第5話 伝説の武器
アルドたちは宿屋で休息をとった後、酒場に集まった。先のメンバーに加えて、ラディカも一緒だ。
「なるほど……そんなに大変な旅になっていたのね」
「ああ、でもラディカのおかげで助かったよ。ありがとう」
アルドの言葉に、ラディカは頬を赤らめてそっぽを向いた。
「そ、そう。私の占いが役に立ったのならよかったわ」
「私からもお礼を言わせてちょうだい、占い師さん」
老婆が頭を下げると、ラディカは首を振った。
「気にしないで。私はアルドに協力しただけだもの。ところで……あなたが例の、呪いの影響を受けなかった奥方?」
「そうみたいねえ、自分ではよく分からないのだけど」
「俺の見立てじゃあ、影響を受けなかったというより影響を撥ね退けたってのが正しいと思うんだがな」
見るからに甘さを控えてなさそうなケーキを口に運びながら、ユーインが唸る。
「まあ、いずれにしてもとんでもない夫婦だってことに変わりはねえ。あれだけの呪具を五十年持ち続けて呪いに抗い続けた爺さんと、呪具に名前を奪われた人間のことを覚え続けてた婆さんだからな」
「それもこのお二人の固い絆の成せる業……だと思うのですが」
ツキハが少し困ったように老夫婦に視線をやる。隣同士に座っているものの、仲睦まじい夫婦という感じではない。
「そもそも私たちはまだ夫婦ではないですしねえ」
「左様、そもそも儂とてこれを救おうと命を懸けたわけでは……」
「大体その珍妙な喋り方は何です?」
「なっ……大体お前こそ」
二人の口論はどんどん加熱していく。アルドは頭をかいて困ったように笑った。
「仲がいいんだか悪いんだかって感じだな」
「……こういう形の絆もある、ということでしょうか」
「そうね、私もそう思うことにするわ」
「……ところで、爺さん。あの刀はどうするつもりだ?」
ユーインの言葉に老夫婦、もとい老カップルのケンカはとりあえず終息した。老爺は件の妖刀をテーブルの上に置いた。
「儂はもう目的を果たした。できることなら、この刀とも縁を切りたい所存にございます」
「……そうか。よし、分かった。アルド、恐らく戦いになる。身体は大丈夫か?」
「ああ、いつでもいいぞ」
アルドが答えると、ツキハとラディカも頷いた。
「私たちも行きます」
「今度はちゃんと力になるわ」
「よし、この面子なら問題ないだろう。だが、町の人を巻き込むわけにもいかないからな。場所を変えよう」
ユーインの言葉を受けて、一行はセレナ海岸に移動した。その最も北、海がよく見える道にて、ユーインは妖刀を抜き放つ。先ほどまで見られていた闇のような黒い光は鳴りを潜めている。見た目は普通の短刀だ。
「ユーイン、どうするんだ?」
「こいつのやってることは至極単純だ。人間から何かを搾取して力を溜め、対価として力を与える。そいつは逆に言えば、この刀自身にも力を溜めたい理由があるってことだ。なあ……そうだろう!?」
一声気合を入れて、ユーインは妖刀を勢いよく地面に突き立てた。すると、堰を切ったように黒い光が噴出した。そのどす黒さに、アルドたちは一瞬で夜が訪れたような錯覚に陥った。
「これは……」
老爺が感嘆したような声を漏らす。そこにあるのは、懐かしさ。失意のただなかで、この妖刀と出会ったあの日のことを思い出していた。そうだ、あの時……。
「……いい度胸ですね。契約するつもりもないのに、この私に呼びかけるとは」
仰々しく丁寧な、それでいて不遜でふてぶてしい声は、妖刀から直接発せられていた。アルドたちはとっさに武器を構える。
「久しいですね、ご老体。お名前は……さて、何でしたか」
「……」
白地しい嫌味に、けれど老爺は答えない。その次に来る言葉を警戒しているかのようだった。
