角界を駆け巡る狂気の一幕

 WEB小説である意味一番大切なこと。それは「最初の一文でどれだけ読者を掴めるか?」

 そういう意味で本作の「「発狂用意」行司の声がそのように聞こえた」という書き出しは百点満点である。たったこれだけで読む人は間違いなく読む。

 そしてその後に描かれているのは相撲を題材にした狂気の一幕だ。

 突如角界に台頭した幕内下位の小兵力士・土根性。彼と取り組んだ力士はまわしをつかんだ瞬間膝をつき、敗北のショックに精神を蝕まれていく。その存在にただならぬ気配を感じ取った犬公方部屋の悪魔力士狩人(デビルハンター)たちは土根性の正体を調べようとするが、次々と土俵の上で命を散らしていく……どこを切り取ってもどうかしている。だが、これだ。これこそが読みたかったのだ……! 5000文字にも満たない短編だが、全編が狂気と悪ふざけに満ちた内容で、書き出しで惹きつけた読者を裏切らぬ内容に仕上がっている。

 またコメンタリー版という名の作者の注釈が入ったおまけも本編に輪をかけた悪ふざけっぷりで最高。本作の書き出しに興味を持った人はぜひ読んでみてほしい。その期待が裏切られることはないだろう。


(「拳で道を切り開く! 特殊格闘技小説!」4選/文=柿崎憲)