第38話
日曜日はいつもと変わらずに、昼前に起きてそのままその日の終わりまでぼーっとするという、究極に怠惰を極めた時間を過ごした。
勉強をするわけでもなく、部活をするわけでもなく、家事の手伝いなどをするわけでもなく家族に色々と言われながら、日曜日を終えてまた月曜日になる。
最近だと四月の終わりから五月にかけて、何が起こっているのかと言うほど暑かったりする。
まだ登校する朝の時間なら涼しい空気が残っているが、それでも日差しをまともに受けると以上に暑い。
暑さに参りながら登校して教室に着くと涼む暇もなく、すぐに始業のチャイムが鳴る。
すぐに担任が入ってきて、朝のHRの時間が始まる。
「新学期になって一か月くらいになる。徐々に学校内外での行動で生徒指導から指導をもらう生徒が増えてきているようなので、気を引き締めること」
いつものような注意事項や朝の連絡事項などが、淡々と話が進んでいく。
休み明けで、他の生徒も眠たそうにあくびをしている。
「と、まぁこれで連絡事項は終わり。ここからはうちのクラスだけの話になるが、新学期になって約一ヵ月。席替えをしたいっていう声がちらほらと出てきている」
その話が聞こえてきた時、眠そうにしていた生徒の目がパチッと開く。
「どうせこの後の授業は俺がやるから、希望者が多いのであれば席替えをしようと思うが」
担任からそんな思いがけない提案がされると、教室全体が一気にお祭りかと思うぐらいに騒ぎ始めた。
教室全体を見渡すと、俺以外のやつほぼ全員が喜んで盛り上がっている。
席が最前列であったり、周りが異性で包囲されているとかそういう条件の人なら喜ぶのも分かるが、仲のいい子隣同士で喜んでいる人や後ろの方の席の人まで喜ぶのは何故だ。
「はいはい、うるさい。基本的に一か月に一回くらいの頻度で行う予定だが、今後クラス内の素行が悪くなったりしたら、しないからな」
「「はーい」」
こういう時だけはみんな声をそろえてイキのいい返事をする。
「くじ引きにするから、どんな結果になっても文句は言うなよ。後、席が変わって騒ぎまわらないように」
その言葉でHRが終わり、一時間目が始まるまでの準備時間で担任があみだくじをを作り始めた。
教壇で必死に線を引き続ける作業をしている担任の姿は、なかなかに異様な光景を言える。
「よし、今の席からやっと解放されるぜ!」
遥輝はもともと席が前から二番目の真ん中寄りの列なので、結構先生の目に入りやすい位置に居た。
身長も高いし、意外と先生から可愛がられるというか、いじりやすいのか男の先生からやたら「じゃ、目が合ったら真田」とか言われて慌ててみんなが笑うっていう流れが最近デフォになりつつあった。
「え~、今の方がクラスの中で人気者でいられるじゃん」
「いや、こっちとしては適度に神経すりつぶしてるから!」
見ているほうからしたら、楽しいしありだと思っていたが、本人的には結構しんどかったらしい。
後、席替えをしても今のノリなら先生に変わらず指名されるというループは終わらないような気もするし、席が全く変わらない確率の捨てきれないのだが、言わないでおこう。
「何だ、斗真はあんまりうれしそうじゃないな」
「別に嫌じゃないけど、今の席で不自由していなかったしな。幸人は今の席で、別に不自由してなくないか?」
春輝は真ん中の列ではあるが、後ろから二番目付近に位置している。
普通に後ろの方で目につきにくいし、いい席に居るとは思うのだが。
「ん~。確かにそう言われたら、別に嫌な席にいるわけじゃないけど、もっといい席に行けるかもって思えたら楽しくない?」
「前向きやな~……」
俺からすると、これ以上悪い席に位置することが可能性としてあることが普通に嫌なのだが。
「お前が後ろ向きなんだよ! 俺たちが近い席になったりすることだってあるだろ?」
「まぁそれならいいね。気が楽だし」
「それに、可愛い子の近くだったら嬉しいだろ?」