「部外者に呼び出されたのは業腹ですが……いいでしょう、ものはついでです。ご老体、代償の残り半分をいただきましょうか」
「残り、半分……?」
妖刀の気配に気圧されたか、老婆は声を震わせている。
「いかにも。名前はいわば前金。私の力を用い悲願を叶えた暁には、今度は命を頂く約束でしてな」
「……」
老爺が目を伏せる。覚悟はすでに決めているようだ。だが。
「そうさせないために、俺たちがいるぞ……!」
アルドたちが老爺と妖刀の間に割って入る。
「無粋な方々だ。これは私と彼の契約、邪魔立てされる筋合いはないのですが?」
「筋で言えばそうなのでしょう、契約は双方合意の上でしょうから。ですが」
「せっかく叶った願いが、目の前で潰えるのを見過ごすのも寝覚めが悪いもの」
「第一、テメエの呪いは強すぎる。放っておく手はねえんでな」
「……」
妖刀は一瞬押し黙ったあと、ひとりでに宙に浮き上がった。そしてその切っ先をアルドに向け突進してくる。アルドは面食らったが、とっさに剣で弾き飛ばした。
「こいつ、直接俺たちを攻撃するつもりか!?」
「……! 違うわ、あれを見て!」
ラディカが指さした先には、水色の身体をした一体の魔獣。その胸元に、深々と妖刀が突き刺さっている。
「あ、が……っ」
身に覚えのない突然の襲撃に魔獣は状況を理解できていなかったが、そのうち動かなくなった。かと思うと、その身体が昏い紫色に輝き始めた。
「警戒しろ、来るぞ!」
ユーインが叫ぶと同時、魔獣は一気に距離を詰めてアルドたちの目の前に躍り出た。
「ガ、ガアアアァァッ!」
魔獣は断末魔のような咆哮とともに、逆手に握った妖刀を振り下ろす。狙いは、ラディカ。
「させねえよ……っ!」
ユーインが槌を下から上に振り上げて迎撃する。金属がぶつかり合う鈍い音が響き、激しく火花が散る。同時にラディカが杖を振ると、魔獣の身体は赤い炎に包まれた。だが。
「なっ、止まらない……!?」
「ちっ、やっぱりか! みんな聞け! この魔獣は身体を操られてるだけだ、刀自体を壊さねえと勝てねえぞ!」
ユーインは叫んで、なんとか妖刀を押し返した。取るに足らない力しか持たぬ魔獣の身体であるにもかかわらず、この強さ。長引けば不利だ。それに……。
(もしもっと強い魔獣や人間に憑りついちまったら、取り返しがつかない事態になる。こいつは)
「アルド! 説明してる暇はねえが、こいつはここで仕留めなきゃならねえ!」
「ああ! ツキハ!」
アルドとツキハが同時に駆ける。細かい打ち合わせは必要ない、道筋はすでにユーインが示しているのだから。
魔獣、もとい妖刀は二人の狙いを察したか、まずは距離を取るべきと判断した。跳躍のために魔獣の両足に力が籠った、次の瞬間。
「そういえば……占いの邪魔されたお返しを、まだしてなかったわね……!」
ラディカの炎が、魔獣の下半身を……否、足元の地面を激しく燃やした。土は一瞬で乾燥しひび割れ強度を失い、妖刀は跳躍に失敗した。魔獣の体がほんの一瞬、無防備なまま宙に浮く。
その瞬間を、ツキハは見逃さなかった。走る速度を緩めぬまま斬撃を放つ。技の名は不知火、赤黒い妖気と炎を纏った刀による高速の二連撃。目標は魔獣の右手、妖刀を握る手だ。狙い違わず、ツキハの刀は魔獣の手首を斬り落とした。だが。
「なるほど、そう来ますか……!」
ツキハが刀を構え直しながら吐き捨てる。魔獣は妖刀を取り落とさなかった。否、妖刀は魔獣の手首と結合していたのだ。妖刀が魔獣を操っている、という段階はすでに過ぎた。妖刀は魔獣の存在そのものを乗っ取りつつある。
「まだだ!」
ツキハの数歩後方から、アルドが大きく跳躍する。妖刀と魔獣の身体を離せないなら、妖刀を直接狙うまでだ。振りかぶった剣を振り下ろす。
