エピローグ

「宴に行くぞゴラァァァァァァァァァァァァァァッ!!!」


「「「「「おぉおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!」」」」」


 そんな雄叫びが『愚者』のクラスに木霊する。

 アルカナゲームは無事夜月達『愚者』の勝利で収める事ができた放課後。

『愚者』のクラスの面々は祝賀会を称して、宴を開く事になった。


 その中には、裏切った人物である二人も混ざっている。

 あの後、しっかりと謝り皆に許しを乞うた。皆は「勝ったから気にするな」と、宴の代金と場所をおさえる事で精算する事にした。

 寛大なのか器が小さいのかよく分からない結果ではあるが、皆が喜んでいるのであれば問題ないだろう。


「早く行こうぜ!」


「私、こんなに気持ちのいい日は初めて!」


「今日はたっぷり飲み食いしてやんよぉ!」


 などと、皆は早々と教室から出ていく。

 宴の会場は学園外の宴会場で開かれるらしい。金持ちだからできる事なのだろう。


「ほら、海原くんも行こっ!」


 皆が教室を去った後、未だに教室から動こうとしない夜月に茜が誘う。

 茜の表情はどうにも緩みまくり、喜びが抑えきれていない。

 当然かもしれない。何せ、今まで続いていた均衡が破れ、目標に一歩近づいたのだから。


「ん、あぁ……」


 茜に声をかけられ、椅子に座っている夜月が反応する。

 手元には、『愚者』のアルカナと『戦車』のアルカナ────その両方を、夜月は握っていた。


「ふふっ、海原くんでも感傷に浸る事ってあるんだね」


「馬鹿を言え。感傷になんて浸ってないやい」


「嘘だー! 皆が盛り上がってる時もずっとアルカナ見てたもん! いつもは「できて当然!」みたいな雰囲気を醸し出してたけど、意外とかなり嬉しく思ってるんだね〜」


 笑いながらからかう茜を見て、夜月はアルカナを懐にしまう。

 これ以上、追求されるのが嫌なようだ。


「さて、相棒さん……俺をからかった罪は重いぞ?」


「海原くんは相棒に対していじめるんだね……ぐすん、涙が出ちゃう」


「おいコラやめろ。嘘泣きでも、男は涙に弱いんだ馬鹿ちん」


「ふっふー! 女の子の特権だね!」


「……さては貴様、浮かれているな?」


 いつもよりテンションが高い茜にジト目を向ける夜月。

 まぁ、浮かれる気持ちも分かるのだがと、夜月は小さくため息をついた。


「とりあえず、早く行こうよ! 今日は夜ご飯作らないからいっぱい食べないと!」


「あれ? それって俺に言ってる?」


「うん、そうだけど? だって、今日も家ないんでしょ?」


「……お世話になりまーす」


 あれから、未だに部屋が見つかったという連絡はきていない。

 故に、夜月は今日も転がりこませてもらうと、申し訳なさを抱いて頭を下げた。


「気にしないでよ! 困った時はお互い様────だって、私達はなんだからねっ!」


 そう言って、茜は満面の笑みを夜月に向けた。


(嬉しいもんだなぁ……)


