[ななっ] ふたたびの……角の個室で








 僕は病室の窓から外を見た。


……偶然にも、また三階の角の個室だ。


天気は快晴。


青い空が広々と広がっている。


「まったくお兄は締まらないよねぇ。作品を提出した帰りのバスで、足を滑らせるなんてさ。右足を骨折して、入院中に受賞の知らせだものねぇ~」


ヤレヤレと手を挙げて大袈裟おおげさなジェスチャーをした美咲が、それじゃぁまた明日ねと、帰ってゆくのに手を振り返す。


昨日、電話で受賞を知らされたのだ。


まあ、実感なんかわかないんだよ。




 【全国高校絵画コンクール】


今年、見事最優秀賞をかざった作品は──────


〖飛翔〗私立江北高校二年 春田はるた 幸助こうすけ


青空を背景に彼女が大きく宙を舞う……その一瞬の時間を切り取った。


本当はもっと時間をかけたかったが、執念しゅうねんで描き上げた傑作だ。


……うん、自分にしてはっていうことさ。


僕の執念しゅうねんも中々で、火事場のバカ力……っていうか、おバカの無鉄砲っていうか。


うん、三徹はきつかった。


でも、やればできるもんだよね……もう嫌だけど。







 ボンヤリと窓から空をながめる。


じつに良い天気だな。


「こんにちは……まあまあ元気そうね」


こっそりとドアを開けて入ってきたのは夕原さん。


「やあ、おかげさまで。足以外は元気だよ?」


「……そう。……それは良かった……」


お互いに、落ち着かなくて視線が彷徨さまよう。


「えっと、……今日はどうしたの?」


「えっ!? ……いや、別に……」


「ん?」


首をかしげる僕に、彼女は言った。


顔が真っ赤なのは、この前のことで照れているのかな。


「あの日忘れたのってこれなのよ。あとでこっそり読んでほしいの……」


そっと差し出された白い封筒。


それからと、彼女は続ける。


「……からっ、目覚めのキスをやり直しに来たのよっ。 えっと、受賞のお祝いっ!」


「ふぁっ……んにゃっ! ぅえぇっ!」 


うわぁ。


思わず、リアクションが崩壊。


なんなんだよ、もう。


これ、どうやって返せばいいんだよ。


今度は、僕があかゆだる。





 ああ、締まらないなぁ。


女の子の方から告られて、こんなに取り乱しちゃってさ。


まったく……意気地がないんだよ。


せめてちゃんと気持ちを伝えるべきだよね。






 あんな作品を見られちゃったら────もう言い逃れはできないし、する必要もない。


「いや、今度は僕の方から……気持ちのこもった渾身こんしんの頭突きをお見舞いしよう」




 誰もいない病室で…………僕は、そっと彼女の頬に手を伸ばした。











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ちょっとしたアクシデントで、彼女の眼鏡になってみた☆ 代 居玖間 @sirokuma-smiley-u-

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