青年
田島鼻毛
出会い
ある男子学生の話をしよう。彼はとても真面目で勤勉な学生であった、しかしそんな真面目 な学生はたった一人の女との出会いで大きく変わってしまうのだった。
彼がいつものように朝日のさす教室へ行くと彼女もいつもと同じように朝日に負けない位の 眩しい笑顔で真っ暗な彼の目を見て
「おはよう!今日も早いね、どうして毎日こんなに早くくるの?」
と言って彼の顔を照らしたのだった。
「おはようございます。特に深い意味はありませんよ、ただ家にいるのが嫌なだけです。あなただっていつも早く来ているじゃないですか。」
彼が不健康そうな顔で返すと
「私は早く来て教室の掃除をしているんだ、日課みたいな物だよ、一日の始まりに掃除をして綺麗にするとさ、今日も頑張るぞ !って思えるでしょ?」
と彼女はさらに明るい笑顔で返すのだった。彼は彼女のことが嫌いだった。
人を注意深く観察し、まずは疑いを持って接する彼の曲がった性格からして、彼女のうわべだけの奉仕精神や発言、何よりも朝日のようなあの笑顔がどうにも信用できなかったのだ。
ある日の朝彼はふととんでもない方向に曲がった寝癖も気にせず、大好きなオレンジジュー スを片手に外へ出てみる。そう彼女と初めて出会った日もこんな霧の濃い日だった。
彼がいつものように誰もいない教室へ入るとそこには顔も名前も知らない 女が掃除をしていた。
彼は性格上クラスの人と関わりはせずとも顔と名前は全て把握していたので彼女がこのクラスの人間ではないことはすぐに理解した、と同時に知らない女が教室にいると言う事実が彼を恐怖させた。
彼はとっさに小さい頃に見た戦隊ヒーローの構えをして
「だ、誰だ!お前!」と言った。
その瞬間静寂に包まれていた教室に彼女の甲高い声が鳴り響いた
「ははは、君面白いね!」
やはり彼女はその日の天気には合わない明るい笑顔でそう言った。
「私は今日からこの学校に来たの、これからよろしくね、ヒーロー君」彼女は悪戯な笑顔で彼に言った。
思えばこの時から彼は彼女が嫌いだったのだろう。
「ねえねえ、君は進路どうするつもりなの?」彼女の問いに彼は意外にも真剣に答えたの だった
「うーん、とりあえず就職ってことは決まってます。早く家を出たいので。どんな仕事につくかはまだ決めてませんね、まあ後1年ありますしゆっくり考えますよ」
「君せっかく頭いいのに進学しないんだ勿体無いよ、なんでそんなに早く家出ようとしてんのさ」
どうやら彼女は他人の事情に無関心に突っ込むことが好きなようだ。しかしあって間もない、ましてや嫌いな人間に自分の悩みを打ち明けるなんて事をする馬鹿ではもちろん無かった。
「なんだっていいでしょ、あなたには関係ない」と彼は無愛想に返すのだった
「けちー、そんなだったら彼女できないわよ!」
うるせー余計なお世話だ、と心の中で思ったが、さらに面倒なことになりそうだったのでここは空気を読んでグッと堪えるのだった、とにかく個人的な事情に首を突っ込まずにはいられないお節介な女だった。
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