最終話 何でも転生すれば良いわけではない

「変装ってこれで合ってるんですか?」

「ああ、結構似合ってるぞ」

「私に関しては変わってないけど」

 メイド服姿で関所の列に参加する3人。都に居座る黒幕のせいで、荒廃した郊外には変装の材料が少なく、ニーアに合わせることにした。割とメイクが上手く決まっていて、パッと見では女性に見えないこともない。


「これでどうするんです?女装変態の元勇者さん?」

「あのなぁ。俺だって好きでこんなことしてるんじゃないんだぞ。大体、こういう変装練習が多くて......」

「どうでも良いですよ。全てが終わっても、絶対に付き合いませんからね」

(そんな......)

 アルサーは内心、ガッカリでいっぱいだったが、ここは気を取り直して関所に向かうことにした。関所には変わらず、多くの人でごった返しているものの、農民が大多数だった。そのため、3人のメイド姿は目立ち、自然と道がひらけた。


「すみません、都にいるさまに呼ばれたんですが」

「うーん」

 少し悩んでから、関所の役人は通行証を渡してきた。それを受け取り立ち去ろうとした時、キングが役人に呼び止められた。

「おねえちゃん、おじさんの好みだよ」

 ドキリとした感情が、一瞬として殺意に変わるキング。ニーアに手を引っ張られて、何事もなく都に入ることが出来た。



 -都

「あの役人、骨すら残らない程に燃やしてやろうか。それとも、関所ごと消し飛ばしてやろうか」

「お前の魔王らしいところ、初めて見たわ。いやぁ、迫力があって普通に怖いわ」

「確かに、ここ最近は魔王に他ならなかったですし」

 心ない一言があった気もするが、キングはブチギレていたために、2人とも無事で済んだ。


「少し街ゆく人に聞いてみましょう」

 ニーアがサバサバと聞いていく。


「勇者さまのことが知りたいんです。何か教えてくれませんか?」

 1人目、千鳥足の酔っ払い。

「ん?お嬢ちゃんも、勇者な俺と飲み......」

「どっかで飲み潰れて下さい、クソジジィ」

 2人目、鬼ごっこしてる子供。

「勇者さま?知らない、次はお姉さんが鬼ね」

「誰が鬼だ、ボケ!私は可愛い女の子でしょうが!!!」

 3人目、八百屋のおばちゃん。

「勇者さま、良い男よねぇ。私も若かったら、チャンスがあったかも、なんてね。ところで、ニンジンいる?」

「男ですか、わかりました。ありがとうございます。その顔ではノーチャンスだと思います」


 そんなこんなでニーアが聞き込みを終えて、戻ってきた。アルサーもキングも近くで見守っていたので、聞かなくても内容を掴めている。

「どうやら、黒幕は男のようですよ。あのエセ勇者は嘘つきのようです」

「そうですね」

「というか、最後のおばちゃんは教えてくれたのに、なんでディスってんだよ」

「本心ですから」

 手がかりは少ないが、都は黒幕の手の中なので、黒幕の住む宮殿に潜入することにした。



 -宮殿の別館

「広いですね。そのせいか警備がザルでしたけど」

 そんなニーアの言葉通り、別館の警備ずさんなもので、警備兵は二人しかいなかった。二人だけなら、キングの催眠魔法で一発であり、楽に潜入することが出来た。


「とりあえず、本館を目指そう」

 本館へと繋がる渡り廊下を目指すアルサーたち。彼らが別館の中心部であるダンスホールにたどり着いた時、呼び止める声がした。


「待たれよ」

「誰だ、お前は」

 アルサーたちが振り返ると......


