別れ
少し落ち着いた後、他愛もない雑談をしてから二人はファミレスを後にした。
時刻は23 時を回っていた二人で鼻をすすりながら夜の雑踏を歩く。
「僕、あなたが好きです」
彼はなんの躊躇いもなくそう言った「ありがとう。でもね気持ちに応えるのは無理なの」
彼は何も言わなかった、というか何も言えなかった。彼は薄々気づいていたのだ、彼女の腕に見えるあざや傷、彼は今まで見て見ぬふりをしていた。
まだ高校生の彼でもなんとなく察してはい た。しかし彼女から話してくれるまで待っていたのだ。しかし彼女は最後まで何も話しては くれなかった。お互いにたくさん言いたいことはあった。しかしこれ以上言うと離れられなくなるとお互いが分かっていた。
「最後まで何にも言わないんですね、先生」
「私この後 待ち合わせがあるからもう行くね、また明日、学校でね」
と彼女はいつもとは違う大人な笑顔をみせ去っていった。
初めて会ったときに見せたあの笑顔も、映画館で見せたあの表情 も、さっき見せたあの泣き顔も、そしてあの言葉も、全てが嘘だったとは思えなかった。彼は気づいたら彼女を追いかけて走っていた。
すると彼女は背の高い男と何やら楽しげに話している。彼と話している時とは真逆の大人っぽい表情、そして少し怯えた表情で話している。
二人の左手の薬指にはお揃いの指輪がついていた。
「そっか、やっぱりそうだったのか」
彼がその場を後にしようとするとほんの一瞬彼女と目が合う。彼女はなんとも言えない申し訳なさそうな同情に近い表情を最後に残し、男と楽しげな雰囲気で東京の雑踏へ消えて行った。
彼は何も考えずに帰路についた。帰り道にブラックコーヒーを買って半分飲んで捨てた。そして太くて硬い縄を買い家へ帰った。
「昨夜、都内のアパートで縄で首をつった男子高校生、田中亮太さん17歳が発見されました。 自殺の原因は母親からの身体的虐待によるものとの事です。警察は母親から詳しく事 情を聞き調査を進める方針です」
「これ、うちの近所だな。まさかお前のとこの生徒じゃな いよな」
「さあ、どうだろう」
彼女はなんとなくコーヒー片手に霧が強い外に出る。
「そっか、あの子亮太君っていうんだ」
彼女はコーヒーのような真っ黒なスーツに身を包み「行ってきます」と震えた声で言い、今日も学校へ向かうのだった
青年 田島鼻毛 @Hanagekatta-
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます