エピローグ サンタが貰ったプレゼント


 男子、三日会わざれば刮目して見よ。



「…………やつれとる」



 たったの三日。

 されど三日。



 ちょっとした親切心。

 その代償が。


「これだったとしたら俺はもう一生誰にも親切にしない」



 ――深夜に風呂に入って。

 上がったところで鏡を見れば。


 頬がこけたような印象の。

 人相の悪い男がそこにいた。



「まあ、結局は楽しいクリスマスだったからいいか」



 今までとは違う。

 友達と過ごしたクリスマス。


 振り回されたけど。

 大変だったけど。


 俺は階段を上がりながらも。

 疲労困憊の体をすぐにでもベッドに横たえたいと思いながらも。


 この三日の事を。

 順を追って思い出していた。



 おっさんと娘さん。

 公園で会ったさんたちゃんと。

 ワンコ・バーガーのさんたちゃんのせいで。

 秋乃を親父さんに会わせたくなって。


 東京で。

 親父さんたちのいる場所をさんたちゃんに教わって。

 翌日にはさんたちゃんのせいで大冒険。


「……すべてはさんたちゃんの仕業か」


 部屋に入って。

 バスタオルを椅子に掛けながら。

 指折り数えてみると。


 ブローチ。

 ネックレス。

 ブレスレット。

 リング。


 あげもあげたり。

 アクセサリーは、全部あいつらにとられたわけだ。


 そして人形を秋乃にあげて……。


 俺は………………?


「あれ?」


 俺は?


「俺だけなんにも貰ってねえ!」


 まじか、そんなことある!?


「こらサンタ! お前の縮小版にさんざんみついだんだ! 等価交換を要求するぞ俺は!」


 なんて声を荒げたところで。

 サンタはとうにラップランドのベッドで高いびき。


 お前の方が疲れてるだろうし。

 文句は来年までお預けだな。



 ……もういいや。

 寝よう。


 どっと疲れが押し寄せて。

 あっという間に眠くなった俺は。


 ベッドに近付くと……。


「ん?」


 枕元に。


 リボンがかけられた。

 小さな箱が転がっていた。


「これ……」


 リボンに挟まったピンクの手紙。

 小さなメモ紙を開くと。

 中から現れたのは。



 一年間、良い子にしていた『お友達』へ



 几帳面な、筆跡鑑定もいらない文字。

 筆者の容姿がそのまま描かれているような美しい写実画。



 ……さっきの。

 瞳を閉じた秋乃の顔が脳裏によみがえる。


 リボンをほどく手が震える。

 心臓が喉を潰して。

 呼吸が思うようにできないほど暴れる。


 どんな品が出て来ても。

 俺は。

 俺の中の感情は。


 このメモ紙のよう。

 淡い紅色に塗り替わるかもしれない。


 緊張がピークに達する。

 それでもテープをできる限り丁寧に剥がして包みを折りたたむ。


 ただの包装紙なのに愛おしい。

 さっきの、秋乃の気持ちがよく分かる。

 大事に取っておきたいと心から思う。


 そして、箱に指をかけながら。

 この感情の正体に、今気が付いた。



 …………ひょっとしたら。


 俺は、秋乃のことが。





 ………………………………。





「うはははははははははははは!!!」





 ひょっとしたら。

 嫌いなのかもしれん。




 箱の中に入っていた袋に書いてあった文字。

 それは。



 『硝酸エステル 』



「そのまんまお前にくれてやるわ!」



 床に箱ごと放り投げて。

 布団にもぐって。

 長い、なが~いため息一つ。



 やれやれ。



 結局俺は。

 なーんも貰うことが出来なかっ……



「ごほっ!」



 ……ん?



「ごほっ! ごっほごほ!」




 …………なんだ。


 ひとつだけ。

 貰ってたじゃねえか。


 


 秋乃は立哉を笑わせたい 第8.5笑

 ~サンタが貰ったプレゼント~


 おしまい♪

 

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秋乃は立哉を笑わせたい 第8.5笑 ~サンタが貰ったプレゼント~ 如月 仁成 @hitomi_aki

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