かがやく石

ぽかんこ

第1話

 ある田舎町で暮らしている少年は、森の中へ遊びに出かけた。

 いつも駆け回ったり、拾った木の枝を振り回したり、巨大な樹木に登ったりして遊んでいる。そうやって冒険をして、なにか珍しいものはないかと探してみる。

 やがて少年は川辺で石拾いを始めた。丸い石、四角い石。大小さまざまな石が川原には転がっている。そのそばで、清流が静かに流れていた。

「あれはなんだろう」

 太陽の光に反射して、なにかがきらめいたのを見た。

 近づいてみると、小さな石が、緑色の輝きを放っているのを見つけた。

 少年はその石を拾い上げる。

「わあ。これはすごい石だぞ」

 人差し指と親指でつまんで、青空に透かしてみると、その宝石はどこまでも透き通っていた。

「こんな石は見たことがない。みんなに見せびらかせるし、珍しいから、きっといいお守りになる」

 そうして、少年はこれ以来、この緑色の綺麗な石を大切に身に着けるようになった。



 それから間もなく、少年は寝込みがちになった。

 体調がすぐれなくて、食べたものを戻したり、せきこむことが多くなった。

 季節の変わり目だったので、ただの風邪だろうと、深刻には考えなかった。病床に伏した少年を、母親は懸命に世話した。

 しかしそのうち、さらなる症状が現れ始めた。

 頭髪がしだいに抜け落ちた。皮膚が爛れ、傷が治らなくなった。全身が痛み、寝返りを打つことさえ困難になった。

 初期症状が出たこと、母親は自宅に町医者を呼び込み、見てもらうことにした。

 最初に少年をみた医者は言った。

「原因はわかりませんが、薬を処方しておきましょう」

 症状は良くならなかった。

 続いて、二人目の医者が診察にやってきた。

 しかし、明確な原因は判明しなかった。

 三人目は、都市部の大きな病院に行くことを勧めた。しかし、それにかかる余裕はなく、街まで出るには、山を二つほど越えなくてはならなかった。病気の息子を背負って行くのは困難を極めた。

 その間にも、病状は進行した。

 少年はこの病気が治り、また森の中を駆け回ることを願った。宝石のお守りを肌身離さず持って、大切に握りしめていた。

少年の祈りも、母親の看病もむなしく、ついには、少年は静かに息を引き取った。



月日が流れて、さわやかな快晴の日に、田舎町に、防護服を着た大人たちがやってきた。

彼らはある民家を探し当てて、その扉をノックした。

 中からは、息子を亡くして月日の浅い母親が出てきた。

「いったいなんでしょうか」

「わたしたちは都市から来ました。科学者です。あなたの息子さんについて、お話を伺いたいのです」

「息子はもう……」

「ええ。お悔やみ申し上げます。ですが、息子さんは生前、なにか珍しいものを持っていたりはしませんでしたか?」

 母親は少し黙って言う。

「はい。川原で拾ってきた綺麗な石ころを、大切に身に着けていました」

「それはいまどこに」

「息子と一緒に埋葬しました」

 科学者と防護服の大人たちは顔を見合わせた。

 その後、少年の遺体を掘り起こして、その中から緑色の宝石が見つけ出された。

「細心の注意を払え」

 防護服の大人は、緊張した手つきでその石をケースにしまい、厳重に密閉した。

「あれはいったいなんなのです」

 少年の母親は尋ねた。

「放射性鉱石です」

 科学者が淡々と告げると、母親は膝から崩れ落ちた。

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