「それな」
「お前ら彼女いるだろうが……」
付き合ってても、可愛い女の子には目がないらしい。
「そんなこと言うけどよ、お前だって結花と近くなったら嬉しくね?」
「なんで俺と委員長をセットにしたがるんだ……」
「いや別にそうじゃないけど、俺でもあいつと隣とか近くになったら楽しいし」
「お前は去年の事を含めて気まずさとかないんか……?」
あの一件は完結しているとは言え、俺なら過程を含めて気まずさを感じてしまうのだが。
こういうあたり、うまく切り替えて仲良くなれるから彼女とか幅広い友達とか出来るんだろうな。
俺は所詮、陰キャから脱却出来ないかもしれない。
そんなくだらない話をしていると、一時間目開始を告げるチャイムが鳴っていつもよりみんなはやくサッと席に着く。
「よし、じゃあ席替えをする。くじを引いてもらうが、くじを引き始める順番を決めたいからそれぞれ席の端に居る四人がじゃんけんして、勝ったところから引いていくか」
つまりは教室の四角、左上と左下、右上、右下に位置する人たちでじゃんけんをして起点を決めろということである。
順番が早いからと言って、希望の席をとれるわけではないが、このじゃんけんですら異様に盛り上がるのが、席替えマジック。
順番も無事決まり、それぞれみんな指名の入っていない線を選んでいく。
「これからくじの選考結果をもとに、黒板に結果を書いていく。結果を見て騒いだりしないように」
事前に書いてあった教室内の席の位置を模したマスの中にくじで該当した名前を記入していく。
一人ひとり名前を記入されていくごとに、声は出せないがみんな表情が喜んだり、微妙な表情をしたりしている。
そして自分の名前もついに記入された。
右端の列後ろからも前からも数えて三番目の位置。要するに真ん中の位置である。
もっと後ろが良かったが、教室の端の列でありつつ、前の方ではないので十分よい位置に陣取ることが出来ただろう。
ちなみに、遥輝はお望み通り一番後ろの席をゲット。めちゃくちゃ嬉しそうにしている。
一方、幸人は前から二番目。今までの席の方が位置的には悪くなかったので、表情的には微妙。
そんな感じで、みんなの様子を見ながら埋められていく席のマスを確認していると、俺の席の隣に位置する名前も記入された。
声は出さなかったが、遥輝の方を見たらめちゃくちゃ笑いをこらえるような顔をしている。
先ほどの話はフラグだったとしか思えない。
そう思わされた相手は言うまでもなく、例のあの人――。
「斗真~! 一か月よろしくぅ!」
いつものような明るくハイテンションなノリの委員長が隣に居る。
「話してみるもんだなぁ、斗真!」
「え、何の話してたの?」
「斗真が結花の隣になりたいな~って言ってた」
「幸人、真顔で言うのやめて! マジに聞こえる」
「お~? 楽しいからって騒いだらダメだぞ?」
単純に考えても、かなりの確率を引き当てたことになる。
確かに気の知れた相手だし、気は楽ではあるが……。
「緊張してんの?」
「べ、別に」
「そうかそうか」
委員長は常にニコニコと楽しそうである。
逆に何を考えているのか、この表情の時は読めないのでちょっと不安にもなるが、仲良くやっていけるように過ごしていくことにしよう。
ちなみに、遥輝は一番後ろの席に位置したも関わらず、やはり男性教師を中心に弄りに近い指名を相変わらずされるままに終わった。
妹の親友? もう俺の女友達? なら、その次は――? (旧題:妹の友達を好きになるなんてありえない) エパンテリアス @morbol
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。妹の親友? もう俺の女友達? なら、その次は――? (旧題:妹の友達を好きになるなんてありえない)の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます