近づく
5時30分下校のチャイムがすでに人気のない校舎に鳴り響いた。彼はこの音を聞くといつも憂鬱になる。
そんな彼を見つけて声をかけてきたのはいつもと変わらず明るい笑顔の彼女だった
「そんな暗い顔してどうしたのよ、あ、いつもか」
と彼女は不敵な笑みを浮かべて近づいてくる
「前も言いましたけど家に帰るのが嫌なんですよ。理由は言いませんけど」と 釘をさしながら言う。
それでは、と彼が帰ろうとすると彼女は彼を小さな体で通せんぼして
「私もこれから帰るからどっか寄り道して帰ろうよ」と今度は含みのない純粋な笑顔で言うのだった。
彼はとにかく家に帰りたくない一心でいつも遅く帰るための理由を探していた。 そんな彼にとってこの提案はあながち悪い物でも無かったので試しに承諾してみたのだった。
すると彼女はとても意外そうな顔をして
「じゃ、いこっか」と前へ歩き出したのだっ た。」
彼は彼女と普通の学生の放課後デートをした。アイスクリームを食べたり、カラオケへ 行ったりした。僕と彼女のお遊び逃避行のようなデートは終盤になってきた
「もうこんな時間か、最後に映画でも見て行こうよ」彼女は少し寂しそうな顔でそう言った。
彼はもちろん 承諾した。二人は人知れずひっそりとたたずむ古びた映画館に足を踏み入れた。そして二人 しかいない館内でどこの国の物かもわからない作品を見た。
それはDVを受ける女性が耐えきれなくなり不倫をしてしまい、最後には旦那に殺されるというありきたりなアダルティックなB級映画だった。
まだ大人とは言えない彼にとってはその映画はとても退屈な物だった、ふと隣に座る彼女の顔を見てみる。暗くてよく見えない、そう思った瞬間映画はクライマックスを迎え一気にスクリーンが明るくなる。
と同時に彼女の悲しく、儚げな顔が今度は はっきりと見えた。
彼はエンドロールには目もくれず隣に座る美しい女性から目が離せなかっ た。
「それにしてもあの旦那、最低ね!君はあんなのになっちゃだめよ!」
「いやいやならない から」
「最後のあのシーン、奥さんが可哀想だとは思はなかったな。だってさ不倫は絶対だ めでしょ?」
「僕もそれは思うけどDVのがだめだと思うな、どんな理由があろうとも愛す る人を傷つけるのはいけないと思う」
「ふーん、君はやっぱりヒーローみたいだね」
やはり 彼女は悪戯な笑顔を見せてそう言った。
「でもね私は逆の考え方かな、好きな人なら頑張って耐えちゃうかも、その人もなんか事情があってそういうことするんでしょ?私はそれを一 緒に乗り越えたい」
彼女は映画館で見せたあの表情でそう言った。
「ねえねえ君はもし死ぬ ならどんな死に方がいい?」
と唐突に聞いてきた
「何急に。まあやっぱり苦しみたくはない からできるなら安楽死かな」
「私はね、太くて頑丈な縄で首を吊って死にたいな、最初に見 つけた人がびっくりしてくれるでしょ?」
と彼女は無邪気な笑顔で言った。こんな話をして いる時でも彼女は彼女そのものだった。そんな、正直で明るくて、残酷な彼女に彼は少しずつ惹かれていくのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます