春、ふたたび……
春になりました。
ルドルフがハンナに愛を誓ってから
一年が経ったのです。
自然は一年前と変わらず、
花が咲き乱れ、鳥達は楽しそうにさえずっています。
しかしハンナは健康で美しかったころとは違い
痩せこけてしまいました。
ちょくちょく、叔母さんが料理を持ってきてくれるのですが、
ハンナの喉が食事を受け付けないのです。
また心配した叔母さんが「病院へ行こう」と言っても、
「家を離れたくない。いつルドルフが帰って来ても良いように私が居なきゃ」
と言って、決して家を離れないのです。
時折、散歩で気分を紛わしたりすることもありましたが、それも一時のこと。
ハンナは家に帰り一人になると
ルドルフを思い出してしまい寝込んでしまうのでした。
そんなある日のことです。
数日ぶりに買い物に出たハンナは、
帰りに荒れ果てた畑に気づきました。
それは、かつてルドルフと一緒に耕した畑でした。
ルドルフがいたころとは違い、誰も手入れをしていないため荒れ放題になってます。
ハンナはルドルフとの幸せだった毎日を思い出し、また涙が流れてしまいました。
「ルドルフ。早く、早く帰ってきて」
しかし、その時、ハンナの瞳にはあるものが映ったのです。
それは若木でした。
まだハンナの膝ほどの高さでしたが、
力強く天に伸びようとしていました。
そう、それは去年ルドルフと一緒に植えた、
あの大樹の種が成長した姿だったのです。
ハンナは、あれから一年が経ったことを知りました。
そしてハンナはルドルフの言葉を思い出します。
「あの大樹も千年前の誰かが植えたんだ。僕達と次の世代。そのまた次の世代がじっくり育てていけば、いつかきっとあの樹のようになるさ」
ハンナは涙をグッと堪えました。
そして家に戻ると、物置から鍬と鋤を持ちだし、畑へ出ました。
「ルドルフがいつ帰って来ても良いようにしなきゃ。畑を守るのは私しかいない」
ハンナは力強く鋤と鍬をふるい畑を耕しはじめたのです。
もう泣いてはいられない。
このままだとルドルフだって喜ばない。
いつか、きっと、かならず、
ルドルフは帰ってくる。
そう信じて、
今日もハンナは畑を耕すのでした。
〈了〉
クリスマスまでには… ヨシダケイ @yoshidakei
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