いつか自意識の檻を壊して、世界へと出てゆく日

 小児病棟にて長年療養し続ける少年『ツクモ』と、その目の前に突如現れた不思議な少年『レイ』の、出会いとその後の冒険の物語。
 設定的な面から分類するのであれば壮大なSF、お話の筋で言えばジュブナイル小説です。いわゆるハードSFではなく、また少年の目から見た世界を描いたお話。そういう意味で、少なくともSF的な要素の使われ方という点から見るなら、ある種現代ファンタジーに近い手触りの作品ではないかと思います。
 どうにもお話の内容に触れづらい、というか、物語の特性上どうしても「どこまでがネタバレになるかわからない」という側面があるので、この先はそのつもりで読んでください。
 小児病棟から出ることを許されず、窓の向こうの空に憧れる少年が、不思議な存在に出会う、というところから始まる物語。わかりやすく謎を象徴する『レイ』という存在、「彼は一体何者なのか」という問いが、そのまま主人公自身、ひいてはその見ている世界に対する疑問へと変わって、やがて世界の真実に迫ってゆく。つまりは成長の物語、少年から大人になるための儀式のお話です。
 箱庭に囚われ(守られ)ていた子供としての人生から、決してただ自由なばかりではない外の世界へ。ある種大掛かりといえる設定は、でもそのまま王道ジュブナイルとしての『立ち向かうべき困難』の大きさとなって、なればこそ主人公の選択や決断に伴う覚悟、ひいてはその結果のもたらすカタルシスを、揺るぎないものとしてくれる。子供にとっての世界というものを、しかし言葉で語らずとも設定が表す、この沈黙の雄弁さが大変に魅力的でした。
 その上で。最大の魅力はやはりクライマックス、主人公が自ら行動し選び取るところです。が、でもこればかりはどうやってもネタバレになるので、是非とも本編で味わうことをお勧めします。もっとも作品説明を読む限り、読み解き方には幅がある——というか、その不確定さこそが売りのようでもあるのですけれど。とまれ、設定の壮大さやキャラクターのありよう、それらが象徴として作用する様が印象的な、謎めいていながらも王道の物語でした。