計画、そして告白

二人はいつものように朝一番に学校へ向かった


「おはよう」風邪でも引いたの?」とマスクで顔を覆った彼女に聞いた。


「何、もしかして心配してくれてるの?」


彼女がいつもと変わない悪戯な笑顔をうかべて返した「少し風邪気味なだけだよ、大丈夫!」


「そっか」とだけ言って彼は席へついた。なぜか重い空気が二人しかいない教室を包んでいた。


その空気を打破するかの如く「あのさ、今度の日曜旅行でも行こうよ」


そう言い放ったのは意外にも彼だった。

しかし、彼女は何も変わらない表情で


「いいよ、私もそれ言おうと思ってた」


二人は少し曇った空とは裏腹に明るい笑顔で笑い合い、そう約束するのだった。


放課後二人は ファミレスに寄り、旅行の計画を立てた。


「旅行ってさ、行く時も楽しいけど計画立ててる時が一番楽しいよね!」


真っ黒なコーヒーを飲みながら無邪気に笑いながら言う。


「確かに、それはちょっと分かる気がする」


と彼はオレンジジュースを飲みながら真面目そうに返す。


「やっぱり温泉がいいな、箱根とか、草津とか!」


楽しそうに旅行雑誌を見る彼女を見て彼はほんの少しにやけていた。


「あ、こことか混浴だよ、一緒に入れるじゃん!」


「ブー!!」彼は顔を真っ赤にしてオレンジジュースをぶちまけた。


彼女がけたけた笑っている。


「ホント君って大人っぽいかと思えば、そう言うところあるよね」とさらに笑う


「す、少なくても公共の場でそんなこと言うあなたよりは大人です!!」


二人は顔を見合わせて同時に笑い出した、周りの人たちは迷惑そうにしているがそんなのはお構いなしに笑い合った。


「あーこんなにお腹の底から笑ったの何年ぶりだろう」


「僕もだよ」


「あ、泊まりの旅行なら君のご両親に挨拶しないとだね」


と彼女が言った途端に彼から一瞬で笑顔が消え た。


「いいんだよ、あの人はほとんど家にいないし僕に興味ないんだから」


「あのさ、この際だから聞くけど君が早く家を出たいのはご両親が原因なの?」


彼女も笑顔を消し、真剣な表情で聞いてきた。彼もその顔を見て、


「そろそろ言わなきゃだよね」と半分残ったオレンジジュースを見ながらぽつりぽつりと話だした。


父が事故でなくなった事、そのせいで母親 がおかしくなった事、母親から暴力を受けている事。


話しているうちに今まで我慢してせき止めていた涙が滝のように流れてきた、耐えきれずに目を前にやると彼女は彼以上に号泣していた。


「なんであんたがそんなに泣くんだよ」


「だって、そんなに大変なことがあったな んて知らなくて。辛かったね、頑張ったね」


その言葉で彼は今までの全てが報われた気がし てさらに涙が溢れてきた。さっきまで大笑いしていた二人は今では大号泣しているという意味不明な現象に他の客は不思議そうな顔をしていたが二人の目には何にも入っては来なかった。

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