第27話:そろそろいいんじゃない?

 大量のお菓子を抱えた集は再びクレーンゲームコーナーへと戻っていき、梨沙が交代するかのようにこちらへ来た。


「や~全っ然取れないよ~。足立君なんであんなに取れてるの~?」

「あいつ結構こういうゲームとか得意だからな。そういえば去年もやたらとクレーンゲームで景品取ってたっけ……。そのせいで店員に勘弁してくれと言わんばかりの視線を向けられてたよ」

「あはは…すごい才能だね、ある意味」


 しかも集だけが睨まれるならまだしも、一緒に居ただけの俺にまでその視線を向けてきたのだから、とんだとばっちりだった。あれ以来集には加減するようにと釘を刺しておいたのだが、果たして……。


「……ところで話は変わるんだけどさ」

「うん?」


 梨沙は少し言いずらそうにしつつも、真面目な表情をして俺に目を向けていた。


「六花ちゃんの事、足立君や生徒会の皆には伝えないの?」

「…ん」

「最近は生徒会の仕事もしてるし、こうやってたまになら遊びにも行けるんでしょ? だったらそろそろいいんじゃない?」

「そうだな…まぁ俺も考えていたことだけど、梨沙の言う通りかもな」


 とはいえ梨沙に朱音、水原は六花の存在は既に知っているから、後はどういった経緯で家族になったかを話すだけ。一から話さなければならないのは新藤と集。

 二人とも理解は早い方だしすんなり納得してくれるだろう。集も同様だろうが、その後で色々くだらない質問してきそうで既に億劫である。


「とりあえず、タイミングを見て話すことにするよ」

「そっか。ごめんね、余計なこと言っちゃって」

「いや…考えてたとはいえ、どう切り出すか迷ってたから、助かるよ。ありがとな」


 そう言うと、梨沙は「えへへ」と照れ臭そうに笑いながら頬を掻いた。


 ふと、そういえば集はどこ行ったんだろうと辺りを見回してみると、何やら店員と話をしているようだった……更に増えた景品をデカい袋に入れて。


「…あいつは学習しないのか?」

「あはは…」


 その後俺達も集の元へ行き、これ以上はやりませんからと平謝りして事なきを得た。集はずっと不満な様子だったが、無理やり頭を下げさせた。


「いや~、大量大量!」

「…お前はマジで反省しろ」

「そうだよ足立君、おかげで私達まで頭下げることになったんだからね!」

「う…はい。すみません」


 ゲームセンターから近くにある喫茶店へ移動して一休み入れることにした俺達は、各々好きなものを注文し終えたところで、集が全く反省していない発言をしていたので不満をぶつける。


「お待たせしました~。こちらストロベリーパフェでございます」

「お、来た来たー! ウマそ~!」


 それからしばらくして。

 集の注文したパフェから次々運ばれ、注文したものすべてが揃ったところでこの話題は終了させた。


 俺は注文した紅茶をゆっくり飲み、体が温まるのを実感する。気づかないうちに結構冷えていたらしい。


「ふぅ…………って、なんだ梨沙。そんなに見て、何か顔に付いてるか?」

「…へ? あ、いや~…あはは。なんていうか、凄く様になってるな~って思って」

「…? 何のことだ?」


 頬を赤くした梨沙の言っていることが今一ピンと来なかったのだが、集はすぐに理解したようで頷きながら肯定した。


「前田の言ってること俺にもわかるわ。確かに様になってるよな」

「…だから何がだよ」

「紅茶を飲むときの仕草とか姿勢とか、そう言ったのが綺麗だから貴族っぽいってこと」

「そうそうそれ! なんか育ちがいい感じがした!」

「え~…ごく普通に飲んでるだけなんだが。後別に育ちがいいわけでもないし」

「分かってるって」

「会長君でこれなら、もしかして六花ちゃんも……あ」

「…六花ちゃん? 誰だ?」


 ……梨沙ってまぁまぁうっかりしてるとこあるんだよな~。以前六花に言われた俺が言えたことじゃないけど。

 その梨沙がごめんと顔の前で両手を合わせて謝っている。


「いや、ちょうどいいか。…集、ちょっと話があるんだが」

「ん、おう」


 真面目な話なのだろうと悟った集は、姿勢を正した。梨沙もどういった経緯で六花と家族になったかまでは知らないからか、同じように姿勢を正す。


「えっと、さっき梨沙が言った六花は俺の妹…になった子なんだ」

「…ってことは、やっぱ義理か。春の父親が亡くなったのは去年聞いたけど、もしかして再婚したのか?」

「いや、してないよ。今もアメリカで仕事してるし。六花は捨てられた…というと少し語弊があるかもしれないが、養えなくなったから代わりに育ててやって欲しいとうちの母に頼み込んだ。母さんもそれを承諾して、けど仕事で全然かまってやれないからって、俺のとこに預けたんだ」

