最終話:平和より自由より正しさより

『ヲタクくん! たった今計算してみたんだが……あの流星は地球に落下する様だ!』

「何だって……?」

『人類の頑張らなすぎだ! いたずらに生活圏を拡げておきながら隕石の防御を怠るから!』

 流石に何も言えなくなるヲタクくん。

『よもやよもや! 俺が手を下すまでもなかった! やはり人類は滅びる運命だったようだな!』

 そんなことを言い出すチャラ男。

「ええい!」

 居ても立ってもいられず、ヲタクくんは操縦桿を繰り出した。

 飛翔する〈0グンタマ〉。咄嗟の行動に目で追いながらチャラ男が叫ぶ。

『何をする気だ!!?』

「たかが流星石ころ一つ、0グンタマで押し返してやる!!!」

『馬鹿な真似は止せ!!!』

「僕は君ほど世界に期待していなければッ!!! 君ほど人類に絶望もしちゃいないッ!!!」

 その一言にハッと息を飲んだ。

 ヲタクくん、やる気だ。

 そう察すると、チャラ男もまた機体のスロットルを最大まで吹かしていった。

「0グンタマは伊達じゃない!!!」


 いち早く流星に組み付いた〈0グンタマ〉が、正面より横にずれた位置で押し出した。

 地上で物体を押すのとは勝手が違う為に正面で止めるのはナンセンスであった。脇から押すことでことでやり過ごそうということだ。

 それでも、一機ではどうしようもないのも事実だった。

 地球の重力に捕まってしまう前に何とかしなければ。

 その時。

『君ばかりに良い思いはさせんよ!』

「チャラ男……反乱軍まで!!!」

 隻腕の〈パリピー〉が、左腕にシールドを携えて〈0グンタマ〉の隣で流星を押し始めたのだ。

 さらに取り巻き達まで……今までこんなに居たのかというぐらいに集まる。

『地球が滅ぶかの瀬戸際なんだ!!!』

『やってみる価値はありますぜ!!!』

 皆、それぞれに恨む人は居ても、地球そのもの人類そのものまでは恨んでいなかったということだ。だが。

「やめろ……来るんじゃない!!! ギリギリまで持っても断熱圧縮とオーバーロードで自壊するだけだ!!!」

 言わんこっちゃない、とばかりに、一人、また一人と脱落していく。

 瞬く間に半数以上が居なくなっていた。

『光を見た』

 ふと、そう切り出したチャラ男。

 その機体の〈ピーコフレーム〉が光輝いていた。

『暖かな光だ。だがこの暖かさを以てしても、人は地球すら食い潰す』

 その言葉に反応するヲタクくん。

「ああ、そうだ。それでも……いや、だからこそ。僕たちが世界に人の心の光を見せなきゃいけないんだろう!」

 肯定する。チャラ男の失望を。それでもなお、彼は人類の可能性も肯定した。

『あぁ。だから……もう一度、未来を信じてみようと思った』


 次の瞬間。オーロラの様な光が拡散していく。

 必死に取り付いていたうちの〈0グンタマ〉と〈パリピー〉以外の全ての機体がそれに呑み込まれ、さらわれては後方へと流されていく。

 濁流にも似た勢いの光に小惑星が、ほんの少しずつ削られていく。

 削れていくうちに、小さく軽くなっていく為か。地球に対して公転する様な軌道を描きながら、光に押される様に段々と地球から距離を離していく。


 つまみ出された者達は生きていた。皆、後ろから来た母船に保護されることになる。


 光が収まった。


 そうして、気が付けば。


 先程まで小惑星だったもの。


 光の荒波に飲まれて削られていったそこには、一輪の花が咲き誇っていた。





 二人の行方は誰も知らない。

 もしかしたら、あの花になった流星に取り残されているかもしれない。

 衛星軌道で地球の周りをぐるぐる回る第二の月になった小さな流星大きな花には謎の力場が滞留している為に数年は近寄ることができないらしい。


 だが、彼らの行動には意味がもたらされていた。

 ヲタクくんの妹──久利須零クリス レイの働きにより、彼らの戦いが、彼らの意志や想いが、全世界に公開された。

 今はものすごく小さい波だが。人々の意識は、少しずつ、確かに変わっていく。そう、信じて。





逆襲のチャラ男

  ーENDー


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逆襲のチャラ男 王叡知舞奈須 @OH-

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