ラビットちゃんとダンジョンREX‐【レックス】‐
渡貫とゐち
1章 泥棒ウサギと攫われたラビットちゃん【語り:クマーシュ】
第1話 持てないお宝たち
「おい、クマーシュ、また宝箱を見つけたぞ」
「罠かもしれないから、あんまり不用心に開けない方が……」
道の真ん中、俺たちを阻むように置かれている宝箱。
明らかに罠だろうとしか思えない位置だった……。
ダンジョン内の宝箱は持ち運びができないため、位置は固定されているのだけど、
だからこそ、ダンジョン側が仕掛けた位置って事になる……、怪しい……。
念のため、スルーしておくべきだと思う。
「だよなー」
言いながら、ラドが開けた。
――開けた!?
咄嗟に腕で顔を隠すが、なにも飛び出してはこなかった。
周りに、魔獣の気配もない。
ダンジョンのギミックが動くスイッチでもないらしい。
宝箱の中身は、
「……まただ」
「もう持ち切れないぞ、これ」
「カバンも財布もぱんぱんだからね」
いつも通りの軽装なのが仇になった。
しっかしまあ、と、ラドが疑問を投げかけてくる。
俺も、答えを持ち合わせていなかった。
「なんでこんなに大量に、宝箱と金があるんだろうな?」
ラドと出会ったのは今朝だ。
今朝、というのも、正確なのか分からないけど。
俺が起きて、すぐだったから、まあ、今朝と言ってもいいのかもしれない。
なぜなら洞窟の中、景色は変わらず、石壁に囲まれている。
外の光はなく、誰かがつけてくれたのだろうランプが、道を照らしているだけだった。
だから外は夕方かもしれないし、深夜かもしれない。
しかし、不規則な生活を送っているわけではないし、
体内時計が狂っていなければ、眠くなった時が夜というのは変わらないのかもしれない。
ダンジョンのなか自体が、外の時間と狂っていなければ、の話だが。
九九九アルマまでは、
一アルマ、一コイン――、
(十と百、それぞれ一枚で、同価値のコインもあるのだが、今のところ出現していなかった)
千アルマからは、数えやすく紙幣になっている。
ここまでで、俺たちが手に入れたお金を、数えてみる事にした。
これまで、宝箱を開けては持ち運べないからと諦めてきたけど、
カバンの中のスペースを圧迫しているのは、多くのコインだ。
だからコインを捨て、紙幣を詰めてしまえば、
いま以上に高額を持ち運べるのではないか、と考える。
道の先、誰かが使っていたらしい、たき火の跡を見つけた。
つまり、ここは魔獣が近寄ってこない場所になる。
先人が見つけた、セーフティポイント。
腰を下ろし、俺とラドは、同時にカバンを地面に落とす。
「いやー、疲れたー。全身に重りをつけてるようなもんだもんなー」
「ようなもん、というか、そのままそうだけどね」
ポケットにぎっしりと詰めているコインは、
普段、つけるような重りよりも、だいぶ重いんじゃないだろうか。
なんでコインばっかり……。
そう言えば、出会った時から既にぱんぱんに持っていたな、コイツ……。
俺も人の事は言えないけど、カバンが小さ過ぎる。
紙幣だって、(一枚、一万アルマ)百万アルマの束、三束くらいしか入らなそうだ。
じゃらじゃら、と、
洞窟内に響く音で、魔獣を呼び寄せてしまいそうでひやひやした。
しかしまあ、コインが多い多い。
最初はテンションが上がって、俺もかなりの数をテキトーにカバンやポケットに詰めてしまっていたけど、明らかにおかしいと気づいた。
多過ぎる。大盤振る舞いだ。
そういうボーナスダンジョンだとしたら、今の俺たちの心配は無駄なんだけど……、
ラドは心配なんて、していないのだろうなあ。
そもそもで、ラドはトレジャーハンターではなく、魔獣ハンターだ。
宝箱に興味などないだろう……、ハンターとしては。
しかし、人ならば、飛びつくのは当たり前だった。
「うん、かなり空いたな」
コインだけを弾いたら、カバンの中はすっかすか。
ポケットがかなり軽くなった。
うんざりしていた移動も、これなら楽だ。
「多過ぎるお宝は、持ち運ぶのがネックなんだよね。
台車とかあれば……、でも目立つし、盗賊とかに狙われるし。
やっぱり貴重なお宝、一品の方が楽かもしれないなあ」
「そのコインはぜんぶ捨てるのか?」
もったいねえ、みたいな顔をするラド。
気持ちは分かるけど。
でも、全部を持って帰れるわけじゃないから、仕方がないんだ。
「そういうラドだって、そのコインは置いていくんでしょ?」
まあな、と笑う。
俺を非難しているわけじゃない。
ラドらしい、コミュニケーションなのだ。
「捨てるにしてもね、まあ、ただでは捨てないよ。
というか、実際は捨てない。置く事で利用する」
金は嫌いだ。
だから、とことん利用してやると決めたのだ。
「今更だけど、道に迷った時のために、歩いた道に置いておく」
辿っていけば戻れるように。
ダンジョンの四層まできてやる事ではないだろうけど。
「いま……何層だ?」
確か……五、いや、六層くらいじゃないかな?
言うと、ラドは、そんなもんか、と両手を合わせて頭の後ろへ。
俺たちは、二人、並んで歩く。
会話は多くない。気が向いたら喋るくらいだ。
主にラドが。特に、俺から喋る事もないし。
「何層まであると思う?」
「外から見たダンジョンの大きさを考えると、十……、いや、倍以上はありそうだけど。
ただ、ダンジョンって、中に入ると無限空間になるらしいし、
外観とか、あまり判断材料にならないらしいよ。
木造の小さな家なのに、
入った後に、別の扉から出ると、森の中に繋がっていたってこともあるし」
まあ、聞いた話だけど。
しかも話しかけたわけじゃなく、飲み屋の後ろの席に座っていた、
二人組の客の話を盗んだだけだった。
だからまあ、冗談かもしれない。
けど、俺がこれまでに入ったダンジョンも、見た目以上に、
中が広いなんてざらにあるので、大嘘ってわけでもない。
「ラドは初めてなのか、ダンジョン」
「超初めて」
なにが超なのかは分からないけど。
普通の初めてがあるのか?
「一度、入ってみたかったんだよな、ダンジョン。
けど、近くにくるといつも先に攻略されちまってよお、入れなかった事が多いんだ。
タイミングが悪かったんだなあ」
四度、それが続いたらしい。
運も悪いよ、それ。
「で、今回のこれがやっと入れたダンジョン。いやー、面白れぇ」
このダンジョンは数あるダンジョンの中でも、暗くてつまらない方だけど、
それは言わないでおこう。
初めてでテンションが上がっているラドに、水を差すのも悪いし。
頼んでいないとは言え、助けてくれた恩人だ。
俺がこうして共に行動しているのも、その恩を返すためだったりする。
利用していると言うと、言い方が悪いので、相互協力。
まあ、助け合いだ。
ラドは、二層で迷子になっていたのだ。
分かる所まででいいから案内してくれ、というのがラドの求めるもの。
その時は、断るのも面倒だったので、ああいいよ、と了承したけど、
二層で迷っていたラドが三層、四層と共に進んで、分かる場所に辿り着けるわけがない。
ゴールまで一緒にいかなければいけないパターンだ。
別にいいけどさ。
こっちもまあ、魔獣を倒してくれるのは助かっている。
「クマーシュは弱いよな」
と、ラドが唐突に。
「否定はしないけど、失礼だな。
そりゃ、魔獣ハンターに比べれば、トレジャーハンターは弱いだろうよ」
「おれが魔獣から助けた時、ずっと逃げてたもんな。
しかもぜんぜん逃げられてなかったし、ぐるぐる周りを回ってるような感じだったぞ。
ちょっくら、俺が指南してやろうか?」
歩いているだけでは暇なのか、体を温めるような、
ちょっとしたジャンプをしながら、聞いてくる。
……暴れたいのかなあ。
魔獣も全然こないし、欲求だけが溜まっているのかもしれない。
あと、別に逃げられないわけじゃない。
あの時は、とにかく魔獣の後ろを取りたかっただけなのだ。
逃げようと思えば逃げられた。
立ち向かう勇気は、なかったけども。
そうやって
うーん……いま、『あの時は実は逃げられたよ』と言うのも、格好悪いかなあ。
ラドに格好つけたいわけじゃないけど。
「そうだね、じゃあちょっとお願い。
僕は、戦闘に関してはド素人だからね」
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