第11話 ヘミリアの転入

「皆さん、始めまして。私はヘミリア・ハートヴィル。イギリスから転校してきました。これからよろしくお願いします。」


転校生として紹介された少女は竜夜と目が合うと優しく、されど隙のない微笑を浮かべた。担任がホームルームを開始する前に「連絡事がある」と言ったときから嫌な予感はしていた。まさかという思いと校長ならやりかねないという思いが心の中で渦巻いていたが、どうやらしっかりと当たっていたようだ。



学校に着いた竜夜たちはいったん分かれることにして、ヘミリアは挨拶や諸々の連絡のため校長室へ、竜夜はそのまま教室へと向かった。それから友幸や真奈美と会って喋っているとそろそろホームルームが始まる時間となったので、三人は自分のクラスへと戻り、ホームルーム開始の挨拶をした後・・・それが今の状況である。


ヘミリアが教室に入ってきたときの他のクラスメイトの反応はすごかった。男子は全員がスタンディングオベーション&狂喜乱舞、女子もヘミリアのあまりの美しさにただただ見とれていた。


それはそうだ。落ち着いた色合いのブレザー越しでも分かるほど豊かな双丘。スカートから伸びる長い足は、スパッツを履くことで足の長さと細さをさらに強調させ、最高級シルクのようなプラチナブロンドの髪は教室の窓から入ってくる風で少し揺れている。美人は何を着ても似合うという言葉を体現したかのように存在感を放つ彼女は同性であってもため息が出るほどだ。異性はなおさらだろう。


結局あまりにも騒ぎすぎた結果、鬼塚先生がその名の通り鬼のような形相で教室に殴り込みを仕掛けてきたところでホームルームはお開きとなり、たちまちヘミリアは大勢のクラスメイトに囲まれてしまった。


「ヘミリアちゃん、大人気だねぇ。」


ふと気づくと、友幸がニヤニヤと笑いながら竜夜に近づいてくる。


「お前は行かなくていいのか?」


「俺はそれよりもお前とヘミリアちゃんの関係性を知りたいんだよ。」


「何の話だ?」


「とぼけても無駄だぜ。お前がヘミリアちゃんらしき人と学校まで一緒だったことは俺がバッチリ見ていた!さあ、キリキリと吐いてもらおうか!」


これは逃れることができないと悟った竜夜はあっさりとゲロった。しかし聞いてきた当の本人はつまんなそうに「ふーん」と言うだけである。


「お前が聞いてきたのに反応薄いなー」


「どうせそんなことだろうと思ってたからな。」


「・・・そうか。」


竜夜達がそんな話をしている間もヘミリアはクラスメイトに囲まれている。教室の外には、美人な転校生の姿を一目見ようと他クラスの生徒が集まっているのも見えた。


ヘミリアは最初こそきちんと対応できたものの処理速度が追いつかなくなったのか、段々と慌て始めているようだ。助けを求めるように竜夜を見るがどうしようもない。無言で親指を立てた竜夜を恨めしそうに見ながら、ヘミリアはその後も延々と質問攻めに遭うのであった。



――――――――――――――――――


「はあ、初日から疲れました。」


そう言ってリビングに寝っ転がるヘミリア。時間は流れ、竜夜とヘミリアは自宅に帰り着いていた。竜夜はヘミリアを入れて4人で下校している際にヘミリアの正体や今の現状などを詳しく説明した。ヘミリアは何を言われるのかとビクビクしていたが悪口どころか好意的な反応しかなかったため、すぐに二人と打ち解けた。

そして二人と別れた竜夜達はこうして家でくつろいでいるという状況だ。


「ヘミリア、学校はどうじゃったかの。」


玉藻がヘミリアの上に乗りながら尋ねた。この二人はいつもこうやってくっついたり遊んだりしている。その様子はまるで姉妹のようだ。


「うん、楽しかった。あんなにもたくさんの人に喋りかけられた事なんてなかったから。」


「そうかそうか、よかったのう。」


そうやって楽しそうに話す二人を尻目に竜夜は新しく届いた任務書を見ていた。一週間に一度のペースで竜夜宛に大量の依頼書が届けられる。そのほとんどが並の霊能力者では対処できない危険度の高い依頼である。


それを眺めながら思案していた竜夜だったが突然けたたましい音と共に携帯が鳴る。見てみるとどうやら発信元は組織の本部からのようだ。通話ボタンを押して電話に出てみるとなんと相手は校長であった。校長は電話越しに落ち着いた声で話し出した。


「竜夜君、いきなりですまないが今夜ある任務についてもらいたい。」


「任務、ですか?」


「そうだ。どうやら他の任務に当たっていた霊能力者との連絡がここ一週間の間途絶えているようでな。君には霊能力者の捜索と潜んでいるであろう異形の討伐をお願いしたい。受けてくれないだろうか?」


「わかりました。場所はどこですか?」


「受けてくれるか!ありがたい。場所は岐阜県だ。」


「了解です。ヘミリアも連れて行っていいですか?」


「いいとも。だがくれぐれも怪我には気をつけてなさい。」


「ありがとうございます校長。失礼します。」


電話を切った竜夜はヘミリアにそのことを説明した。


「なあヘミリア、今夜はヘミリアの初任務になる。準備しておいてくれ。」


その言葉に一瞬驚いたヘミリアだったが、すぐにそれは不敵な笑みへと変わった。


「オーケー、準備万端にしておくわね。」


「じゃあまずは腹ごしらえからじゃのう。腹が減っては戦はできぬ、たくさん食べて力を蓄えるとしよう。」


こうして唐突に始まっていく任務。しかし、その任務に大いなる厄災が近づいていることに夕食の準備をする三人はまだ気づいていなかった。

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史上最高の霊術士 〜最高だの最強だのと持ち上げられていますが平穏にいたいです〜 batao @batao

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