あとがき
「御歳ドライフラワー」を最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
作者の燈 歩です。「みず」という作品に続き、2回目のあとがきです。今回もやっぱりちょっと緊張しています。
今作「御歳ドライフラワー」はいかがでしたでしょうか。今回のあとがきでは、今年2020年の燈 歩の活動の振り返りを、今作のお話と合わせて書いていきたいと思います。ちょっと長くなりますが、よろしければお付き合いくださいませ。
燈 歩の活動は今年の3月から、コンビでスタートしました。そこから今日まで9ヶ月間、今回の「御歳ドライフラワー」で28本の短編を書き上げることができました。長編も合わせると30本以上。正直、こんなにたくさん書くなんて思ってもいませんでした。
というのも、書き始めた当初は、書き上げた作品に対して意見や感想を言われることが、書き手の私が嫌で嫌でたまらなかったからです。自意識とプライドの塊ですね。意見や感想を言ってもらえること自体が貴重なのに、勿体ない……。その傾向は初期作品にも表れていると思います(未だに顔を覗かせる時もありますが)。
そういうわけで燈 歩はコンビで活動しているので、まずは書き手の私にはない価値観や自分の持っていない視点で物語を書くという練習を始めました。ですが、言われている意味は分かっても、書く段階でどうしてもそうしたくないと我が強く出てしまうことが多発。書きたくない、でも書かなくちゃと、壁にぶつかっては落ち込み、喚き、でも設定した〆切は待ってくれないし……と、ぐちゃぐちゃになりながらもなんとか書き上げ、それでもやっぱり納得いかず、というような時期でした。だいたい4、5月の頃です。今振り返ると、2020年の中でこの頃が一番苦しく、また一番楽しい時期でした。支えてくれる読者の方や、切磋琢磨し合える仲間たちに多く出会えたのがこの頃だったからです。
その他人の価値観で書くことに慣れてきたら、今度は自分はこうしたいとか、こんな結末にしたいとか、こんなキャラクターにしたいという欲求に駆られるようになりました。それまでは、「~したくない」だったのが「~したい」に変わった時期です。他人の価値観で書いていたら、自分の中の価値観や方向がうっすらと見え始まったんですよね。そのことを自分でちゃんと意識するようになったのは、7月くらいのことです。作品には6月頃から出ていると思います。
その後、テーマだけ投げられて自分の思うように書くようになったのが8月頃。作品の傾向も変わったと思いますし、その辺りは分かりやすく作品に反映されていると思います。私の攻撃的で人間的に未熟な部分が、攻撃的で未熟な文章のまま書かれていますね。でも書き上げた当初は、かなり満足していたんです。ただただ、自分の内面を作品に出すことが面白かった。新しいおもちゃを与えられた子供のような感覚でした。
そして11月以降。今度は読んでくれる人のことを考えるようになりました。まだまだ至らない部分ばかりですが、こうして物語を書いてきて初めて、読んでくれる人を意識して、自分のことをぶつけるだけじゃない目線を発見しました。8月頃からの作品の閲覧数やリアクションがどんどん薄くなったことも、気づくきっかけになった理由の一つです。自分だけが気持ちいい作品では意味がない。読んでくれる人あっての作品なんだ。そういうことを考え始めて、このままではいけない、どういうものだったら読んでもらえるかな、と。頭では分かっていたことが、体感を持って知ったのがこの頃です。
そんな変遷があり、今作の「御歳ドライフラワー」は初心に戻って、他人の価値観で書くことを意識した作品になりました。その中で、どう書き手の私らしさを出すかということも考えました。上手くミックスさせられるように、あれこれ悩みました。
他人の価値観で書いて欲しいと思っている範囲と、自分が書ける範囲と、書きたい範囲のミックス作業の繰り返しです。プロットから何度も脳内でボツにして、実際に書いている時も何度も修正を重ねましたね。今まで書いてきた短編で一番修正を加えた作品です。
文字数も当初5000字だったのが、どうしても収まりきらず、また、より丁寧に書きたかったこともあって倍の10000字に。汲み取り切れていない部分もまだありますが、4、5月の頃からすると、だいぶできるようになったな、という手応えがあります。
と、なんだかちゃんとしているふうに書いてきましたが、その渦中にいる時はまるで分からなかったことばかりです。今にして振り返ってみたら「ああ、こんなふうに思っていたな」ということに、ようやく気づけた感じです。
「御歳ドライフラワー」の主人公は、書き手の私自身がモデルです。私自身「めんどうくさい」ことからすぐ逃げたがる人間で、逃げておいて、できなかった理由を他者や環境、状況のせいにして、自分を正当化することばかりしてきました。未だに根強く、その感覚はありますし、気を抜くとすぐどこかへ行こうとしてしまいます。
でも、この書き手として、燈 歩の活動は逃げずに積み重ねられた。途中逃げ出しそうになったことは数知れませんが、書くことを止めなかった。
書くことを止めなかったのは、応援して支えてくれる読者の方がいて、それぞれの目標に向かっている仲間たちの存在があって、コンビの相方が辛抱強く一緒に歩いてくれたからです。一人だったら、とっくに止めてしまっていました。関わりを持ってくれた人たちに本当に感謝しています。ありがとう。
地道にコツコツと努力することは、しんどいことこの上ないです。でも、確実にどこかへ移動していることが分かる。それがこの9ヶ月、短編を書いてきて感じたことです。
無駄に見えても、結果が実らなくても、それを重ねてきた今の自分は、過去の自分とは絶対に違う人間になる。「御歳ドライフラワー」ではそこまで描き取れていませんが、振り返るとかつての自分とは違う場所に確実に居て、自分の後ろに道ができているような、そんな光を残したつもりです。
……長く書きすぎました。言いたいことを簡潔にまとめる能力値が低い、自分の文章力を呪います。
最後まで読んでくださって、ありがとうございました。
ではまた、別の作品で。
御歳ドライフラワー 燈 歩 @kakutounorenkinjutushiR
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