君の声を聞かせて
美羽
第1話
「今日の午後6時頃、中学3年生の女子生徒、
桜が満開に咲く中学卒業式の後、彼女は何も言わずに死んだ。
お葬式は生前の彼女に似つかわしい真っ青な晴天の日に行われた。
私は彼女のお葬式にもお通夜にも出席しなかった。
母親に出席を強いられたが行けなかった。
その理由はただ一つ。
彼女の死を受け止めたくなかったから———。
なんで死んじゃったの………?
彼女のお葬式がとり行われた次の日。
私は自分の部屋でただ愕然としていた。現実を受け止めきれなかった。
親友が死んだ—。私にとって生涯必要とする人が死んだ。
私は泣いた。きっと声が出なくなるまで泣いた。泣かないと自分の感情をどうしていいか分からなかったから。「かなぁ………うっーかなぁぁぁぁぁぁ」嗚咽と共に涙がベッドに吸い込まれていく。
私は佳奈の優しさと現実の当たり前に甘えていた。甘えていたんだ—。
分かってる。呼んだって戻ってくるはずがないことは。返事をしてくれないことは——。
わぁ……嬉しい!今日からこの高校に二人で通えるんだね!私は今日から通う校舎を見上げた。「楽しみだね!佳奈!」そう話しかけて隣を見たが彼女はいない。そっか。佳奈はもういないんだ。急に現実に引き戻される。高校受験を合格という締めくくりで一生を閉じた彼女。
本当はここに一緒に立つはずだったのに………。
同じ緊張感と興奮を覚え、楽しい日々に期待で胸を膨らませるはずだったのに。
悔しさと悲しさが入り混じった気持ちはとても複雑だった。
高校生活は憂鬱で、ただただ暇だった。高校では友達を一人も作らなかった。部活も入らなかった。
部活は、中学時代、つまり彼女がいた頃は二人で演劇に入っていた。でも、彼女がいない今、やる気なんて当に失せていた。何を頑張ればいいの………。何に興味を持てばいいの……。
私は高校に入学してから決心をしたことが一つある。
それは笑ったり泣いたりしないこと—。
感情がない人間になること。
笑ったり泣いたりすることは天国にいる彼女を裏切ることだ。
彼女がいることで私は感情が豊かになったと思っている。
楽しい時、面白いときは笑って。
苦しい時、辛いときは泣いて。
自分を抑えることなく自由に感情を表に出すことができたのは中学生までだった。
高校入学当初はクラスメイトの一人や二人が興味半分で話しかけてきたが私が気乗りしない返事しかしないからかみんな私から離れて、今では遠巻きにこっちを見てヒソヒソ話している始末だ。でも、気にしなかった。気にできなかった。親友の顔を思い出すだけでも辛いのに。
気にできるわけない………。
でも、クラスメイトが笑っているのを見ると少し羨ましかった。私だって、中学の時は笑っていたのに。自然に笑えたのに。周りともうまく付き合えたのに。私は佳奈がいなくなってから笑うということ、感情を表に出すことを忘れていた。
佳奈がいてくれたら………。と何度思ったことか。でも、彼女はもうこの世にいない。
そう。私を置いて先にあの世に行ってしまったのだから—。
全く代わり映えのない毎日から一ヶ月。
朝のホームルームの時間に担任が嬉々としてこう言った。
「今日から新しい仲間がこのクラスに増えます!」
教室中が蜂の巣をつついたような騒ぎになった。「男の子かなぁ?女の子かなぁ?」「うちは男の子がいい!でも、イケメンがいいなぁ」「うちのクラス女子少ないから女子がいいんだけどぉ」「男子の方が少ないに決まってんだろー」
「はいはい、静かにして。じゃあ入ってきていいわよ」
担任は呆れた顔をしてドアに目を向ける。それを生徒たちの目が追った。
ドアに教室中の視線が集まる。
「今日から新しく入るクラスメイト、
「古城花菜美です。よろしくお願いします」
転入生は細い体を丸めてぎこちなくお辞儀をし、微笑んだ。
私は転入生を見て何かが引っ掛かった気がした。
「そうねー古城さんの席は………あそこ、安藤さんの隣でいいかな。安藤さん転入生に色々教えてあげてね」
よりによって転入生は私の隣。あまり関わりをもちたくない私にとっては不運だ。
「よろしくね」転入生は何もない砂漠に一輪の花が咲いたような笑顔を向けて私に言った。
すると斜め前の席の伊藤さんが「古城さん、忠告だけど安藤さんにあまり話しかけない方がいいよ?面倒くさいから」と私を盗み見しながら小声で言った。
古城さんは不思議そうな顔をして私を見た。
私は転入生をよくも悪くも思わなかった。
大抵私は誰でも自分の中でランキングをつける。この人は良い、でも、ここの所は悪い。などと総合的な判断で区別するのだが、転入生には良し悪しがつけられなかったのだ。
転入生は友達をたくさん作り、いつのまにかクラスのムードメーカーになっていた。
元気で明るく誰に対しても平等に優しく振る舞うのが彼女の性格であった。
その性格はどこか親友の佳奈に似ていた気がするのだ。
私は彼女が気になってはいたもののどこか抵抗感があった。
でも、私は親友が死んでから友達を作るのは無駄だと感じていた。わざわざ自分を正当化しなければいけない理由が分からなかった。自分の居場所を確保するために本当の自分を犠牲にしてまで付き合わなければいけないのか。別に疑われたって、陰口をたたかれたって構わない。個人の自由だ。私がどうこう言うものではない。
親友が死んで分かったことがある。
それは、私はいつも明るく屈託のない笑顔を浮かべた彼女がいないと何もできないということだ——。
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