第2話 エイナザ山
チビ助、もとい、テオドラとせっせと山を登りながら、サフィナは額の汗をぐいと拭った。
ここはエイナザの山。この国が神聖化している火竜の住む山なのだ。火竜に縋るなんて、全くもって発想がお子様である。
予言師の暴言を火竜の神託で覆す。
そんな話を聞いた時には上手くいくものか、と渋面を作ったが、かと言って他にいい案も浮かばなかった。
話し合いに夢中な両親を部屋に残し、二人馬を駆ってここまで来た。
折角時間を掛けておめかししたと言うのに、台無しだ。化粧だって剥げ掛けているのではなかろうか。考えたくも無いが、この熱気では、そんな物を取り繕う余裕も無い。
馬は麓に置いて来た。もし火竜に出くわして逃げられでもしたら、たまったものではない。
サフィナは少しばかり気を紛らわせたくて、せっせと前を進むテオドラの背中に声を掛ける。
「ねえ、もしかしてあなたも婚約者がいるの?」
「いや……」
少しだけこちらを振り返り、テオドラは気まずそうに目を逸らした。
「好きな人がいるんだ」
なるほど。
「想いが届くといいわね」
そんな事を口にしてサフィナは再び山登りに集中した。
流石にドレスで山登りは出来ないので、こっそり夫人の乗馬服を失敬して来た。多少サイズは大きいが、ドレスよりかは遥かにマシである。
とにかく竜に会わなくては。そしてこの結婚に異を唱える「竜の加護」を、なんとしてももぎ取るのだ。サフィナは竜がいるであろう山脈を睨みつけた。
◇
「……」
後ろを黙々と歩く少女に、テオドラは少しばかり動揺していた。……なんというか、もっと文句が飛んでくるかと思ったのだ。
自分で言い出したものの、こんな岩肌剥き出しの山登りなんてした事は無かった。しかも火竜の放つ熱気のせいで、暑くて仕方が無い。
後ろを歩くのが、テオドラが知っている社交界の令嬢だったら、或いは好意を持ったあの令嬢だったら……考えただけでゾッとする。
……早駆けが自分よりも早かったのは、少しばかり悔しかった。
けれど今は黙々と後ろを歩く少女に勇気づけられる自分がいて、妙に背中が温まる気がした。
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