温かさは紅茶の味
「んん〜。おいひいー」
噴水前のベンチに座りながら伊村は俺が買ったクレープを心底幸せそうな顔で頬張る。
「甘いな……」
そんなに甘い物が得意では無い俺は美味しいと感じるが微妙な顔をしている事だろう。
「ん?食べないのかい?」
「俺、甘いのそんなに得意じゃ無くてな」
「そうなのかい?こんなにも美味しいのに」
「女子って何でこうも甘いものを好むのか分からないな」
「女子だからだよ!」
「それは理由と言えるのか?」
「女の子はね甘い物を食べる事によって女としてより一層の進化をするんだよ!」
「ポケモンの進化の石見たいだな」
「そういう捉え方も出来るね」
「……横に進化するの間違いなんじゃないか?」
「今、僕のどこを見て言ったのかなぁ?怒らないから正直に言ってみなよ?」
「ん〜?腹」
「本っ当に正直だね君は!もう少しデリカシーと言うものを覚えてだねぇ」
伊村は俺の頭をグリグリする。痛い。
「正直に言っただけなんだが?」
「君って奴は……正直過ぎるのも悩み物だな」
伊村は手をこめかみに置き溜息を着く。公園の街灯の光によって伊村の白い息は鮮明に目に映る。
「ご馳走様!」
伊村は両手を合わせた。
「早くね」
「美味しいものは早く食べ終わる物なのだよ!」
「そういうものか?」
「そういうものなんだよ!」
「ん〜?じゃ、これやる」
俺は食べ掛けのクレープを伊村に渡す。
「えぇっ!良いのかい!?」
その時の伊村の目の輝きようと行ったら一番星よりも輝いていた。
「食っていいぞ」
「ありがとう!湯町が友達で良かったよ!」
「お前の友達基準低くね?」
「いただきまーす!……あっ」
口に入れる直前に伊村何かに気付いたように動きを止め俺の事をチラチラと見てくる。
「何だよ」
「えっ、いや、これ……」
伊村の顔は赤くなっており、何かに戸惑っているようだった。
「嫌いな味だったか?それなら無理して食べなくてもいいぞ」
「いや、そういう訳じゃ……」
「ん、そうか、ならどうした?」
「いや、だってこれ……」
伊村は俺とクレープを2、3度見比べたあと覚悟を決めたように深く深呼吸をした。
「ただ、クレープ食べるだけなのに何をそんな覚悟を決めてるんだ?」
深呼吸をした後動かなくなった伊村に聞いてみる。
「もう、うるさいなあ。僕には僕なりに色々な準備があるんだよ!」
ただ、食べるだけなのに……。そう思ったと同時にある事に気付いた。
「あ、そっかぁ」
「なんだい急に?」
「このままだと関節キスになるな」
俺は何となくで言ったつもりだった。
「!つつつつ!?」
伊村の顔は急速に赤くなっていき、幻覚なのか頭のてっぺんから湯気が出ているように見えた。
「まあでも、そんなの気にする歳でもないだろ」
「うん……そうだね……」
伊村は小声で答えた。
「ちょっとココア買ってくるわ」
長時間外にいた為指先が冷たくなってきた俺は伊村に断りをいれ近くの自販機でココアとHotの紅茶を買った。
ピトッ
俺は買ってきた紅茶を伊村の頬に当てた。
「!?っ」
伊村はノールックで振り返った。その様はまさに心霊映画の幽霊のような速さで。
想定外の反応に流石の俺も軽くビビった。
「誰かと思えば君かい……」
「漫画にあったシーンを再現しただけなんだが、思ったよりも良い反応をしてくれたな」
「気を抜いている時に頬に温かい物が当たれば誰だってビックリするよ」
「そうか、悪かったな」
「別に良いけどさ……。所で何で二本買ったんだい?湯町そんなに飲むっけ?」
「こっちの紅茶はお前用だよ。確か紅茶好きだったよな?」
「えっ?……覚えたんだね」
「そりゃあなぁ」
入学式が終わった後の自己紹介の時間に伊村は紅茶が好きと言っていた。たまたまだが、覚えていた。
ナイス俺の記憶力。
「ありがとう……。いくら?」
バックから財布を出そうとする伊村を止める。
「別にいいよ。クレープのついでだから」
「そういう訳には行かないよ。僕が君と交した約束はクレープだけだからね。それに、貸しは作りたくないんだ」
「人の好意は素直に受け取った方がいいと思うぞ」
喉を通るココアの温かさと甘さは冷えきっていた体を内側から温める。
「そう言うなら受け取るけど……後で請求するとか何だからね」
「ああ。分かった約束するよ」
俺は飲み終わったココアの缶をベンチに置き、伊村が飲み終わるまで公園で人目をはばからずイチャコラしているカップルに三日以内に糖尿病で入院する呪いを掛け続けていた。
恋愛禁止法とか無いかなと思う俺であった。
無気力系な俺は無自覚にボクっ娘を振り回す 砥上 @togami3
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