無自覚魔力持ちの転職事情

中田カナ

第1話

 職探しって考えてみるとかなりヤバめのギャンブルだよね。思いっきり人生左右しちゃうんだから。


 王都の公共職業斡旋所の掲示板の前に立つ私は、一番隅の方にある若干変色しかけた1枚の求人票に目を止めた。

「あ、コレすごくいい!」

 あまり聞き覚えのない男爵家のメイド募集。今までもメイドをやってたから仕事内容に不安はない。条件はかなりいい…というか、むしろなぜこの条件で残っているのかが疑問なところだが、私の勘がGOサインを出す。

「あの、こちらのメイド募集ってまだ有効ですか?」

 掲示板から求人票をはがして受付へ持っていくと、窓口の担当者はなぜか険しい表情になった。

「…しばらくお待ち下さい」

 と言い残して奥の方へ引っ込む。もしかしてなんかヤバいのだったのかなぁ?と不安になりつつ待っていると、しばらくして名前を呼ばれた。


 一番奥の面談室に通される。

 やってきたのはさっきの窓口の担当者ではなく眼鏡をかけた年配の男性で、服装からしてどうやら偉い人っぽい。

「少々お聞きしたいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」

「は、はい」

 うう、緊張するなぁ。

「まずは確認のため求人票の内容を声に出してお読みいただけますでしょうか」

「…はぁ」

 なんでそんなことを?と思いつつも、おとなしく手渡された求人票に書かれている給与や休暇などの条件を読み上げる。

「はい、ありがとうございます。どうやらご自覚はないようですが、貴女は魔力持ちのようですね」

「え?!」


「そもそも、この求人票は魔力を持たない者には誰も興味を示しそうにない内容にしか見えないのですよ」

 面談担当者の男性は小さな鏡を取り出し、求人票を映してみせた。鏡の中の求人票は文字が逆なので読みづらいけれど、市場内の食堂の下働きで給与もおそろしく安いものになっていた。

「え、なんで…?」

「これは魔道具の一種でしてね、魔力を持つ者が見ると内容が変化するのですよ。見た者を惹きつけるような内容に。これにひっかかったのは私が知る限り貴女が初めてですね。さて、話は変わりますが魔力保持者保護法はご存知でしょうか?」

「なんですか?それ」

 そんな日常生活に関係なさそうな法律なんて知るわけないでしょうが。


「平民で魔力を有すると認定された者は一定の教育と訓練が法律で義務付けられています。魔力の暴発により本人や周囲が傷つかないようにしたり、犯罪に利用されたりしないようにするためです。まぁ、過去に事故や事件がいろいろとあったので出来た法律ですね。そして、この求人票に反応した貴女は今からこの保護法の対象者となります」

「ちょ、ちょっと待ってください。私の就職はどうなるんですか?」

「大変申し訳ありませんが、貴女が先ほど読み上げた求人票は架空のもので実際には存在しません。ですが教育訓練の期間中は国から生活が保障されますし、無事に終えれば就職についてはできる限りご希望に沿うようにいたします。魔力を使う職に就ければ高収入も期待できますよ」

「いえ、あの、そんな面倒なのは結構です!王都がダメならどこか地方で職探ししますから」

「残念ながらそれは認められません。私はこの職業斡旋所の所長であると同時に貴女のような魔力持ちの専任担当でもあります。そもそも国の法律で決まっていることですので、逃れることは出来ませんよ」


 なんだかよくわからないけど、これはよろしくない気がする。たぶん自由がなくなっちゃうヤツだ。

 バッと立ち上がって鞄を手にして面接室のドアに駆け寄るも、ドアノブはまったく動かない。

「無駄ですよ。魔法で出られないようにしましたから」

 こうしてレアな珍獣だったらしい私は国の保護対象になった。



 その日のうちに私は王宮内にある魔法省に連れて行かれた。

 通常なら家族や職場などに説明した上で教育訓練に入るものらしいが、孤児院育ちで身寄りもなく、ついでに求職中なもんで説明するような相手が誰もいないんだからしかたがない。