「……なるほどな。ちなみにその六花ちゃんは今いくつなんだ?」

「10歳で小学4年生だ」


 それを聞いて集はふむ…と少し考え込んだ。梨沙はそんな経緯があったなんてと驚いている様子だった。まぁこんな話を聞いたら無理も無いだろう。


「前に午前で早退したのも、生徒会に参加できないって言ってたのも、全部六花ちゃん関連ってことか」

「ああ。ちなみに早退した日は授業参観に行ってたんだ」

「ほ~…前田は知ってたのか?」

「うん、まあ六花ちゃんとどういう経緯で家族になったのかは今初めて知ったけど」


 それからも大まかにだがこれまで何をしてきたか二人に話していく。二人とも俺の話を静かに聞いてくれていた。授業参観の話をしたとき梨沙が号泣したのには驚いたが。


 全て話し終えると、集はうんうんと頷いて。


「なるほどな~。にしても春」

「ん、なんだ?」


 感心たように、褒めるように、これまでの事を労うかのようにこう言うのだった。


「ちゃんと父親やってんだな」


 と。


 ――――それから1時間ほどで解散し、喫茶店から六花の友達の家…亜美ちゃんの家までは梨沙と途中まで同じ帰り道なので一緒に帰ることに。


「…足立君も言ってたけどさ」

「うん?」

「会長君、ちゃんとお父さんやってるんだなって…いや、この場合はお兄ちゃん?」

「まぁどっちもって感じかな。六花は頑なに親じゃなくお兄ちゃんだと言い張ってるけど」

「あはは、まあ六花ちゃんからしたらちょっと複雑かもね」


 多分その理由は俺には一生分からない物なんだろう。あまり深く突っ込まないほうがいいのかもしれない。


「けどほんとすごいね、会長君は」

「…別にそんなことは」

「あるよ。だってまだ学生なのに子供の親代わりして、勉強も出来て家事も全部こなして。誰にでも出来ることじゃないもん。だから会長君は凄い! 偉い!」

「あの、なんか恥ずかしいからやめてくれる?」


 俺がジト目でやめるよう言うと、梨沙は頭を掻いて謝る。


「えへへ…ごめんごめん」

「全く…」

「何にしても、良かったね。足立君、すんなり受け入れてくれたっていうかさ」

「ん…そうだな。まぁ正直なところ、そこはあんまり心配してなかったんだけどね」

「そうなの?」


 少し意外そうに聞いてくる梨沙に、俺は頷いて答えた。


「ああ、意外とって言うと流石に失礼だけど…あいつそういう真面目な話はちゃんと聞いて相手の気持ちとか察せられるタイプだから。そのうえで下らん質問してくるんじゃないかと疑いはしたが…」

「…そっか。二人って、ちゃんと理解し合ってるっていうか、いいパートナーって感じだよね」

「やめてくれ気色悪い」


 俺のツッコミにはっはっはと笑う梨沙。集に対してはああいったけど、梨沙も梨沙で気遣い出来るし優しいし。常々思うが本当に良い人たちに囲まれているな、俺は。


「ふふ……ふぅ。おっと、私はこっち側だけど、会長君は?」

「ん、俺はこっちだからここでお別れだな」

「りょーかい。それじゃまたね~!」

「ああ、気を付けて帰れよ」


「私のお父さんまでやらんでよろしい!」と言いながら梨沙は遠ざかっていく。


「……何を言ってるんだ、あいつは」


 俺も半ば呆れながら六花を迎えに行くため、佐藤家へと向かうのだった。

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ただの生徒会長の俺が、孤独な少女の親代わり。 高町 凪 @nagi-takamiya

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