この世界の裏側にはすべてに占い師がいる

ちびまるフォイ

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「我が社を志望した理由を教えて下さい」


「はい、邪馬台国株式会社からは多くの有名な占い師を排出し

 私も御社で腕利きの占い師となりたいからです!!」


「なるほど、たしかに君はペーパーテストでも好成績。

 これまでの資質テストもすべてトップで合格している」


「それじゃあ……!!」

「ああ」



「不合格だ」


「はい?」



「不合格にすべきだと占いで結果が出たそうだ」


「ちょ、ちょっとまってください!

 そんな不確かなもので俺の未来を決めるんですか!?

 それじゃなんのための試験だったんですか!」


面接官のひとりに含まれている占い師は水晶に手をかざした。


「み、見える! 見えますぞ! こいつはやがて世界に災いをまねくと!!」


「水晶になにも映ってないじゃないですか!」


「占いを信じないものには悪しき鉄槌がくだるだろう!」


「うそつけ!!」


「不採用という鉄槌がーー!!」


ということで不採用になった。

どれだけ試験を好成績で収めても努力でどうにもならない部分で落とされる。


面接終わりには好意的に評価してくれていたひとりが声をかけてくれた。


「すまないね、みんな君のことは優秀だと思っている。

 でもうちは占い師の助言には逆らえないんだよ」


「なぜ占い師の力なんかに頼るんですか」


「みんな自分に自信がないんだよ。面接官なんてたいそうなことをしているが、

 人を見る目なんて誰ひとりありはしない。自信もない。

 だから占い師の助言で見る目なさをごまかしているんだ」


「そんな……」


この世界はすべて占いに侵食されてしまっていた。


自分以外の誰かが決断してくれれば、仮に間違っていたとしても矢面に立たされることがない。

お互いに批判し合うこの世界では占いによる決定はみんなを救ってくれていた。


「くそ……なにが占いだよ、バカバカしい」


腹が立ったので、この世界の人間がいかに不確定な占いに頼っているのかを見せつけるため占い館をはじめた。

大きな失敗をしたときに"占いなんてあてになんてーよ"と嘲り笑ってやる。


「今、この店はやっているかね?」


「あ、へ? ああ、いらっしゃいませ」


「ちょっと占ってほしいことがあるんだよ」


「ええ、ええ。うちは古今東西、森羅万象あらゆるジャンルを占えます。凄腕なんで」


「実は、やるべきかやらないべきか悩んでいることがあるんだ。占えるかい?」


「余裕です。まかせてください。占い始めますね」


「ちょ、ちょっと待て! どうして服を脱ぐ必要があるんだ!」


「うちの占いはちょっと特殊でして。お尻と下着の間に挟んだ割り箸を割ったときの場所やヒビで占うんですよ」


「別室でやればいいだろう!?」

「調理工程を見せる料理屋さんだってあるでしょう? ふんっ!!」


お尻に力を入れて食い込んだパンツが割り箸を両断する。


「むむっ……このヒビ……! この割れ方……! 見えましたよ。

 あなたは12月28日に行動を起こすのが吉とでています!!」


「ありがとうございます!!」


最初の客は嬉しそうに去っていった。

占いどころか小馬鹿にしていたのにも気づかなかったらしい。


「ハハ、ほんと占いを信じるなんて……」


翌日のこと、近くの宝くじ売り場で1等が出たとでかいノボリが掲げられていた。

嬉しそうに笑う当選者の写真には、見覚えのある顔があった。


「まじかよ……昨日のおっさんじゃん……!!」


あまりに良く出来すぎたサクセスストーリーに占った本人が怖くなった。

まるで自分が当選するようにズルをしたように思われかねない。


すると、周囲には黒いスーツを着た男たちに囲まれていた。


「ちょっと、こちらへ来てもらえますか?」


丁寧な言葉なのに服の下に隠されている胸筋が、逆らえば殺すと訴えていた。

沿道に止まっていたダックスフンドより胴の長い車に乗せられると、車は動き出す。


「……君かね、あの宝くじ当選をぴたり当てた占い師というのは」


「いや、あの、それは、えっと……!」


嘘っぱちだといえば嘘の占いで金を得ていたことがバレる。

かといって、当選を当てたと言えば不正を疑われる。


行き場の失った言葉は体をぐるり回って冷や汗となってしたたる。


「こ、殺されるんですか、俺……」


「殺す? どうして? 私は君をスカウトしにきたのだよ」


「スカウト!?」


「私は政治家でね。君のような能力の高い占い師を探していたんだよ」


「うそん!?」


「報酬はほしいだけくれてやろう。どうかな。君も内閣おかかえの占い師として働いてみないか」


