急 スティグマの焼け跡

 それが夢だったのか現実だったのかは分らなかった。


 また、僕の前から彼女が消えたのではなく、僕が彼女前から去ってしまったのかは知るよしもない。


 ・・・・・・いや、もう僕は気づいている。


 自殺しようとした僕の前にラフカディアが現れたのは、恐らく僕自身の心残りからだと思う。


 小説家になりたいと――いや、強引な言い方をすれば(自分は小説家になれる)と思い込んでいたため、死ぬ事がなかったのだろう。


 それが今まで僕をこの世界で生きて来れた理由なのだから。


 いや、あのクリスマスイブの日、僕は半分だけ、死の海に浸かっていた。

 自分は小説家にはなれない――と諦めていた。


 自分は一度も本当に書きたいモノを誰にも見えない所にしまい込んで、適当に書き殴ったモノしか世界に出さなかった。 


 そうするほか出来なかったからだ。


 本当のモノを書いてしまえば、結果が見えてしまう。


 書いた小説が世界にとって、意味の無いものと知ってしまえば、僕は生きる価値は消えてしまう。


 そんな真実を恐れていたため、今まで世界に出す事が出来なかった。


 世に出さなければ、ずっとそんな甘い“夢”にすがって生きていける。


 その人生を歩んでいった結果があの“燃える存在”なんだろう。


 小説を世に出すことを恐れた未来の自分、心残りが(諦めるな――まだ間に合う)と僕に伝えに来たのだろう。


 それにラフカディアが現れたのも、なんとなく理解出来る。


“燃える存在”の出現とは違って、ラフカディアが僕の前に現れたのは、そんな生き方は僕自身にとっても間違っている――なんて言いに来たのではない。


 恐らく彼女は、この世界にラフカディアという存在を生み出さないことに危機として現れたのだろう。


 僕にとってラフカディアの性格とはそう定義している。

 そう――彼女がどちらの“存在”にせよ、僕だけが最初に知っている人物なのだ。まだ、誰もラフカディアの事は知らない。


 理由は簡単だ。


 ラフカディアは僕の造った小説のキャラクターなのだから。


 それでも、ラフカディアにもう一度会えないかなと思ってしまう。いや、会わない方がそれが互いにとって正しい事なのだろう。


「私は君が消えない限り、“存在”し続けるモノだから。それに私の“存在”とは、世界が誰かの“可能性”を見捨てるとき、世界の敵として――“存在”を救う為に現れる。・・・・・・それに君のカレースパゲッティを食べる約束もあるからね」


 僕はふとラフカディアの声が聞こえたように感じた。


 ラフカディアの“存在”、つまりはあまりにも大きすぎた存在かもしれない。背負いすぎたかもしれない。


 でも、そんな“存在ラフカディア”がいないと、この世界は悲しみで死んでいく“可能性いのち”があまりにも多すぎる。


 そんな世界だから、僕はラフカディアという命綱きゅうせいしゅを造りだしたのだ。




 あの後、僕は家に帰った。


 昨日は、本当に今日なんて来ないと思っていた。


 仕事をほっぽり出して、早朝の電車で実家に向った。


 恐らく、両親は怒りもするだろうけど。多分、僕の一つのまがままぐらいは聞いてくれるだろう。


 とりあえず、両親に会ったら(オムライスが食べたい)と伝えよう。


 その後にゆっくりと事情も話そう。僕が“したいこと”について、納得はされないだろう。


 けれど、自ら救われない生き方はもう辞めて、本当にこの道を心から歩みたい――そう決めた意志を皆に知ってもらおう。


 それが本当ので“これが僕のしたいことなのだから”。





 


 

 











 


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ラフカディアのブラインドコンプレックス――夢の彼女は怪物を世界の敵から守る 無駄職人間 @1160484

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