第3話 大人より子供の方が勘が鋭い

「もしかして、お前は」

「どうやら、オラを探しているみたいですね」

 茶屋で隣り合わせの席にいたオタクオタクの姿は思ったより、少し大きめな小太りの男だった。アルサーはすぐにでも、一発かまそうとしていたが、キングの手が強く引き止めた。

「ここではお店の方に迷惑がかかります。ひとまず外に出ましょう」



 茶屋の外には広い牧場があり、その端っこでアルサーとオタクが決闘を始めることとなった。キング自身は止めようとしたものの、オタク自身が決闘を受け入れたために、このような状況となっている。


「随分、余裕があるな!今から、俺にボコボコにされるってのによ」

「オラはもう......」

 自信の有無に差がある両者を見ながら、ニーアはどっちが世界の敵なんだがと思っていた。


 安全確保のため、木刀で対決するも一方的な展開が続く。アルサーの一太刀はことごとく、オタクに当たる。

「本気を出せ、クソ野郎。そこの魔王をぶっ倒したってんならよ!」

「待って下さい!!」

 そんな叫びと共にキングは、オタクの前へ飛び込み庇った。たちまちアルサーの木刀は折れ、オタクは尻もちをついたように座り込んだ。


「あなたにはもう“無双”も“モテ”もないのでしょう」

「よくわかりましたね、キングさん」

 仲裁に入ったキングの一言に一同騒然となる。オタクは少し悲しそうな顔して、事実を話した。


「オラに“無双”も“モテ”もあったのは確かですが、

「てことは、今の都で悪さをしているのは、あなたではないと」

 ニーアが割り入るように聞く。アルサーはまだ事実を飲み込めてないようで、あわあわしている。


「そうです、オラではない。


「じゃあよぉ、誰が都でのさばっているんだ」

 やっとのことで、アルサーがボソっと呟く。オタクは、アルサーに目を背けながら

「オラは確かに力を失った。けれど、キングさんを倒してからも、オラの周りには女性が多くいたのだ」

「私を倒したとなれば、“モテ”などなくてもモテるでしょうからね」

 やけに微笑ましくキングは語っている。やはり、元魔王のプライドは健在のようだ。


「そんな女性の中で、とりわけ積極的な人がいたんだ。オラはまんまと乗せられて......」

「その後は大体予想がつくので、言わなくて良いです♪。想像するだけでキモいんで」

 満面の笑みで、冷ややかな一言を浴びせるニーア。キングはそんなニーアにコラコラと言いながら、

「身ぐるみ剥がされてしまったんですね。それは大変でした」


「そうなんです...え!」

 突然、オタクの身体が光に包まれ出した。その眩い光は、オタク自身を薄くしていく。

「これはもしや、現代に戻るのでは?」

「オラは嫌です!異世界にいたいんだぁ!!」

 オタクの悲痛な叫びも虚しく、どんどん消えてきている。キングたちも手の打ちどころがなく、まごつくばかりだ。そんな中、静かになっていたアルサーが、光輝くオタクの前に出てきて


「最後に、俺に教えろ!お前を倒したやつの情報を!!」

......」

 そう告げて、オタクは消えてしまった。


「どうしようもない下ネタをぶっ込んできましたね。全く最低なクズ野郎です!」

 ニーアがなんだか嬉しそうな口調ながら、冷え切った目で言った。アルサーも、煽りさながらの一言にブチ切れている。

「なんだよ、あいつ。そんなに自慢したいか!俺だって、俺だって......」

 瞳がうるうるし始めるアルサー。

「ていうか、あいつはズルだろ!なにが“モテ”だ!クソォおお」

「静かに」

 不平不満が絶賛爆発中のアルサーを催眠魔法で寝かせたキング。この時、キングだけがオタクの一言の真意を突き止めようとしていたのだった。




 -都の関所

「言葉遊びしましょ、そうしましょ♪」

「名前を繋げましょ、最初の文字を繋げましょ♪」

「そうしましょ、出てきた順番で繋げましょ♪」

「いやぁ、うるせぇ!うるせぇよ!」

 やっとのこと目覚めたアルサーの前には、関所に押しかける民衆の姿があった。アルサーを起こしてしまった子供たちは、この押しかけに参加している人たちの連れなのだろう。


「おい、ガキども。俺と一緒だった奴ら知ってるか?」

「おじさん、口が悪いね」

「ね。いけないんだー」

(誰がおじさんだと、クソガキが)

 いつもなら振りかざしかねない拳を抑え、優しげに言い直す。

「メイドさんとか、見なかったかなぁ?」

「おじさん、言葉遊びしましょ!そしたら、教えてあげる」


 そんなこんなで言葉遊びに巻き込まれるアルサー。

「じゃあ、わたしから。アーサー王の“あ”!」

「次はおじさんだよ」

「俺か?えーと、じゃあランスロットの“ら”」

「それはもっと後だよ。順番に言わないと」

「悪いが、おじさんは忙しいんだ。じゃあね」


 我慢の限界を迎えたアルサーは、子供たちから逃げるように別れを告げた。

 寝ていたところから、少し行った先にニーアとキングはいた。


「やっと起きましたか、効きすぎてしまいましたね、すみません」

「状況を教えてくれ」

「見たままです。完全にシャットアウト。通ることは叶いません」

 どうやら魔法を使うやり方も警戒されてしまうため、好ましくないようだ。アルサーは少し考えがあると、いたずらな笑みを浮かべた。


「アニキ譲りの変装テクニック見せてやるぜ」



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