 光に照らされた禍々しい角と見るものを惑わす赤い眼。

 人間すら丸飲みしそうな大きな口。

 鋼をも切り裂く強靭な爪。


 どことなく誰かに似た男がいた。


「父上!!」

 キングがすかさず駆け寄る。その目には涙があった。

「生きていらっしゃったのですね。私です、です」

「ああ。会いたかったぞ、我が息子よ」

 しかし、感動の再会は儚くも崩れ去る。


 突如、キングの体を光の刃が貫いたのだ。

「どうし...て......」

 そう残し、その場に倒れるキング。


「てめぇ、やりやがったな」

 先ほど武器屋で新調したばかりの剣で、キングの父親に斬りかかるアルサー。ニーアは驚きのあまり、呆然としている。


 アルサーの攻撃を間一髪で回避するキングの父親。しかし、その斬撃は衝撃波を纏い、避けたはずのキングの父親を襲った。


 角も爪も取れてしまった。砂煙の中出てきたのは、

 ───ただの人間だった。


「どういうことだ⁉︎」

 アルサーは困惑を隠せない。そんな中、奥の暗闇から、拍手の音が聞こえてきた。


「いやぁ、素晴らしいぞ。避けられることを計算しての攻撃。一体誰が教えたんだろうか。さぞ教えた人は凄い人だったのだろうな」


「待てよ、待ってくれ!あなたは」

「そうだ、だよ」


 暗闇から出てきたのは、アルサーの師匠である実の兄であった。アルサーは動揺で取り乱している。


「そんなに混乱するな。隣の美人さんにカッコ悪い姿を見せるべきではないぞ。私の名はケイン。そちらの美人さん、良かったら......」

「どうして、どうして...どうしてなんだよぉおお!」

「全くうるさい弟だ」


 未だに状況が飲み込めないアルサー。ケインは容赦なく、アルサーを蹴りつける。その他にも正拳突きや回し蹴りなど、様々な武術を繰り出していく。アルサーはサンドバッグのように、反撃の余地なく蹴散らされた。


「アルサーよ、黒幕があんな野郎オタクにやられる魔王の父親なわけないだろう。第一、父親の話すら出てきてねぇのに」

「......」

「もうコイツはへばってるので、これから私と......」

 アルサーが虫の息とみて、抜け目なくニーアに声かけるケイン。下心が溢れているケインにニーアは鋭く切り返す。


「こんな男の女装に気づかないオタクもバカですけど、あなたはそれ以上のカスですね」

「おいおい、厳しいな」

 一歩下がるケインの足をギュッと掴む手。その手の主は、キングであった。


「貴様は、すでに死んだはず」

「残念だったな、ケインとやら。私の名前すら知らない奴に、我が父の真似事をさせるとはな」

 キングはケインの至近距離から、魔弾をぶつける。ケインは凄い勢いで吹っ飛ばされ、その威力はケイン自体が壁にめり込むほどだ。


「起きろ、勇者アルサーよ。今こそ、本物になる時だ」

 キングは声掛けと共に、アルサーへ回復魔法をかけた。そしてニーアも

「もしこの戦いが終わったら、結婚してあげま......」

「よし!今すぐ終わらせてやるぜ!!」

(単純バカだ)


 飛び起きたアルサーは、落ちていた剣を拾いケインへ向かっていく。それに続くようにキングも加わった。激しい攻撃は、両者許さずの展開を見せる。


 しかし、その中でケインが一瞬止まった。それは、履いていた革靴が靴ずれを起こした時であった。戦い向きではなく、慣れていない靴では、激しい戦闘に耐えきれなかったのである。


「捕まえた!」

 その隙を見逃さなかったアルサーは、ケインを羽交い締めし、動きを封じた。キングは一撃で葬るべく、魔法を唱え始める


「待て、アルサー。俺だって悪意があったわけではないんだ。ただ長年の宿敵である魔王を倒した奴に会いたかったんだ。まさか、あんな野郎オタクだと思わなかったがな」

「だけど、アニキはこの世界をキングが治めていた時より悪くした。そこが問題なんだ!」

「やっぱり権力って最高なんだよ!!」


「はい、アウト!」

「アウトですね」

「アニキ、本音出てる」

「あっ」


 この間にキングは魔法を唱え終わり、大玉の魔弾を作り出した。

「今だ!離れろ、アルサー」

「ああ。って、離れねぇ!?」

 ケインは失言をしていたものの、アルサーの腕をキッチリと抑えていたのだ。

「離すものか、こうなったら兄弟一緒に」


「このまま、撃っちゃえ!意外とこういうところから、出来るかもしれないし」

「死ぬなよ。くらえ!!」

 キングの放つ魔弾が、アルサーとケインを包む。





 -結婚式場

「結婚おめでとう!」

 祝福に包まれる二人。一人はある魔王のもとで、働いているメイドさんである。もう一人は、

『なんか嬉しいな、ニーア』

『まさか、本当に結婚するとは』

「静かに!うるさいよ」

「まぁ、良いじゃないか。元気そうで」

 そう言ったのは、付け角をつけた男性。昔、魔王と呼ばれていた男である。


『良いラストっぽくなってるけど、俺忘れられてるんですけど』

「また、吠えてる。まるで、あの勇者みたい」




 いつかの勇者は、いつかの魔王夫妻のワンちゃんに転生していたのであった。誰にも気づかれてはいないのだが......



 何でも転生すれば良いわけではないと身に染みて実感する元勇者、改め現ワンちゃんを務めるアルサー(現ケルベロスくん 3歳)であった。




おわり

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異世界転生の被害者たち〜現地勇者は失業中〜 拙井松明 @Kazama74Tsutanai

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