チマチマ

泉 水

第1話

「まあ、あれだ。こうやって薬草を摘むのも、たまには悪くないだろ。」

身長2メートル越えの大男はそう言い、しゃがみ込みながら、薬草をチマチマと摘んでいる。

傍らには、巨大なメイスと盾、摘んだ薬草を運ぶための大袋が置かれていた。


チマチマチマチマチマチマチマチマ(以下×∞)


俺は飽きが来ていて、いい加減に摘んでいる。

朝から摘み始めて、すでに太陽は頂点を過ぎようとしている。


「なあ、なんで俺達、薬草摘みなんて依頼、受けたんだろうなあ?」

投げやり気味に大男の相方に尋ねる。

俺達は通常は5人組のパーティーを組んでいる。

だが、俺とこの大男の二人を除く三名はつきあいのある他のパーティーの支援のため、とあるダンジョンに向かっており、そのため、まあつまり俺達二人はヒマになってしまったわけだ。


残った俺達前衛の剣士とタンク役の二人、とりあえず何か依頼をこなさないと収入がないので、ギルドで適当に請け負ってきたのが、薬草集め、だった。

薬草と一口でいっても、種類は豊富だ。

傷薬、解熱剤、腹下し、解毒、体力回復などなど、それぞれ効能が違う。

直接食べたりするのではなく、多くは煎じてエキスを抽出し、魔力をこめることで効能を高めたものをビンにつめたりして持ち歩く。

配合次第で、一つのビンにほぼあらゆる効能を組み合わせたものも作ることができるが、その辺は薬師の腕次第だ。


しかし、普段ゴリゴリの前衛役で、バカでかい剣を振り回している身としては、この薬草集め、面倒で、俺達らしくないし、いったい何をやっているんだろうか、と多少情けなくもなってくる。


「そう言うな。普段戦闘でケガしたりしたら、世話になるんだポーションにはよ。こうやって、あまり目を向けてこなかったことを見つめなおすのも悪くないし、何より、裏方と呼ばれる連中への感謝の気持ちが増すだろう。そうすることで、回り回って、俺達もモノを粗末にしたり戦闘で無茶なことをするのを控えたりするようになるんだ。」

大男は、背をこちらに向けしゃがみ込んで薬草を採取しながら、俺にこう言った。


「・・・言ってることはわからんではないがなあ・・・これって、俺達みたいなのがやらんでも、例えばその辺のガキンチョとかでもできることだろ?俺達はだな、冒険者パーティでは、魔物や魔獣とガツンガツンやりあう前衛役、戦士だ。確かに依頼だから、金はもらえるだろうけどよ、こんな軟弱な依頼、受けんでもよかったような・・・。」

そういってプチン、プチンと寝そべりながら草を引っこ抜いていると、相方がすっと立ち上がった。


「軟弱だと?これを見てもそう思うか?」

そう言うと、相方は地面に置いていた大袋の口をくくって閉じていった。

よく見ると、全部で5袋はある。

「ふん!」

相方が大袋を5つまとめて抱え上げ、寝転がっている俺の上にポイポイっと放り投げてきた。

「うわ、おい、何するんだ!」

大袋はそれぞれかなり重く、俺はドスンドスンと落ちてきた大袋5つの下敷きになってしまった。


「どうだな?この袋、そのへんのガキンチョがスイスイっと運べるもんだと思うか?」

相方は両手を腰にあてて、上から問うてきた。


「いや、無理だわ、これ。」

「そういうもんだ、チリも積もればなんとやら、結構な重さになるんだよ。この袋一つで大方ポーション5,6本くらいになる。そろそろギルドへ納入に行くか。」


つつながなく、薬草袋を納入し、得た金で酒場に繰り出した。

「プファー、うまいねえ、この労働の後のは!」

相方は、つまみを口いっぱいのほおばると、一気に酒で流し込んでいた。

デカい分、よく飲み、よく食べる。


二人で、けっこう飲んで食べて、会計をしたら、今日の依頼料からアシがでてしまった。相方はご機嫌よく酔っぱらってゲラゲラ笑っていたが、比較的酔いが浅い俺が会計役をしたのだが、これはあかんわ。俺は身銭を切って、支払いをした。


店を出た。相方はフラフラしながら、

「明日も薬草集め、行くぞー!」と怪気炎をあげている。

俺は思う。

他者や周囲の環境への感謝も大切、普段気に留めていないものへの気遣いも大切、でも一番大切なのは確実に生きて生活をしていくこと。自分が得たもの以上のものを出すことなんてそれこそ無理をすることだ。

そういうわけで、明日はカネになる、もうガチセメントファイトで目の前のことしか目に入らないだろう、巨大オーク狩りに行くことを心に決めた。

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チマチマ 泉 水 @katatsumurikan

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