「はあっ!」
垂直の一閃は、確かに妖刀を捉えた。しかし、砕けない。それどころか、刃毀れ一つさせることすらできない。アルドは身体ごと弾き返された。
「くっ……!」
空中で身をひねり、何とか着地する。それと同時、彼の周囲を守るようにユーイン、ツキハ、ラディカの三人が集結した。呼吸を整えて、アルドが口を開く。
「硬いな……バラバラで攻撃しても埒が明かないぞ、これは」
「そうですね……となると連撃、いえ、同時攻撃でしょうか」
ツキハの提案に、ユーインが頷く。
「先陣は俺が切ろう、アルドとツキハは続いてくれ」
「それじゃあ私が隙を作るわ。タイミングは……任せるわよ!」
ひとつ気合を入れ、ラディカが大きく杖を振るう。次々と放たれる深紅の炎を、けれど魔獣は軽い身のこなしで容易く回避する。ラディカは眉間にしわを寄せた。
「さっきまでとはまるで違う動き……どうして」
「もはや彼奴は魔獣の身体を操るのではなく、魔獣と融合しつつあるのでしょうな」
「えっ、爺さん!?」
突然ラディカの傍らに姿を現した老爺に、四人は目を丸くした。
「お爺さん、ここは危ないですから」
「分かっておりますとも。故にこそ、お若い皆様だけに任せてはおけませぬ。もともとは私の問題ですからな、助太刀いたしましょう」
老爺は一歩前に出た。
「ラディカ殿、でしたな。先程までのように、魔法を撃ち続けてくだされ。隙を作りましょう。なに、私のことはお気になさらず」
「……飛び込んでいく気? 危険だわ、何かほかの方法を」
「大丈夫だ、ラディカ」
「アルド?」
アルドの自信ありげな言葉に、ラディカは首を傾げた。けれどアルドの表情に、迷いはない。
「任せていいんだな、爺さん?」
「ええ、もちろん。……恩に着ます、アルド殿。老骨の想いを汲んでくださって」
老爺が言った、次の瞬間。彼の姿はラディカの傍らから立ち消え、魔獣の目の前にあった。驚いて呆けているラディカに、アルドが言った。
「遠慮はいらないぞ、ラディカ。爺さんは強いから」
「……分かったわ、アルドがそこまで言うなら。どうなっても知らないわよ……!」
半ば自棄を起こしたように、ラディカは攻撃を再開した。老爺の言葉通り、彼のことは気にせず、むしろ当てに行くくらいの気持ちで無数の炎を放つ。にもかかわらず、老爺は炎にかすりもしない。振り返ることすらなく、ラディカの炎をかいくぐりながら、素早い動きで妖刀を翻弄している。徒手空拳であるにもかかわらず、その佇まいには威圧感があった。だからこそ妖刀の動きは鈍り、ラディカの魔法が徐々に当たり始めていた。
とはいえ、この状態がいつまでも続くわけではない。老爺の身体、特に腰が心配だ。ユーインが両手で大槌を握り直す。
「……潮時だな。お二人さん、しっかり合わせろよ!」
得物の重さを感じさせぬ速度で、ユーインが魔獣めがけて一直線に突貫する。老爺の動きに視界を遮られ、ラディカの炎で身を焼かれ動きが鈍った魔獣の身体は、ユーインへの対応が一手遅れた。振り下ろされる大槌を、回避を諦めて妖刀で受け止めるというのは当然の選択だった。
当然だからこそ、ユーインたちの読み通りとなった。
「来い、アルドォ!」
熱を帯びた大槌が妖刀と交錯した刹那、ユーインが吠える。
「ああ、任せろ!」
ユーインの後方から走ってきたアルドが、剣を振りかぶって跳躍した。狙うは一点、ユーインの槌だ。振り下ろされた大剣がユーインの槌を力強く叩き、妖刀に大きな衝撃を与える。
「ぬ、ぐ……っ!?」
だんまりを決め込んでいた妖刀が、苦悶のうめき声をあげる。刀身は小刻みに震え、まるで恐怖に慄いているかのようだった。だが、それでも砕けるまでは遠い。もう一手必要だ。故に。