 生活面に関しては魔法省の女性職員がいろいろと丁寧に教えてくれた。バス・トイレに簡易キッチンまでついた立派な部屋が当面の私の住まいになるらしい。

 次の職が見つかるまでは安宿暮らしを想定していたので、その点では大変ありがたいのだが、しばらくは外出は認められないそうだ。もっとも王宮が広すぎて、脱走しようにもどこへ向かえばいいかすらわからないけど。

 魔法省内にはいつでも利用できる食堂があり、メニューもそれなりに選べる。王宮内には職員向けの売店もあって日用品などは購入できるし、売店で扱っていない商品も取り寄せできるとのこと。さらに注文すれば食材も購入してもらえるそうなので自炊もできるようだ。しかも保護法対象の私は売店も設定された上限金額を越えなければ支払い不要であるらしい。もしかして毎日チョコレートを食べちゃってもいいのかなぁ?



 人生の大転換期ともいえるとんでもない事態の後にもかかわらず、その夜の私は快適なお部屋でぐっすり眠った。だってジタバタしたってしょうがないもんねぇ。

 翌日の午前中は女性職員に魔法省内をあちこち連れまわされ、さまざまな検査を受けた。

「これはすごい!」「信じられん!」

 魔力量がかなり多めな上に複数属性ありと診断されてあちこちで驚かれるも、自覚がないからさっぱりわからない。

 一通り検査を終えてから今後について説明を受ける。

 今は使いこなせなくても何かのはずみで魔力が暴発するおそれもあるので、制御する方法を覚えなければならないそうだ。魔力が少なければ制御の魔道具を使うことにより日常生活に復帰という方法もあるそうだが、私は魔力量が多すぎて魔道具では対応しきれないらしい。残念無念。



 教育訓練は基本的にマンツーマンで教わるそうで、午後から担当魔術師に引き合わされた。

 部屋に入ると私よりちょっと年上と思われるまだ若そうな男性が待っていた。でもなんだか態度がでかい感じがプンプンするんだけど。

「おう、来たか。今日から俺がお前の担当だ。そうだな…俺のことは『先生』と呼べ。これから面倒見てやるからありがたく思えよ」

 偉そうに言った男性魔術師に対し、私は自己紹介よりも先に言い放った。

「では先生!まずはこの部屋を掃除させてくださいっ!」

 山のような本や書類に埋もれた部屋。ドアから机までかろうじて細い獣道があるだけ。

 まずは私の居場所の確保が必要だけど、何より元メイドとしてはこの乱雑さと埃は許せないっ!


 それからたっぷり5日間かけて掃除しまくった。服は王宮のメイドのものを借りた。

 不本意ながらたった1部屋に5日間もかかってしまったのは、本や書類はさすがに勝手に処分できないのでいちいち確認してもらわなければならなかったのと、掃除しながら魔法の使い方を実践で教わっていたからである。

 先生が言うには初歩の初歩らしいのだが、水魔法のおかげでいちいち水汲みに行かなくてもいいし、重量魔法で家具や本の移動も楽にできる。いやはや魔法って便利だねぇ。もっと早く使えてたら今までの仕事も楽だったのになぁ。


