ツウィートしただけなのに⑫
一週間後、ツウィッター事件が起きた時の服装をして由佳は出かけていた。 あの時と同じ、ただやってくる相手はあの時とは違っている。 だが気分は何とも複雑だ。
―――この服、お気に入りだったんだけどなぁ。
―――一週間前の事件のせいで、汚されてしまった気分・・・。
もう容姿が分かっているため服装を合わせる必要はまるでない。 だがそれでもこの服を着たのには理由がある。 待ち合わせの場所へ行くとそこには見知った少年が立っていた。
大人ではない少年が一人、由佳は確認すると同時に小走りで駆け寄った。
「セナ!」
「ッ、由佳!」
失敗した日をもう一度やり直すことで前へ進むことができる。 どうやらセナも同様に思っていたようで、監禁されていた時の服装と全く同じだ。
スマートフォンを没収されたまま使えなかったというのに、二人の気持ちが繋がっていた気がして嬉しかった。
「一週間ぶりだね! セナ、会いたかったよ!」
「うん、僕もだよ。 よかった、来てくれて」
「ごめんね。 スマホが使えなくて」
「やっぱり没収されたまま?」
「うん・・・。 当分返してくれないと思う」
炎上したまま放置しっぱなしになっている。 もうツウィッターに戻ることはできないし、以前からの仲間とももう交流することはできないだろう。 だがフォロワーが問題を起こしたことは事実なのだ。
今も見られていることは確実で、次トラブルが起きた時無事に済むとは限らなかった。
「そっか・・・。 由佳から何も連絡が来ないから、やっぱり没収されたままなのかなって思ってた」
「おそらく、高校生になったら新しいのを買ってくれると思うんだ」
「まだ一年も先だね」
「うん、そう・・・。 だからもう、セナとは連絡を取れない」
固定電話で連絡なんて時代ではないし、携帯がなければ連絡が取れないと思っている。 リアルでの繋がりがある律奈であれば問題はないが、セナとはネットでの知り合いでしかないのだ。
セナは由佳の顔色を窺いつつ尋ねてきた。
「・・・由佳はもう、僕と会いたくない?」
「ッ、そんなわけないじゃん! セナとはこれからも仲よくしたいし、いっぱい遊びたいよ!」
由佳の抱える問題を解決するのは簡単だ。 セナは嬉しそうに笑うとある提案をした。
「よかった。 ならさ、毎月の最初の日曜日、ここで会わない?」
「え?」
「そしたら連絡しなくても会えるでしょ?」
「ッ・・・! うん! 二人だけの約束だね!」
それはリアルでの繋がりを作る約束事だ。 携帯が便利になり過ぎて待ち合わせをすることが容易になった。 だが携帯を持つまでは由佳もしていたことを忘れていたのだ。
セナは小さな紙切れを渡してきて、そこには固定電話の番号が書かれている。 頻繁に連絡を取ることはできないが、待ち合わせをするくらいには問題がない。 その後は先週遊べなかった分たくさん遊んだ。
あの日のように奢りではなく割り勘だが、楽しさはあの時の二倍以上だった。 すると途中で女子がスマートフォンを人に向け笑っているのが目に入った。
「何をしているんだろう?」
何故か不審に思い彼女に近付いてみた。 よく見ると凄いメイクをしていてギャルのようだ。
「アイツ、絶対にカツラだよね? ウケるー! 写メを撮って友達に見せよう。 あ、ついでにツウィッターにも載せようかな」
それを聞いて二人は顔を見合わせる。
「由佳、行く?」
「もちろん!」
勇気を出して女子高生の前へと飛び出した。 カメラの前に立たれ、彼女は嫌そうな顔でこちらを見ている。
「・・・何?」
「あの! 止めた方がいいですよ、そういうの」
「はぁ?」
「人を馬鹿にするとすぐに炎上します!」
「人の娯楽にいちいち」
由佳に続いてセナが言う。
「ここからだと電信柱も写真に写ってしまうので、気を付けた方がいいですよ。 自分の居場所が特定されやすいので。 お姉さん可愛いから」
「ッ・・・」
「「では!」」
二人は笑顔でこの場から去った。 二人は学んだネットの怖さを、由佳は学んだネットの儚さを知った。 だからこそ二人は出会った人を大切にしたいと思ったのだ。
「そう言えば由佳! 僕、ツウィッター止めたんだ」
「ん・・・。 えぇ!?」
「由佳がいないならツウィッターにいる意味がないし」
「でもセナはそこまでしなくても」
「それに怖い思いはもう、こりごりだからね」
-END-
ツウィートしただけなのに ゆーり。 @koigokoro
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