「ぜひぜひぜひ!!」


車は政治の中心地へと到着した。

占い師専用のVIPルームに通されると山のように書類が積まれていた。


「君にはここにある書類をそれぞれ占って、正しい決断をしてほしい」


「え、俺がですか!?」


「もちろん、そのために連れてきたんだから」


「たしかに占いはできますけど、こんな大事な決断なんてできませんよ」


「いいんだよ。どうせどちらを選んだところで文句は言われる。

 文句に合わせれば正しい結果にもたどり着けないし、ひいては私は責任をとって辞めることになる」


「……はあ」


「君の占いなら、きっといい結果を導いてくれると信じているよ」


それだけ言われると部屋のドアは閉められた。

最初こそ何がよくて何が悪いかを、政治家の影武者として判断しようとも思った。

あまりに時間がかかりすぎるたので占いもほどほどに順番に「賛成」と「反対」のハンコを交互に押していった。


「はぁ……終わった……こんなに決めることがあるのか」


交互にハンコ押したとバレないように書類を積み直していると、

ふたたび政治家が戻ってきた。


「終わったかね?」


「はい、ちょうど終わったところです」


「はて。君の占いは割り箸を使うものと聞いていたが、ずいぶんと部屋がキレイだね」


「あーー! あれは軽く占うときです! 本気のときはVR割り箸で行うんです!!」


「まあいい。とにかく占ってくれてありがとう。これで安心して提出できるよ。

 これはタクシー代とお小遣い代だ」


「重っ! こ、こんなに!?」

「口止め料もほしいかね?」

「いえいえいえいえ!! もうけっこう!」


使い切れないほどのお金をもらい、どう使い倒してやろうかと考えて外に出た。

門の外にはベールをかぶったわかりやすい占い師が待ち伏せていた。


「あなた、新人占い師ね」


「え?」


「ちょっとこっち来なさい」

「ひえぇぇ!」


体育館裏に呼び出されるいじめられっこのように路地裏へ連れ込まれる。


「更衣室で聞いたのよ。新しく新人占い師が来るって話を。

 それでこの寒い外でずっと待ってたの」


「はぁ……俺のファンとか?」


「そんなわけないでしょ。あんた、今日の分の書類はちゃんと合わせた?」


「合わせる? なにに?」

「占い師の回答と、よ!!」


「いや……」


女占い師は頭を抱えてしまった。


「なんだよ。俺がなにしたっていうんだ」


「あのね、私たち内閣おかかえの占い師はみんな模範解答をうつしているのよ。

 でもあなたは新人だからその回答と一致していない」


「そんな口裏合わせがあったのか。でも俺の担当議員ひとりだけが孤立するってだけだろう」


「そういう問題じゃないのよ。少し考えてみなさいよ。

 朝の星座占いがチャンネルによって1位がバラバラだったらどう思うわけ?」


「……信用できないなって思う」


「あなただけが別の答えだしたら、誰ひとりとして占ってないことがバレるのよ!

 今からすぐに戻ってこの模範解答に写し直してきて!」


「わ、わかったよ! この模範解答はちゃんと占われてるんだな!?


「それは鉛筆転がして出た答えで決めただけよ」


「小学生か!!」


占い師たちが使う模範解答を握りしめたまた部屋に戻った。

誰にも見つからないように深夜に「賛成」「反対」の答えを書き直した。


誰かが違う答えを出してしまったら、自分だけ占いの精度が低いか、他の占い師全員が間違っているかの議論になってしまう。

そうなればおしまいだ。


「お、終わった……全部ちゃんとコピーしきったぞ……」


うっかり手元が狂って違う答えにならないよう見直しもしていたら、

すっかり夜は更けて朝になってしまっていた。


部屋の机で突っ伏していると、議員が部屋にはいってきた。


「おや、こんな朝早くからいるのか」


「え、ええ……今日は早朝が吉と出ていたもので……」


「それはいい。今日は新しい法律を決める会議が行われるから吉日ならなおさらだ」


「なんて内容なんですか?」


「それは知らない。この書類を全部見るなんて無理に決まってるだろう」


「はは……そうですね」


それを夜なべして何度も見直した自分は苦笑いしかできなかった。

部屋を出る力もなくて、部屋にあるテレビで会議の様子を見守っていた。


どの内容についても占い師の指示通り、すべて賛成と反対が満場一致でサクサク進んでいく。

ものの10分ほどで最後の法律が決まった。



『それでは、"占い師廃絶法案"も賛成多数により可決いたします!!』



驚きのあまりに挟んでいた割り箸を割ったのが、占い師としての最後の占いだった。

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