 その顔を見て、自然と頬が緩む。

 協力者になり、互いに目標に向けて歩む同志────相棒、などと夜月は言っているが、まさか向こうからも言ってくれるなんて。

 そう思うと、自然と嬉しさが込み上げてきて────



「お疲れ様です、夜月」



 そんな時、不意に教室の入口からそんな声が聞こえた。

 視線を向けてみると、そこにはミスリルのような長い銀髪を靡かせた少女と、一歩後ろに下がっている黒髪の少女が立っていた。


「おう、せんきゅー」


 唐突に現れた声に対して、驚く様子もなく夜月はお礼を口にする。

 その態度に、少しだけマリアは頬を膨らませた。


「……何ですか、人がせっかく労いに来たというのに、ガッカリです」


「ほぅ? 意外だな、マリアなら「勝って当然ですよ」みたいな言葉を言いに来ると思ってたのに」


「そんなに冷たくありませんよ……私を誰だと思っているんですか?」


だと、思っている」


 夜月は、真剣な眼差しでマリアを見つめる。


「手が届かない相手、月のような存在……それがお前だ。俺は、あの時からずっと────お前の事をそう思っている」


「…………」


 どれだけ金を積んでも、どれだけ人気を得ても、どれだけの偉業を成し遂げても届かない相手。

 カジノで稼いできた理由も、全ては月に届く為────この学園に来たのも、八大貴族に並ぶ為。


 マリアと出会った時から……その気持ちは、夜月の中では変わっていない。


 だけど────


「俺は月まで辿り着く。それは、その為の一歩に過ぎん。相棒と共に、俺はその頂きまで登ってみせる」


「海原くん……」


 想い人がいる目の前でも、自分の事を信頼してくれると言ってくれた。

 そして、未だに大きな志しを持っている事に、茜は胸が熱くなるのを感じる。


「この際だからはっきり言っておくぞ────」


 夜月は、胸の腕章を指さしながら、マリアに対して不敵に笑った。


「お前は最後に相手をする────そして俺達が、アルカナを全て集める初めてのクラスになってやる」


 傲慢に、不遜に、驕る。

 本来そうすべき相手である八大貴族に対して、夜月はそのような態度をとった。

 いくら顔見知りであっても、その行為は恐れ多いものだ。


 だけど、夜月はその態度をとった。

 頑固たる目標を持つが故に────


「ふふっ、夜月らしい言葉です」


 夜月の態度を見て、マリアが小さく笑う。


「確かに、労いの言葉は必要ありませんでしたね。夜月は初戦、一歩を踏み出したに過ぎません────まだまだ、道は長いのです。労いの言葉など、今は不要なのでしょう」


「そうだそうだ。だから、もう少ししてから労ってくれ」


「えぇ……そうしましょう」


 そして、マリアは夜月と茜に向かって踵を返す。


「では、私達はこれで失礼いたします」


 それに続き、ミラも二人に向かって軽く頭を下げる。

 その所作は、とても丁寧なものであった。


「あ、そうです────」


 教室から出ようとした途中、マリアが何かを思い出したのか、一瞬だけ振り返った。


「今日の夜月は……かっこよかったですよ」


「んなっ!?」


 小さく微笑み、今度こそ教室から出ていってしまった。

 最後に、猛烈な一撃を残したまま────


「……本当に、マリアさんの事が好きなんだね」


「……頼む、見ないで」


 立ち去った後、茜は夜月の姿を見て苦笑いを浮かべた。

 夜月は、自分でもどんな顔をしているのかが分かっているのか、片手で見えないよう真っ赤になった顔を押さえる。


「え、えぇい! 新手の精神攻撃を受けてしまった! これは俺達『愚者』のクラスを恐れての攻撃なんだ!」


 夜月が、顔を赤くしたまま立ち上がる。

 きっと、照れを最大限に誤魔化そうとしているのだろう────無理矢理にもほどがあるのだが。


「そうだねー、攻撃だねー」


「おいコラ、信じてないな相棒? 本当なんだ、本当に攻撃なんだ!」


「はいはい、皆が先に行ってるから早く行こうねー」


 そう言って、必死に訴える夜月の背中を押して、茜は教室の外へと促す。

 茜の顔は、何故かむくれていたのは、夜月は気づかない。


「……ねぇ、海原くん」


「ん?」


 夜月の背中を押しながら、茜は小さく呟く。


「ありがとね……私の夢に近づけてくれて」


 その言葉は、本心から出てきた言葉だ。

 自分一人では絶対に成しえなかったアルカナの奪取。それが、夜月の登場によって成し遂げれた。

 それが嬉しくて、感謝しかなくて……今の茜の心の中は、この学園に来てから一番晴れやかなものである。


「何言ってんだよ、明星院……俺も、お前がいたから前に進めたんだ」


 アルカナゲームというものを親身になって教えてくれた。

 馬鹿でかい夢に、一緒になって付き合ってくれた。

 夜月も夜月で、茜には感謝している。


 だから────


「まだまだ賭博は始まったばかりなんだ────これからも頼むぜ、相棒」


「うんっ!」


 これからも、夜月は歩みを止めない。

 全てのアルカナを手に入れるまで────




「さぁ、賭博を始めよう────テーブルに賭けるのは、そのアルカナただ一つだ」




〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


※作者からのコメント


お久しぶりです、楓原こうたです。

これにて、『八大貴族とアルカナゲーム』を完結とさせていただきます!

頭脳戦は、本作で二回目……前作同様のクオリティには届きませんでした💧


ですが、1作分書き上げれたことは、最後までお読みしていただきました皆様のおかげです!

これって現代ファンタジー? という疑問を抱きつつ、皆様に最大限の感謝を。


拙作の『魔法学園の大罪魔術師』が、2/26に発売します。

詳しくは近況ノートに記載してますので、もしよろしければ……


これからも、皆様何卒よろしくお願いいたします!



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八大貴族とアルカナゲーム~天才賭博師の少年は学園で愚者になり、貴族の娘を手に入れるようです~ 楓原 こうた【書籍6シリーズ発売中】 @hiiyo1012

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