その防具、今みんなカワイイって言ってくれてるぅ~~♪

ちびまるフォイ

またつまらぬ買い物をしてしまったら

「いらっしゃいませ~~↑ どうぞ~~ごらぁんくださぁ~~い」


冒険者はなんとか無視しようとするものの、

武器屋は店主に声をかけなくては買い物ができない。


「なにをお探しですかぁ?」


「えっと……剣を探しに」


「でしたらぁ、これなんてどうですかぁ?」

「あ、いえ自分で見ますから……」


「こちらもおすすめですよぉ」

「自分で……」


「ほら、こっちも」

「わかりましたって!」


なんとか振り切った冒険者だったが、手にとった剣に気を取られているスキをついて店員がやってきた。


「それ、気になっちゃう感じ?」


「あ……まぁ……」


「それいまみんなカワイイって言ってくれてるぅ~~♪

 うちでもいま一番売れているんですよぉ~~」


「そうですか……あはは」


「試しちゃいます?」

「え?」


「試し切り、しちゃいます?」


店員の瞳にはすでにYESしか期待していない色をしていた。

冒険者は武器屋の奥にある試装備スペースで剣を試し切りした。


「え~~もうめっちゃ似合ってるじゃないですかぁ~~!」


「そ、そうかな」


「切れ味もいいでしょう? オリハルコンコーティングされてるんですよぉ」


「そうですね。確かにすごかったです」


「手に馴染むようにグリップも工夫されていて、

 今なら刀身にイニシャル刻むサービスも無料でできちゃうんですぅ~~」


「はぁ……」


「買いますか? 買いますよね? 買うとき? 買えば? 買え?」


ずいずいと顔を寄せてくる店員から目線をそらした。

剣の値札を見てみると、冒険者の予算を大きく超える値段になっていた。


「こんなにするのか……!」


「お客様、もしかして剣だけご購入されるおつもりですか?」


「え? あ、そうですけど」


「剣だけ立派でも鎧がなくっちゃおかしくないですか?

 なんか見るからに"剣だけ奮発しちゃいました"って、

 悪目立ちしちゃうのは痛々しく見えますよ」


「……そうですかね」


「し・か・も、今ならオリハルコンの剣を購入されたお客様は

 鎧をセットで買うと50%OFFになるキャンペーンがやっているんです。

 ほら、この鎧なんかどうです? どうです?」


店員は近くにあった鎧を冒険者にあてがった。


「めっちゃ似合ってるぅ~~!

 もうこの鎧はあなたに着てもらうために作られたって感じですよ!」


「あ、あはは……」


「これなら剣にも合いますし、ギルドでもあいつは別格だと見た目だけで特別視されますよ!」


おそるおそる値段を見てみると、すでに冒険者が支払える金額をひと回りもふた周りも超えていた。


「あの! やっぱり俺……!」


「お客様、お客様だけにお伝えするオトクなお話があるんですよ」


「お、おとくな話……!?」


「実は、鎧を購入されたお客様には兜が半額になるクーポンがあるんです。

 さらにGOTO武器屋キャンペーンで、2品以上買った人は50%引きで兜が買える。

 50%と50%で、兜が実質無料で買えちゃうんです!!」


50%オフしたあとで、50%オフするので最終的には元値の25%になる事も忘れ、

数字マジックに踊らされた冒険者は店員の術中にハマっていた。


「なんてオトクなんだ!!」


「でしょう! さらに、今ならこの"みかわしの不織布マスク"もお安く買えます!」

「買います!」


「でしたら、このはがねの具足もオトクですよ!」

「買います!!」


「さらにさらに! キャプテン・イセカイが愛用した盾も割引です!」

「買いますとも!!!」


すでに全財産を持ってしても支払える金額ではなかったが、

冒険者金融でお金を借りてでも、ギルドリボ払いをしてでもすべて手に入れたかった。


冒険者はすべての武器と防具を身に着けてフルアーマーと化した。


「すごいお似合いですぅ~~!!」


「買わない後悔より買ってから後悔したほうがいいなと思いました」


冒険者はいい気分で武器屋を出ようとしたとき、

大量の魔物が武器屋に向かって襲ってきていた。


「ちょうどいい。新しい武器と防具を試すいい機会だ!!」


冒険者は剣を構えようとしたが、鎧が思ったように動かない。

盾で防ごうにも背中に手を回せず、さらにはマスクで息苦しい。


慣れない装備にモタつく冒険者に対して、魔物はまるでためらいがなかった。

これを好機と見て一気に襲い掛かる。


「キシャーー!!」


「うわぁぁぁぁ!!」


冒険者が死を覚悟して目をつむったとき、背後から閃光のように武器屋の店員が飛び出した。

抑えていた自分の筋肉を全開放し魔物を素手で粉砕してしまった。


あまりの早さに冒険者はあっけにとられるばかり。

すべて片付けた店員は魔物の血を拭いながら語った。


「武器と防具の性能に頼っているようではダメです。

 本当の武器と防具は自分の肉体ですよ!」


冒険者は店員がおすすめする肉体改造ジムへの入会を決めた。

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