12、やっと会えたね!

 この枯れた生命の樹の目前にドーン! とゲームセンターを構えてやる!

 近くに作れば、もしかすると枯れた生命の樹が息を吹き返すかもしれない。


「もう、やっちゃってもいいよね!?」


 ママを見ると、大きく頷いてくれた。


 「よし、やるぞー!!」


 私、十年も我慢したんだから!

 やっと……やっと!!!!

 貯め込んだ魔力を使うときが来た!


 苦節十年。本当に、本当につらかった……。

 でも、それはすべてこの瞬間のため!


 胸がわくわくどきどくする。

 興奮で手が震える!

 私は生まれ変わってから感じたすべての感情を解き放つように、力いっぱい叫んだ。


「【ユニークダンジョン・ゲームセンター創造】!」


 スキルを発動させた瞬間、地面に光が走り始めた。

 それは図形や文字を描いていき、巨大な魔法陣になっていく――。


「待って!! かっこいいー!!」


 興奮を抑えられず、ぴょんぴょん飛び跳ねてしまう。

 そして、完成した魔法陣が強く光り始めると同時に、地響きが起こった。


「え、地震!?」


 何が始まるのだろう。

 少し怖いけれど……それ以上にわくわくする!


 地響きが一際大きくなり、ドンッと爆発が起こったような衝撃の直後、魔法陣から一層勢いよく光が吹き出した。

 光りは柱となり、空を突き抜けていく――。


「あ!」


 光りの中に、何かのシルエットが浮かび始めた。

 巨大な何かが、柱の中にある。

 しばらくすると、光は霧散するように消えていった。

 そして姿を現したものを見て……私は泣きそうになった。


 ああ……なつかしい……これは、あの日私が行きたかった……。

 これこそ、私の住んでいた町にあった――。


「『ゲーセンビル』だーーーー!!!!!」


 正式名称は忘れたが、地元ではゲーセンビルと呼ばれていた建物と、外観はまったく同じだった。

 十階建てのビルで、ゲームセンターがメインだが、カラオケやボーリング、ダーツなどが楽しめた。

 町で一番の娯楽施設で、週末になると大賑わいだったなあ。


「な、なんだ、この箱は……これが、ダンジョンなのか?」


 ママが見たことのない建造物に驚いている。

 魔王パパのダンジョンは、外観は見ていないけれど、多分RPGで出て来るような城か塔なのだろう。……知らないけど!


「私のダンジョンは『ユニーク』なの。普通のダンジョンみたいに危なくないし、とっても楽しいところなのよ!」

「ダンジョンが、楽しい……?」

「とにかく行ってみようー!」


 戸惑っているママの腕を引き、ゲーセンビル……いや、『私のゲーセン』へ向かう。


「あれ? あなたたち?」


 私たちから少し離れたところから、妖精たちがこちらの様子を伺っていた。

 なんだかとってもそわそわしていて、こちらに来たがっているような……?


「あなたたちも一緒においで!」

「!」


 声をかけると、四つの光がこちらにやって来た。

 赤、青、緑、黄色の妖精で、とっても可愛い妖精たちだ。

 他の妖精たちはまだ警戒しているのか、動く様子はない。


「ねえ、ここはたのしいのかしらっ」


 話しかけて来たのは、赤い妖精だ。

 ゴージャスな真っ赤な髪に、薔薇のようなドレスを着ている。

 悪役令嬢みたいな見た目だけれど、小さくて可愛いっ!


「ええ! とっても楽しいのでございますわよ!」


 そう答えると、妖精たちはきゃっきゃとはしゃぎ始めた。

 なにこれ、癒やされる~!


「和むのは勝手にしてくれて構わないが、俺を引っ張るのはやめてくれ!」


 歩きにくかったのかな?

 ママに手を振りほどかれてしまった。残念。


 ――新たなダンジョンが誕生しました


「?」

「どうした?」

「今、何か声が聞こえたような?」


 私の言葉を聞いて、みんなで耳をすませてみたが……何も聞こえない。

 あれ?


「幻聴か? はしゃぎすぎて耳までポンコツになったのか?」

「こらー! すぐポンコツって言うー!」


 口の悪いママを置き去りにする勢いで、私はゲーセンに向かう。

 そして正面の自動ドアの前に立った。

 ああ……お久しぶりです、文明の利器!


「おい、透明な扉がある。ぶつか……!?」


 自動ドアに驚いたママが目を見開いている。

 とてもいいリアクションだ。

 悪戯が成功したときのような楽しい気持ちになってきた。

 ママにはこれからたくさん驚いて貰わなければ!

 空いた自動ドアの間を、私は颯爽と通り抜けた。


「はじめまして。マスター」

「え!」


 誰もいなかったのに、突然前に人が現れた。

 瞬間移動? 誰!?

 思わず後退ってしまったが、その人を見て更に驚いた。


「え……宝生さん!?」


 ゲーセンビルのゲーセンで働いていた、スタッフの宝生さんだった。

 キリッとした美人で、いつもポニーテールにしていた。

 クレーンゲームに苦戦した私が、初期位置に戻して欲しいと何度も頼んでも、嫌な顔をせず和やかに対応してくれた素敵な人だった。

 わあ、宝生さんだ……宝生さんだ~!

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