「これで終わりです」
音もなく魔獣に肉薄していたのは、ツキハ。老爺とラディカの陽動、ユーインとアルドの攻勢に気を取られていた妖刀が彼女に気付いた時には、もう手遅れだった。横一文字に振り抜かれた深紅の刃が、妖刀を真っ二つに切断した。刎ね飛ばされた刀身は回転しながら宙を舞い、ツキハの目の前の地面に突き刺さった。同時に、制御を失った魔獣の肉体がその場に倒れこんだ。
「同時に二つの方向から力が加わると脆い……強力な妖刀となっても、それは変わらなかったようですね」
魔獣と刀身、双方に動きがないのを確認して、ツキハは納刀した。すると、彼女を称える拍手が聞こえてきた。老爺だった。
「お見事。見事な剣捌きにございました」
「恐縮です。ですが、あなたの足捌きほどではありませんよ。あのような歩法があるということは知っていましたが、あなたほど使いこなしている人はいないでしょう」
「歩法? 走法じゃなくてか?」
目を丸くするアルドに、ツキハが頷く。
「東方に伝わる、不規則かつ緩慢な動きで敵を翻弄する歩き方なんです、本来は。極めれば走るよりも速くなる、という噂はありましたが……」
「妖刀の力にかまけず、鍛錬した結果って訳だ。呪いを抑えちまうのも頷ける」
「まったく、すごい爺さんだな」
アルドたちの称賛に、老爺は照れ臭そうにはにかんだ。しかしその後、すぐに神妙な顔つきに戻った。
「しかし、悪いことをしてしまったようにも思いますな。彼の言う通り、私は同意の上で彼と契約したのですから」
「うーん、どうだろうな……俺たちだって、相手が妖刀じゃなかったら無理に間に入ったりはしなかったけど……」
「俺たちの都合だと思って諦めてくれ、爺さん。どっちみち、あれだけの代物を放っておくわけにゃいかなかったしな」
二人の言葉に、老爺は深く頷いた。
「皆様の善意は、よく届いておりますとも。その上でひとつ、確認したいことがあるのですが」
老爺は足元に転がる魔獣の亡骸……正確にはその右手、妖刀と結合した部分を見つめている。
「彼奴は、これで終わりなのでしょうか。動く様子も独特の気配もなく、まるで死んでいるかのようではありますが」
「……当然の疑問だな」
ユーインが目を伏せる。その様子は、過去を回想しているようにも見えた。
「そもそも、壊せば止まるかどうかってのが賭けだった。そうならねえ奴もいるからな。まあ、その賭けには勝ったわけだが……この先復活することがねえかどうかは、正直断言できねえ。俺の経験則ではまず問題ないと判断できるが、証拠がねえしな……」
「ふうん、そういうものなのか。それなら結局、放置はできないな」
「ああ。当面は俺が預かっておくのが……ツキハ?」
地面に突き立った刃、その前で片膝をついているツキハの姿に、ユーインは言葉を止めた。アルドと老爺も、不思議そうに彼女を見ている。するとツキハは、おもむろに右手を刃に伸ばした。
「ツキハ、危ないぞ!?」
「平気です、刀の扱いには慣れていますから。それに、柄が魔獣の身体と融合してしまった以上、記憶を読めそうなのはこちらしかありませんから」
「……記憶を、読む?」
老爺が怪訝そうにツキハを見る。当然の反応だ、普通は信じられない。この少女が、触れた武器の記憶を読み取る能力を持っていることなど。
老爺の様子をよそに、ユーインは納得したように大きく頷いた。
「なるほどな。そいつが元から妖刀だったのかそうじゃないのか、最初は普通の武器だったなら何がきっかけで妖刀になったのか……そのあたりが分かれば、はっきりすることがあるかもしれねえな」
「……でも、折れてる刀の記憶って読めるのか?」
アルドの言葉に、ツキハは小さく頷いた。
