17、楽しい生活

 無事、魔王パッパを追い返し、私はゲーセンの発展に勤しんだ。

 私のダンジョン、『ゲームセンター』は元にしているゲーセンビルと同じ十階建てだが、ほとんど空っぽだ。

 やりがいがあるなあ、腕がなる!


 現在は一階をメインに展開しているが、最上階の十階を私の住み家にした。

 ダンジョンの設定画面から最上階全体を『スタッフルーム』として設定することで、トイレや給湯室を設置できたし、ソファーとベッドまで用意することができた。

 簡単なテーブルとイスや、冷蔵庫まであったのでありがたい。

 ゲーセンビルにあったものは使うことができるようで、自動販売機も設置できたし、ポットなどの小型家電や、インスタント食品などは『景品』から出すことができた。

 異世界にいながら、元の世界で使っていたもの、なじみがあるものを食べることができるのはとても幸せだ。


 スタッフ―ルームには、私と宝生さん、そして赤の薔薇妖精ちゃんが住んでいる。

 マッマも一緒に住んで欲しかったのだが、王様としての仕事があるし、立派なお城があるからそちらに住んでいる。

 ここで一緒に住みたくて「和解した娘とすぐに別居するなんてひどい! 毒親!」とかなり駄々をごねたのだが「毎日顔は見にくる……というか、おかしなことをしないかチェックしにくる」と言ってくれたので我慢した。

 ……というか、チェックすると言われると来なくてもいいな、なんて思ってしまった。


 宝生さんは精神生命体なので姿を消すことができ、部屋など不要だと言われたのだが、私が寂しがったのでスタッフルームで過ごしてくれることになった。

 薔薇妖精ちゃんも、私がお願いして一緒に過ごしてくれることになった。

 彼女は王であるマッマから『ルージュ』という名前を貰った。

「赤だからルージュって安易だな。私がもっといい名前を考えてあげる!」というと、ルージュちゃんに烈火のごとく叱られた。

 進化して王に名をつけて貰えるのは、妖精にとってこの上ない名誉らしい。すみませんでした!

 この世界のことも、妖精のことも知らないから、これから学んでいかないとなあ。


 スタッフルームの間取りも、ゲームのように自分で画面から設定することができたので、それぞれの個人的な部屋ととっても広い共有スペースを作った。

 唯一なかったのがシャワールームだ。

 でも、水道を引いている部屋は作ることができたので、ママに協力して貰ってお手製のシャワールームを作った。


 それが……とってもすごいものができて、私はビビり倒した。

 浴槽をママに頼んだら、妖精の里の地面からいっぱい生えている水晶で作ってくれたのだ。

 まるで宝石風呂!!

 宝石の国のお姫様にでもなったかのようで、感動なのかよく分からない涙を流しながらお風呂に入った。

 苦節十年、川や泉で体を洗っていた私が、こんな宝石風呂で寛げるなんて……幸せすぎて怖い!


 それにしても……宝生さんとルージュちゃんの三人で暮らすのが楽しすぎる。

 女子トークができるし、毎日がパジャマパーティーみたいで至福!

 景品の中にある可愛いものや、妖精たちが作り出す綺麗なものに囲まれて生きる生活、最高!


 もちろん、ゲームセンターの部分も内装を整えたり、ゲームを増やしたりして進化させている。

 まだ一階部分しか使えていないのだが、パステルカラーで統一したファンシーな内装に、自動販売機や観葉植物、ベンチなどを設置。

 長時間楽しめる素敵な空間にした。


 メインとなるゲーム機も、クレーンゲームを増やし、今のところメインのお客様が妖精たちなので、子供向けのものを入れた。

 ルージュちゃんのように頭身が高い高位の妖精もいるのだが、三十センチくらいの小さな妖精が圧倒的に多いし、高位妖精はあまり来てくれない……。

 ママが出入りしているから気にはなっているようだけれど、どうしても『ダンジョン』だということに抵抗があるようだ。

 だから、現在私のゲームセンターのメイン客層は子どもである。


 設置したのは線路をぐるぐる回る電車、コーヒーカップや、ぐらぐら揺れる定置式乗り物系、そしてメダルゲームだ。

 メダルは百円で十枚。

 妖精たちはお金を持っていないので、買い取り変換機が大活躍中だ。

 宝石が多いのだが、信じられないほど高価なものが手に入ったりしているで、私はびっくりを超えて震えたし、お金がいっぱい出てきていた妖精たちも震えていた。


 そんな感じで資金に困ることなく、小さな妖精たちはゲームセンターを満喫してくれている。

 最初は『ダンジョン』と聞いて、怖くて入ることができない妖精が多かったが、ルージュちゃんや青い子たちが呼んでくれて、すぐに大盛況になった。

 そのうち高位精霊たちも来てくれるだろう。


 ……なんてことを考えながらも、今は絶賛妖精たちに交じってメダルゲーム中だ。

 私はリール型のコントローラーがついた魚釣りゲームをしている。

 あ、釣れたと思ったら空き缶だった。


「わたくし、この虫を叩きのめすゲームが得意ですわ!」


 興奮気味のルージュちゃんがずっとプレイしているのは、蚊に刺されるまえに叩いて撃退するメダルのゲームだ。

 強い蚊を倒すとメダルがたくさん貰えるのだが、ルージュちゃんは素晴らしい瞬発力で最強のマッチョな蚊をバシバシ叩いてる。

 すごいし、本当に蚊を倒しているかのようにボタンを叩く女王様なルージュちゃんを見ると、新たな性癖に目覚める人が出現しそうだ。


 メダルゲームは他にも、あっち向いてホイをしたり、魚釣りや金魚すくいをしたり、ピンボールだったり、20種類くらいある。

 ゲームの結果に『効果』をつけることもできるのだが、ママに怒られるのでなしにしている。

 でも、あっち向いてホイで動体視力をよくする効果とか、犬のレースを的中させたら一日幸運になるとかつけたい……。

 せっかくある便利なものを使わないなんてもったいない。


 だから、こっそりと自分の部屋にリズムゲームの機体を置いて、フルコンボをだすと魔力アップする効果をつけている。

 私の魔力の最大値は順調に増えて、1142から2943になった。

『いいしに』から『にくしみ』……。


 それはともかく、ゲーセンを発展させるには魔力が必要だし、もう一つ理由ができた。

 設定画面に謎の【??? MP:999999】というスキルをみつけたのだ。

 ゲームセンター創造よりは一桁少ないけれど、それでもかなりの魔力を消費する。

 何ができるか分からないけれど、きっとすごいことに違いない。

 ゲーム機の充実の方を優先しているけれど、こちらのスキルにもちまちまと魔力を入れているので、何ができるか楽しみだ。

 これで【呼び込みのおじさん召喚】とかだったら暴れる。


「盛況だな」

「ママ!」


 考え込んでいたから気づかなかったが、いつの間にか背後にママが立っていて周囲がざわざわきゃっきゃしていた。

 今日も美しいママは、みんなの王様というよりアイドルだ。

「お前たち、あまり騒ぎすぎるなよ」と妖精たちに注意するママは、幼稚園の先生みたいに輝いている。


「緩い顔をして……またくだらないことを考えているな?」

「そんなことないよ。ママ、何か用?」


 ただ様子を見に来ただけではないような気がして尋ねる。


「獣人たちが回復して目覚めたから会いに行くぞ」

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