第37話
「そろそろお開きですかね」
「そうだな。凛ちゃんのご両親が帰って来られる前に退散しておかないと」
「そうでしたね! 母には説明して了承済みなのですが、父にはとても言えないねって話になってまだ内密なんですよね……」
「お、お母様は把握済みなのね……」
なんだかんだ言って、一応俺が来ることは把握してもらっているらしい。
この辺りも凛ちゃんはしっかりしているなと思わされてしまう。
俺なら仮に彼女が出来て家に呼ぶってなったら、親のいない時にこそこそ呼ぶことしか出来ないが。
……妹はああ見えても、事情を話せば黙っててくれるので、話をつければ実現できない話ではないからな。
「お父様に見られたら、俺どうなってしまうんだろうか……」
「多分何かされるというよりも、現実が受け入れられなくてその場にへたり込むと予想しますね」
「な、なるほど」
「母は、成績が良くなったことも踏まえてお兄さんのおかげって話をしていて、その人を呼ぶからって言うのですぐに納得してくれましたから」
「そかそか。実際に誰も知らなくて、この現場見たらびっくりするとかいうレベルじゃないだろうから、そうしてくれるのは助かるよ」
「はい!」
「じゃあ、お父様が帰ってきて倒れないようにこの辺りで退散するね」
身の回りのものを片付けて、綺麗にして今日持ってきたものをまとめる。
「忘れ物は大丈夫ですかね」
「OK。まぁ忘れてたら回収してまた明後日にでも渡してくれたら」
「そうですね。また月曜日から普通に会いますもんね」
そんな話をしながら、玄関ところまで歩みを進める。
「いつも帰り道で別れているところまで送っていきますよ」
「ううん。ご両親帰ってくるかもしれないし、施錠とかいちいちしないといけないから大丈夫」
送ってくれるのはありがたいが、いつもの分かれ道までかなりの距離がある。
日没時間が遅くまだまだ明るいが暑い中、坂道を往復して欲しくもない。
「そうですか?」
「うん。道的に迷う感じもないからね」
「分かりました」
「じゃあ、また明後日ね」
「はい!また明後日です!」
ニコニコ笑顔でペコリと頭を軽く下げた凛ちゃんに、返事をして外に出た。
差し込む西日が眩しくて、夏の到来を感じさせるキツさを感じる。
ゆっくりと坂道を下りながら、帰宅の途に着く。
「何だかんだあったけど、一応平和的に終われたかな……?」
高校でも二人でいる時間は割とあるのだが、高校という場所と凛ちゃん宅という場所が違うだけで、色々と考えることがあった。
ただ一度こうして経験したので、次回も呼ばれても普通に楽しい時間を過ごせるような気がする。
今日あったことを、色々と頭の中で振り返りながら帰っていると、あっという間に家についた。
「ただいまー」
「あ、帰ってきた。おかえりー」
お菓子をもごつかせながら、ひょっこりと顔を出しながら、出迎えのような形で妹が返事をしてきた。
その妹がいるリビングではお菓子とスマホとマンガが置かれており、休日を満喫中のようだ。
「もう夕方なのに、お菓子めっちゃ食ってんな」
「うむ、この時間が至福なのだよ。って、変わり映えしない私のことはどうでも良くって、どうよ凛の家に行った感想は」
「めっちゃデカかった」
「小学生以下の感想だが、実際にそうなんだよねぇ……。うちの家と比べて大違いよ」
「それ、父さんと母さんの前で言うなよ」
「分かってますよ」
冗談で軽く言うくらいなら許されそうだが、親の心理状態が良くなかったら、普通に揉めそうな内容である。
「結局、どんなことをして過ごしたの?」
「勉強とお話」
「いつもの高校で一緒にいるときとやってること変わらなくない?」
「それでいいんだよ。変わったことをするために行ったわけじゃないし。ってか、ご飯食べさせてもらっただけでも変わったことはあったよ」
「そうだった! 凛の作るご飯、どうよ!?」
「めっちゃ美味しかった」
「ちゃんとした感想言いなさいよ」
「一つ一つのクオリティが高かった。何かお前の言いたい差ってやつを何となくだけど感じたような気がする」
「だよねー……。バリエーションはある程度見劣りしないぐらいになってきたつもりだけど、一つ一つ精度は勝てないんだよねぇ。そんな料理を食べることが出来た兄さんが本当に羨ましい」
さっきまで漫画とお菓子とスマホというマルチタスクどころか、トリプルタスクだった妹が食い入るように話をしている。
本当に毎回このテーマの話になると、妹のスイッチが入る。
「まぁ、凛にしっかりとおもてなししてもらってみたいだね」
「うん。勉強を頑張っているのも沢山確認できたし、普段のクラス内でもうまく行ってる話も聞けて楽しかったし、安心した」
「そかそか」
俺の話を聞いて、妹が柔らかい笑顔を見せた。
普段からラインなどでやり取りしているので、このような話は把握しているとは思うが、意思疎通などもしっかり出来ていることが伝わったのかもしれない。
「ありがとね、兄さん」
「え? 俺がお礼言われるようなこと、今日はしてないだろ」
「いや、普通にそういう話を報告してくれるってことは凛の事を考えて、そういう事も気にしてくれてるからだからだと思ってさ」
「まぁ、あの子がいい子すぎるからな」
「だよね」
そう言うと、妹はまたお菓子をつまみながら漫画を読み始めた。
俺も荷物を片付けて、部屋着に着替えてからリビングに戻って妹の散らかしている漫画を読みながら、夕食までの時間を過ごした。
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