「へぇ~、この部屋の床はこんな模様だったのだなぁ」

 本の山の中から発掘されたソファーでくつろぐ先生。

 そしてこれまた書類の山の中から発見されたティーセットでお茶を出す。

「そういえば聞き忘れてましたけど、先生は紅茶と珈琲どちらがお好きですか?」

「珈琲だな」

「わかりました。売店で珈琲を調達しておきますね」

 すでに先生と生徒というよりも主人とメイドっぽくなっているが、むしろこの方が慣れているので気が楽なんだよね。



 なんとか大掃除が完了し、先生の部屋がまともになった次の日。

「さてと、初日からずっと動きっぱなしだったから、今日は座学でいこうか・・・って、お前大丈夫か?」

「え…何がでしょうか?」

 おかしいな。先生の声は聞こえてるんだけど全然頭に入ってこない。

「お前、顔色が悪いぞ?」

 ふいに額に当てられた手が冷たくて気持ちいい。

「おい、熱があるじゃないか!」

「あ~、そうだったんですかぁ…」

 丈夫さだけが取り柄だったもんで、こういう状態になったことがなかったからわからなかったけど、熱があるってこんな感じなのね。

「今日はもう休みでいいから、まずは医者に診てもらえ。これから王宮内の診療所へ連れて行ってやるからついてこい」

「あ…はい」

 立ち上がろうとしたのだが、足に力が入らないし、めまいもする。ふらついたところを先生に支えられたが、そこから先の記憶はなかった。



 目を覚ますと知らない部屋だった。なんだか身体の節々が痛い。

「気がついたか?」

 先生がベッド脇にある椅子に座っていた。

「ここは王宮内の診療所だ。医者が言うには、まだ魔法の使い方に不慣れで心身に負担がかかっていたのと、このところの急激な環境の変化のせいだろうってさ」

「そうなんですか…」

 よくわからないけど、お医者様が言うならそうなのだろう。

「その…すまなかった」

 いつもの偉そうな態度とは打って変わり、しょんぼりとした表情の先生に謝られている。なんかヘンなの。

「えっと…どうしたんですか?」

「お前が俺が言ったことを何でも簡単にこなしてくもんだから、お前の負荷まで思い至らなかった。本当に申し訳なかった」

 そう言って頭を下げられる。

「ん~、でもお医者様の話じゃ魔力のせいだけじゃないみたいですから、別に謝らなくてもいいと思いますよ~」

「俺、保護法対象者の指導は今回が初めてで、上司や先輩からいろいろ注意されてたのに、お前のことちゃんと見れてなかった。これは間違いなく俺の落ち度だ」

「そうなんだ…じゃあ私達は初心者同士ってことですね」

「まぁ、そうだな」

 先生がなんだか不思議そうな顔をしている。

「だったら初心者同士、1つずつ学びながら仲良くやっていきましょうよ」

「ああ、そうだな。よろしく頼む」

 そう言って握ってくれた手はひんやりとして気持ちよかった。


 私はその日のうちに先生に抱きかかえられて自室に移動した。

 普通だったら男性に抱きかかえられるなど間違いなく抵抗するところなのだが、ぐったりしていてそれどころではなかったのだ。

 発熱は3日ほど続き、先生はしょっちゅう顔を出してくれて、食事や飲み物を持ってきたり薬を飲ませたりしてくれた。

 先生の上司とかいう人も時々顔を出したが、どうやら気にかけているのは私のことだけではなかったようだ。

「あいつは幼い頃から魔法の天才だとか言われて少し傲慢になってたんだが、どうやら君のおかげで少しは人を思いやるということがわかったのかもしれんな」

 そっか、よくわからないけどこんな私でもお役に立てたようで何よりです。



 熱も下がって体調も万全。いよいよ本格的な教育訓練開始である。

 座学に関してはテキストがあるが、実技はそれぞれの適性にあわせて行うそうで決まったものはないらしい。

 そして座学の初日はこの国における魔法について教わる。

 ほぼすべての貴族は魔力を有しており、まれに平民で魔力を持つ者もいるが、どこかで貴族の血筋が混じっていることがほとんどだそうだ。そして貴族は魔族の来襲時には率先して民を守る義務を負うとのこと。まぁ、ここ百年くらいは何も起きていないそうだが。


「それにしても、わかんねぇんだよなぁ」

 今日の分の勉強を終え、先生が私の淹れた珈琲を飲んでつぶやく。

「何がですか?」

「お前だよ、お前。あれだけの魔力量や多属性を考えれば今までなんで野放しだったのかがわからん。普通は平民も学校で検査するもんだろう?」

「えっと、私は学校へは行ってませんよ」

「はぁ?」

 あれ、なんかヘンな顔をされてる。

「学校へ入るくらいの年には商家の下働きを始めてましたから。今はほとんどの子供は学校へ行ってますけど別に義務ってわけじゃないですし、昔は行かない子供もそれなりにいましたよ。それに私は孤児院で読み書きや計算くらいは教わってますしね」

「そっか…お前は孤児だって言ってたな。親は全然わかんねぇのか?」

「はい。私、大災害の年に生まれたんですよね」


 十数年前、国のあちこちで立て続けに大きな災害が起きた年があった。私が育った地では水害があり、その時に保護されたと聞いている。身元がわかるようなものは何もなかったらしい。

「あくまで俺の私見だが、お前の魔力量や多属性という点から考えれば両親とも貴族である可能性が高いと思うんだ。お前の出生についてちょっと調べてみてもいいか?」

「別にかまいませんけど何せ昔のことですし、混乱していた時期だから難しいんじゃないですかねぇ」

「そうだな…その年にそっち方面へ行った貴族がいるか、あとは赤ん坊を亡くしたり行方不明になった貴族がいるかを調べるくらいだな。ああ、うちの親にも聞いてみるか」


 ここで私はふと大事なことに気がついた。

「あの~、もしかしなくても先生も貴族…なんですよね?」

「そういや言ってなかったっけ?俺、第三王子なんだけど」

 瞬時に土下座して床に額をこすり付ける私。

「知らぬこととはいえ、なんかいろいろと申し訳ありませんでしたっ!」

 私ってば発熱時に思いっきりお世話させちゃってるよ~。

「こらこら、土下座なんかするな。兄達が優秀だから俺が王位継承することなんてまずないし、子供の頃から魔法の研究でこの国に貢献するって決めてんだよ」

 先生に手を取られて立たされる。

「頼むから今までどおりにしてくれ。ああ、間違っても殿下なんて呼ぶなよ」

「はい…先生」



 その後の教育訓練はそれなりに進んでいる…と言いたいところだが、座学はともかく魔力の制御で悪戦苦闘している。全力でぶっ放すのは好きだし気持ちいいんだけど、加減するのってホント難しいんだよねぇ。

 教育訓練以外では先生の部屋の掃除や身の回りの世話をしている。先生の手が空いている時は、くだらない話で盛り上がったりもしている。

 正直なところ、私に魔力があったところで何が出来るのか、何をすべきなのかがよくわからないので、できることならこのままメイドか助手として雇ってもらえないだろうか?と、わりと本気で考えていたりする。

 そう思うくらいに先生のそばは居心地がいいと思い始めてるんだよね。お互いに結構言いたい放題出来る相手でもあるし。

 でも、ちゃんとわかってる。こんなのは今のうちだけ。先生と生徒の関係はいつか終わる。身分が全然違うんだから、終わればそこで縁も切れる。

 だから今日も私は気持ちを隠して普段の私を演じる。



 それなりに教育訓練も進んだある日のこと。

「そうそう、今日は午後から魔力測定するから」

「あれ、どうしたんですか?先週やったばかりですよね?」

「いつものとは違うヤツだ。こないだの座学で魔力の波長の話をしただろ?それの実験を兼ねてるんで、他の人にも参加してもらおうと思ってさ」

 先日習ったのだが、魔力というのは人によって波長が異なるのだそうだ。血縁関係が近ければ近いほど波長も似るらしい。


 午後は応接室へ移動した。先生がカーテンを閉めて部屋を少し暗くする。

「この部屋にしたのは参加してもらうのが外部の人なもんでね。さて、まずは俺と実験してみるか」

 言われたとおりに魔力を軽く放出すると、そこに先生が魔力を重ねる。

「あ、光った!」

 小さな星のような光がいくつか発生する。

「光った部分が波長の重なった部分ってことだな」

 なるほどねぇ…と感心していると、ノックの音がして身なりのいい40代半ばくらいの男性が入ってきた。

 先生がその男性と挨拶して握手する。

「こちらが魔力保持者保護法の対象者である女性です。さっそくですが実験をお願いできますか?」

 先生にそう話しかけられてうなずいた男性が私に近寄ってきた。

 さっきと同じように私が魔力を放出すると、男性がそこに魔力を重ねる。

「えっ?」

 先生の時と違って光は線になり、まばゆいくらいに輝いている。

「俺が教えたことを覚えているか?波長が近いのはどういう時だ?」

「血縁関係が近い…ですよね?」

「そのとおりだ。今のこの状態は近いというよりほぼ一致しているといっていいくらいだな。親子の場合は両親のうち魔力の強い方に似るんだよ」

 ふと男性の方を見ると目に涙を浮かべていた。


「お前の出生について調べていたら、こちらの公爵殿が浮上した。当時のことを確認したところ、奥方一行は領地から王都へ戻る途中に水害に巻き込まれ、奥方は無事だったが乳母は遺体で発見された。そして赤ん坊は行方不明のまま絶望視され、貴族名簿に載ることもなかった。そうですよね?」

「ええ、殿下のおっしゃるとおりです」

 男性が私をじっと見つめる。

「貴女は髪と瞳の色は私と同じですが、顔立ちは母親似ですね。ぜひ妻にも会わせたいので、我が家へ来ていただけませんか?」

 突然のことに言葉が何も出てこない私に先生が言った。

「お前の外泊を許可する。教育訓練も明日からしばらく休みにしてやるから行ってくるといい」



 魔力の波長実験から3日後の朝。

「なんだ、もう戻ってきたのか。もっと家族と一緒に過ごしてきてよかったんだぞ?」

 私はいつものように先生の部屋にいた。

「先生、本当にありがとうございました。私にあんな優しい両親や兄達がいたなんて、今でもなんだか夢のようです」

 深々と頭を下げる。

 ここ数日は公爵家の人達に何度泣かれ、何度抱きしめられたかわからないくらいに濃い日々だった。家族というものを知らない私の心の隙間を埋めるかのように。

「間違いなく夢じゃなくて現実さ。魔力はごまかしようがないからな。だが、いいのか?貴族の家なら子供に魔法の使い方を教えるのは当たり前だ。公爵家でも自分達が教えるとか言われただろう?」

「ええ、言われました。でもここで…先生の元で最後までやりきるって決めました。無事に終えてから公爵家へ行こうと思ってます」

「…そうか」


 いつものように先生に珈琲を出す。

 座学の前に先生が急にあらたまった態度に変わった。

「あのな、ちょっと聞いて欲しいんだが」

「はい」

「お前の膨大な魔力量や多属性から上位貴族の血筋であることは予想できていた。だから必死で調べて探した。誰にも文句を言わせずにお前を迎え入れたかったからだ。この教育訓練が終わったら正式に公爵家へ婚約を申し入れようと思っているんだが、お前は受けてくれるか…?」

 すがるような瞳の先生を初めて見る。

 本当は公爵様…じゃなくてお父様に聞いて知っている。

 もしも私が公爵家の子供でなかったとしても後見になってやってほしいと先生が頼んでいたことを。

「血筋こそ公爵家ですけど、孤児院育ちで学校も出ていない、淑女とは程遠い女ですよ?私なんかじゃ先生にご迷惑がかかってしまいます…」

「迷惑なんてことはないさ。俺は王族だけど今は研究者としてやってるから社交の場にもほとんど出ない。お前が必要と思うなら勉強だって俺が教えてやる。過去に何度か見合いさせられたこともあるが、お前みたいに一緒にいて心地いいと思える女は今まで誰もいなかった。だからこれからはずっと俺と一緒にいて欲しい…ダメかな?」

 なんて答えようかしばらく迷っていたけれど、思っていたことを素直に告げることにした。

「私、この教育訓練が終わったら先生の助手かメイドになりたいって思ってたんです。先生ともっと一緒にいたかったから…ダメでしょうか?」

「いいさ。お前もようやく出会えた家族と過ごす時間が必要だろうから通いで来るといい」

 先生にようやく笑顔が戻る。


「最後に1つだけ言っておく。今は魔力保護法対象者と指導役の魔術師という関係だから、俺はお前には触れない。そしてこの教育訓練が終了して婚約が成立したら、思いっきり甘やかすから覚悟しとけよ」

 先生が不敵な笑みを浮かべてるけど、覚悟ってどうすりゃいいの?!

「さて、この話はここまでだ。今日の教育訓練を始めるぞ」

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