「普通は無理でしょうね。でもこの刀の力、もしくは怨念や呪いのようなものはきわめて強力ですから、何かを読み取れる可能性はあります」
言って、ツキハはゆっくりと刀身に触れた。彼女の頭の中に、年老いた男の声が流れ込んで来る。それは普段能力を使った時とは僅かに、けれど決定的に異なる感覚。刀身が折れている影響だろうか、映像はなく、音も断続的にしか聞こえない。
――素晴らしい、素晴らしい! 俺の鍛冶屋人生で、最高の出来だ――
――俺はもう長くない、心臓の……――
――この刀は最高だ、究極だ……だからこそ、最強でなくてはならない……そうでなければ、存在している意味がない――
――遣い手に恵まれさえすれば、心を通わせることができれば……この刀は、伝説になる――
「……そういうこと、ですか」
刀身から手を離したツキハは、見聞きしたことを皆に伝えた。最初に口を開いたのは、ユーイン。
「この刀は俺がしばらく預かることにするが……聞いた限りじゃどうやら、問題はなさそうだな」
「どういうことだ?」
「強くなってほしい、強い遣い手に巡り合ってほしいという願いがこの刀を妖刀に変貌させたようだが……同時に、この刀自身にも呪いがかかっていた」
「……最強でなければ存在している意味がない、という言葉ね」
ラディカが同調する。そう、あの妖刀から感じる強い妖気には、妖刀自身にかかっていた呪いも含まれていたのだ。
ユーインが頷く。
「その呪いは恐らく本物で、かつ強力だ。で、この刀は俺たちに負けたわけだから……」
「妖刀としての力を失う、ってことか?」
アルドの問いに、ユーインの答えは間に合わなかった。彼が答えるより先に、妖刀の折れた刀身が細かい光の粒子となって霧散してしまったからだ。空に昇っていく無数の光を見送りながら、老爺が呟いた。
「これで、終わったのでしょうな。皆様、本当にありがとう」
「私からもお礼を。ありがとう、お若くて勇敢な皆様」
二人が深々と例をすると、アルドたちは一瞬面食らった後、微笑んだ。
「いいんだよ、二人とも顔を上げてくれ。俺たちはやりたくてやったんだし、別の目的も……あっ!」
言いながら、アルドはようやく思い出した。けれどもう遅い。あの妖刀は伝説の武器と呼ぶにふさわしかったが、もう跡形も残っていないのだから。
「……ということがあったんだ。だから悪いけど、伝説の武器を持ってくることはできなかった。申し訳ない」
「……」
ユニガンの酒場にて、アルドは件の少年に頭を下げていた。少年はしばらく口をつぐんでいたが、やがて口を開いた。
「ありがとう、兄ちゃん。俺の頼みで、そんな危険な冒険に行ってくれてたなんて。話が聞けただけでも十分だよ」
「……そう言ってもらえると気が楽だよ」
「ところでさ、兄ちゃん。その刀、何て名前なの?」
「え、名前……?」
「うん、伝説の武器には名前がついてるものでしょ。兄ちゃんの剣にもあるみたいだし」
アルドは目を伏せた。あの妖刀に名前などあったのだろうか。
(……いや、考えても仕方ないな。今となっては確かめようがないし)
とはいえ、正直に分からないと答えるのも気が引けた。となれば、今名付けるしかない。強くあれと願われ歪んだ刀。強くあろうと月日を重ね、褒められた形でないにせよ強くなった刀。敗北とともに、自らこの世を去った刀。そしてなにより、愛した女のために人生をささげた男が振るった刀。
アルドはしばらく沈黙を続けた後、口を開いた。
「あの刀の名前は……妖刀『頑固親父』だよ」
伝説の武器を求めて 天星とんぼ @shyneet
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