、今のところクロスチャイルド以外に見当たらない。バイアスがかかっているだけかもしれないが。


理由は簡単だ。遺伝子の操作は世界的に禁止されているからだ。


それにアンドロイドだとしたらまず電気信号を送られてそれで強制終了。


だからこそ、クロスチャイルドの所業は目に止まりやすい。


ジェフリーが何をしたいのか、何が目的なのかは分からないが、ジェフリーがやっていいというのだからいいのだろう。


ユキはその様子をバックミラーで確認すると、何もなかったかのようにまた無表情で加速させた。


「次の出口を降りてくれ。」


ハダルがGPSを確認した。

空を飛んでいるとはいえ、空間上の道路枠が存在する。


「了解。」と言って、降りる合図を送信すると、その中の出口が空に現れ、誘導してくれた。


先方はやはり空港で止まっているようだ。夫妻はまだ生きているだろうか。


ハダルは予め事情を話してある、レーガン社の取締役の一人に電話をかけて、新プログラムに異常はないかと聞くと、「今のところ、突破された形跡はありません」と言う回答を得た。


サイバー攻撃はずっと受けているのだが、それは技術員の尽力によりなんとか食い止めているとのことだった。


ともすると、まだ夫妻は生きている可能性はある。


夫妻がいなくなると、コードを聞き出せないからだ。
「今どき、コード入力がアナログとかあるか?」とハダルが言うと、


「だからこそ、食い止められている部分もあるけどね。」とユキは返した。


ハッキング対策や、社外に漏れるのを防ぐため、レーガン夫妻以外にこのコードを知っている人間は会社にはいないようで、レーガン社の社運はこの夫妻の命にそのまま直結すると言うことになる。


ユキがハイウェイを降り、そこからほど近い空港に降りると、その辺に適当に停めた。


この車をどうするかはユキの知ることではないが、きっとクリスチャンあたりがどうにか回収してくれるだろう。


ハダルがクリスチャンに現在の所在を伝え電話切ると、ユキはハダルをおぶり、建物の屋上まで一気に飛んだ。


「やっぱ猫科はすげぇな」


ハダルは呑気なことを言っている。


「水陸両用で、どちらの戦闘にも強いハダルの方が万能だと思うよ。」


と、ユキが言うと、「お前って意外に自己評価低いよな。」と返された。


屋上に降り立ち「あれだな」とハダルが見つめる先に、先ほどのが滑走路に入っている。


ユキの視力は人間よりはるかに良い。


目視の先に、目隠しをされ口元もテープで抑えられ、手を縛られて身動きが取れない状態の夫妻が遠くに見えた。


まもなく機内に連れ込まれようとしている。

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クロスチャイルド 山田麻衣 @OfficeM

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