2、卵

 神様に「起きたら第二の人生の始まりだよ」と言われて意識を失った。

 そして、目覚めると私は……卵になっていた!


 卵になったというか、卵の中にいたのである。

 目を開けたり、体を動かすことはできないが、意識ははっきりしている。

 動けないのに意識はある時間が延々と続くなんて恐ろしいと思うのだが、不思議と恐怖はまったくない。

 無重力空間で漂っているような感覚が心地よくて、とてもリラックスできている。


 私が「自分は卵」と理解できたのは、頭の中に浮かんできたゲームでよくあるステータス画面のようなものに、それっぽいことが書かれてあったからだ。


『no name(強欲の卵)』


 まだ今世での名前がないからno nameになっているのは分かるけれど、強欲の卵ってなんだろう?

 厨二の香りしかしないけれど、嫌いじゃない。

 私は『邪竜』『暗黒騎士』『刹那』などのワードは嗜む方だ。


 気になるのは、「卵で生まれるということは人間ではないのか?」という点だ。

 大変だ、手がないとゲーセンで遊べない!

 体が大きすぎたりするとレースゲームの座席に座れないし、人型じゃないと困る!

 最悪でも人間サイズの体格で、ボタンが押せる指があって欲しい!


「転生してもゲームセンターで遊びたい」という希望を出して転生したのに、ゲームセンターで遊べない体に生まれるなんて、神様はそんな無慈悲なことはしないと信じたい……信じてますよ!


 とにかく、何もすることがなくて暇な私は、この画面を端から端まで見た。

 すると、発見したのが【ユニークダンジョン・ゲームセンター創造 MP:9999999】というスキルだった。


 ゲームセンターを創るスキルだということはすぐに分かったが、今は発動できなかった。

 発動するためには膨大な魔力が必要なようだ。

 9999999必要なのに、私が持っていた魔力はたったの6!

 二度見しても、三度見しても6! 9でもなくて6!

 これでは卵から出ても、すぐにゲーセンを創ることはできないだろう。


 スキルには体内にある魔力を注入することができたので、試しにすべて入れると残り9999993になった。

 一気に9999999必要、ということではないようだが、道のりは果てしない。

 しばらくすると、私の魔力は回復して6に戻ったが……。


(することもないし、『魔力が回復したら注入』を繰り返して、少しでも早くゲーセンを創ることができるようにがんばろう)


 それから何日、何十日経ったのか分からないが、私はスキルにちまちま魔力貯金する日々を続けた。


(最初は6だった私の魔力も666になった!)


 一桁から三桁になったのは大きな進化だが、それでもゴールまでの道は遠い。

 スキル発動までは、残り9984140だ。

「く、くやしいよお」と読めてしまう。

 数字で私の心情を現してくれるなんて粋だが、そんなことより早くゲーセンを創って欲しい。


(…………ん? 何か聞こえたような?)


 心の中でバタバタと騒いで抗議をしていると、今まで聞こえなかった音が聞こえてきた。


「…………の…………ついに…………が…………」


 誰かの話声だ。

 なんだか周囲が騒がしい?

 音に集中していると、今度ははっきりと聞こえた。


「新たな魔王候補――王子、王女の誕生です!」

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