ツウィートしただけなのに⑩
考えていたが答えは見つからず、先程の警察が戻ってきた。
「保護用の車が到着したから、そこまで移動してくれるかな?」
その指示に従い大きな車へと移動する。 後ろのドアは開いており開放的な作りになっていた。
「はい、どうぞ。 これを飲んで少し待っていてね。 君たちの両親に連絡をしたから、じきに迎えが来ると思うよ」
女性の警察官が来て三人に各々カップを渡すと、手を振りながら去っていった。
「両親・・・」
そう呟く律奈の方を見た。 律奈が親に迷惑をかけたくないと言っていたことを思い出したのだ。
「律奈ごめん! 律奈のお父さんとお母さんには、私から謝るから! セナも!」
「そんなに気にしなくても大丈夫だって」
律奈はそう言ってカップに口を付ける。
「んっ、ココアだ! 二人も飲んでみなよ、美味しいよ」
そう言われ由佳とセナも飲んだ。 温かくて甘い味が口の中一杯に広がっていく。
「本当だ・・・。 落ち着く」
ココアを飲みながら休んでいると、一人冴えない男が由佳たちのいる車に恐る恐る近付いてきた。 今日偽セナに出会った時と同様の印象だが、その時よりも更に冴えない雰囲気だ。
そんな男は何か目的をもって近付いてきていると理解した。 もしかしたら、今日の男たちの仲間の可能性もあり、三人の間で警戒感が広がる。
「あ、あの・・・」
「ひぃッ!」
警戒から変な声が漏れてしまう。 それを聞き、男はクスリと笑った。
「な、何か・・・?」
「ぼ、僕が通報しました」
「あ、そ、そうだったんですか・・・。 ありがとうございます・・・。 ツウィートを見てくれたんですか?」
「はい・・・」
炎上している時、ツウィートをしたことに意味があったのだ。 あれがなければ警察は来ておらず今頃由佳たちはどんな目に遭っていたのか分からない。
だがあの炎上中に由佳を信じられるというのは中々に凄い。 そんなフォロワーを由佳は知らない。
「もしかして、貴方も私のフォロワーさん?」
男は躊躇いながらもコクコクと頷いた。
「と、冬真です・・・」
「・・・え?」
由佳は耳を疑った。 確かに期待をかけ冬真からの言葉を待っていた。 彼ならあんな状態でも助けてくれるのかもしれないと思っていた。 だが、目の前にいるのはどう見ても冬真ではない。
冬真はもっとキラキラしているはずなのだ。
「えぇ!? いやいや、冬真さんって、そんなわけ・・・。 だってプロフィール写真と全然違うし」
「そう・・・。 あ、アレは拾い画なんです」
「拾い画?」
「ネットから、勝手に盗んだ写真。 だ、だから見ての通り、アレは僕じゃない」
「そんな・・・」
どうやら冬真もネット上では嘘をついていたらしい。
「写真だけじゃない。 リア充発言も全て嘘なんだ」
「え!?」
「彼女なんていないし、友達も全然いない。 こんなに冴えない自分が嫌で、ネットだけでも周りからチヤホヤされたかった」
「・・・」
由佳は言葉を失ってしまう。
「で、でも僕、今回のゆーかちゃんの件を見て思ったんだ。 自首しようって」
「どうして自首?」
「拾い画を使って『これは自分だ』と偽るのも立派な犯罪だから。 あの捕まった男たちと一緒だと思うと嫌になって」
「じゃあもう、冬真さんとはお話しできないの?」
助けてくれた命の恩人であることに違いないのだ。 確かにネットではアイドルのような人だと思っていたが、こうして話してみるとこんな冴えない風貌でもいいものだと思えた。
外見は偽っていたが性格だけはそのままだったのだから。
「・・・うん。 ゆーかちゃん、気を付けるんだよ。 僕みたいにリアルとネットでは別人だったなんてよくあることだから。 もう騙されないで」
「うん・・・」
「本当はこんなみっともない姿、晒したくなかったんだ」
「それでも私を助けてくれたの?」
「そう。 ゆーかちゃんは僕に充実した時間をくれたから。 どうしても救いたくなった。 だからハッキングまでして場所を特定して、通報した」
「ハッキングってそんなに簡単にできるものなの?」
「やり方さえ分かればね。 ・・・じゃあ、僕はもう行くから。 こんな僕と絡んでくれて、今までありがとう」
そう言うと冬真は寂しそうに笑って去っていった。
「こちらこそだよ、冬真さん。 私を心配して優しいのはリアルでも変わらないんだね」
去っていく後ろ姿を見ながら由佳は小さく呟いた。 同時にスマートフォンの電源を入れるとと、ありのままの本心から出た言葉を送った。
―――もう見ないのかもしれないけど、私は冬真さんと出会えてよかったよ。
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