願い石

城間盛平

願い石

少年は学校からの帰り道だった。途中一人の老人と出会った。老人は髪はボサボサで、服もボロボロのホームレスのような出で立ちだった。少年は不快に思ったが、顔には出さないようにすれ違おうとした。もし。少年は老人に声をかけられた。


「そこの坊ちゃん、ワシはとても喉が渇いている、何か飲み物を恵んでくれないだろうか」


少年は不本意だったが、断って逆上されたら怖いので、飲みさしでよければと、鞄に入っていたスポーツドリンクを老人に差し出した。老人はスポーツドリンクをひったくるようにして飲み干した。


「坊ちゃんは心優しい人だ。お礼にこれをあげよう」


老人はボロボロの服のポケットから何かを取り出し、少年に手渡した。少年が手の中の物を見ると、ただの小さな石ころだった。


「この石は坊ちゃんの願いを三つ叶えてくれます。よく考えてからお使いなさい」


そう言うと老人は少年の前から立ち去っていった。少年は老人の言葉をたわ言と決めつけた、石ころに願いをかけて叶うはずがない。ならば絶対に叶いそうもない願いを言ってやった。


「お父さんに会いたい」


少年は石ころに願いを言った。少年の父親は五年前に姿を消してしまった。それ以来母親か必死に探しても、ようとして行方が知れなかった。少年がアパートに帰り着くと、母親が驚愕の表情で出迎えて言った。お父さんが帰って来た、と。少年が部屋に入ると、痩せた髭だらけの男がいた。


「お父さん?」

「ああ、大きくなったなぁ」


父親と名乗る男は少年を眺めて、何度もうんうんと頷いた。母親は泣いていた。少年はひどく驚いて、少しくすぐったい気持ちになった。母親は腕によりをかけて夕食を作りだした。父親は、タバコを買いに行ってくると言ったきり帰って来なかった。母親は泣いて落ち込んでいた。少年は母親を慰めながら、父親の好物の豚カツを頬張った。願いの仕方かまずかった。少年は父親に会いたいと願った、父親に会えた事により願いは達成されたのだ。少年が父親と夕食をとりたいと願っていたら、一緒に食卓を囲めただろう。少年が父親ともう一度一緒に暮らしたいと願えば叶ったかもしれない。だが少年は満足していた。もう二度と会えないと思っていた父親ともう一度会えたし、少年の成長ぶりも父親に見てもらえたからだ。


願い石は本物だった。少年はあと二つ願いを叶える事ができるのだ。少年がポケットから石を取り出して見ると、先ほどまで見られなかった小さな亀裂が入っていた。少年はそこである事を思い出した。最近テレビを賑わせている奇妙な事件だ。銀行の金庫にあった大金が忽然と消失したり、人気絶頂の女優が忽然と姿を消したりしていた。もしかするとあの老人は、少年以外にも願い石を渡しているのではないか?だからこのような人知を超えた出来事が起こったのではないか。残りの二つの願いは、よくよく考えなくてはならない。


次の日少年が学校に行ってみると、見上げるほど大きな巨人が、学校を破壊していた。大方学校嫌いの奴が願ったのだろう。幸いだったのは、巨人が現れたのが早朝だった為、この破壊による怪我人はいなかった事だ。少年はポケットの中の願い石を握りしめると、願いを言った。


「巨人よ消えろ」


巨人はフッと煙のように消えた。巨人に恐れおののいていた教師と生徒たちは安堵のため息を漏らした。少年がポケットから願い石を取り出すと、亀裂が二つに増えていた。少年の三つ目の願いが決まった。荒唐無稽な願いとは、叶わないから無責任に願えるのだ。分不相応な大金など身の丈に合わない。高嶺の花を手に入れた事とて同様だ。


「願い石、最初から存在しなかった事にしろ」


少年は願い石に最後の願いを言った。破壊された学校はたちどころに元に戻った。少年の手の中の願い石に三つ目の亀裂が入り、そして粉々になって消えた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

願い石 城間盛平 @morihei

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