ツウィートしただけなのに⑪
一連のやり取りを終え、冬真の背中を見送った後律奈が言う。
「今の人も、由佳のツウィッタ―のフォロワーさん?」
「うん、そうだよ」
「そうなんだ。 通報して助けてくれるなんて、優しい人もいるんだね」
―――・・・うん、その通りだ。
―――今日一日を通して、ネットという存在がどんなに恐ろしいものなのかを知った。
―――“調子に乗るなよ”とか、嬉しくない言葉をもらう時ももちろんある。
―――だけど今日はそれに比べものにならないくらい、怖い思いをしたんだ。
―――ネットの人は悪い人が多い。
―――でも中には冬真さんのように、心から優しい人もいる。
―――そういう人を大切にしていかないといけない。
―――・・・と思っても、実際会って本心を見せてくれるまでは、いい人なのか悪い人なのか分からないんだよなぁ。
由佳は反省すべきことがたくさんあると思った。 セナも冬真も想像していたのとは随分違う人たちだった。 セナと騙って現れた男は、年齢が明らかにおかしかったのに一瞬はセナなのだと信じてしまった。
軽い気持ちで発信した言葉で炎上してしまうことがある。 ネットだからといって安易な気持ちでいたらいいわけがなかったのだ。
「由佳!」
「お母さん!」
母が到着したようで怒ったような顔で近付いてきた。 そのままゲンコツを食らう。
「痛ッ」
「人様に迷惑をかけて何をしてんの! 家族にもたくさん迷惑をかけて!」
「ご、ごめんなさい・・・」
母は由佳のポケットからスマートフォンを抜き取った。
「あっ!」
「警察から話は全て聞いたわ。 スマホは没収ね」
「え、そんな! 急に駄目だよ!」
奪い返そうとする由佳を母は見事にかわす。 そして律奈へ向き直った。
「律奈ちゃん、ごめんね。 律奈ちゃんだけでなく、ご家族にも迷惑をかけて」
「いえ」
「由佳にはキツく言っておくから。 由佳との付き合い、考えてくれて構わないからね」
―――ッ・・・。
その言葉に由佳は反応した。 恐る恐る律奈を見る。 だが律奈はそれに応えるように首を振っていた。
「ありがとうございます。 でも由佳との友達は続けます」
「本当にいいの?」
「はい。 由佳も大分反省しているみたいだし」
そう言って由佳に目配せをしてくれた。 優しい友達に笑みが零れる。
「ありがとう、律奈ちゃん。 また由佳が何かをしでかしたら、すぐに私に教えてね」
母はそう言うと今度はセナに向き直った。
「貴方がセナくん? 由佳とネットで仲よくしていた」
「あ、はい・・・」
「セナくんにも迷惑をかけてごめんね。 でもセナくんはいい子そうでよかった。 由佳と友達になってくれてありがとう」
その言葉にセナは首を横に振る。
「それは僕の台詞ですよ! 由佳さんのおかげで、毎日楽しい生活を送ることができたんです」
「本当? そう言ってくれてありがとう」
律奈とセナと話し、母の雰囲気も幾分か和らいだように見えた。 由佳はチャンスと思いすかさず二人の間に割って入る。
「ねぇ、お母さん・・・。 スマホ返してよ」
「駄目よ。 今は由佳のツウィッタ―が荒れているんでしょ? 今戻ったところで、誰も迎えてはくれないわ」
荒れているからと放置してしまえば、もう二度とツウィッターに戻ることはできなくなる。 確かにいいことも悪いこともあり、反省すべきだとは思っている。
それは時間が解決してくれる問題なのかもしれないが、今はただ放置することはできなかった。
「じゃあせめて謝らせて! お礼も言いたいし、別れの挨拶もしたい。 これで終わりなんて嫌だ!」
「我儘を言わないの! これ以上人様に迷惑をかけないで」
「そんな・・・」
フォロワーたちとの楽しいやり取りが蘇ってくる。 ようやくネットという存在のよし悪しが分かったというのに、ネットでの関係はあっという間に切れてしまうということを知っている。
炎上している今、以前からの仲間たちは由佳が現れなければもう関わってこようとはしないだろう。 落ち込んでいる由佳の服の袖をセナが引っ張った。
「由佳。 一週間後、同じ時間に同じ待ち合わせ場所へ」
小声で言われた言葉で、セナも同じ気持ちということが分かって嬉しかった。
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