40.これが最初に起きた事件なのです
レシアさん曰く、爆風に吹き飛ばされた後は、レシアさんも気を失ってしまい、気がついたら病院だったそうです。
これは、レシアさんも目を覚ましてから、ジャンセンさんに聞いたそうなのですが、私たちが気を失ったあと、幻子力研究所の他の研究室にいた教授たちが、部屋で倒れていた私たちを助けてくれたそうです。そこには、私たちの三人だけで、オートムの姿はなかったそうです。
当然、あれだけ漂っていたヒーレンヴィルナの人工精霊の姿もなく、部屋には窓があった部分を中心に大きな穴が空き、そこからは夜闇に混じって冷たい風が吹き込んでいたそうです。
結局エレンで確認できたことは、オートムが研究室の二階の窓から飛び出し、そして忽然と姿を消してしまった、ということだけでした。
そして、そのオートムは未だに行方不明のままだそうです。
そう、結論から言えば、何も分からないのと同じです。
人が一人消えてしまっているのに、何も分からないのです。
ハル君が右脚を失ってしまったのに、何も分からないのです。
こんな不思議なことってありますか?
レシアさんは、ハル君が目覚めたら、何か思い当たるところがないか聞いてみようと言っていました。
あの時のハル君とオートムとの会話……、何か私に関係あることを言っていたような気もしますが、少し記憶が曖昧です。
やはり、これもハル君に聞いてみるしかなさそうですね。
そして、ヒーレンヴィルナの人工精霊は、ホロエンジンのスパークらしいのですが、これも私にはさっぱり分かりません。
本当に分からないことだらけなのです。
興味本位で始めた植物園の花壇の調査が、思いもよらぬ結果となってしまいました。
ハル君は右脚を失い、未だに目覚めません。
これが因果応報にもとづく結果だとしたら、私は納得がいきません。
私たちは何か間違いを冒しましたか?
私たちは何か悪いことをしましたか?
私たちは何か失敗をしましたか?
いいえ、決してそんなことはありません。
私たちは間違ってはいませんし、悪いこともしていません!
私たちは正しく生きています。
だから私は決して諦めないのです。
ハル君が元気になったら、また三人で調べるのです。
オートムの行方、ソリン主任の計画、そして、私自身のことを……。
だから今は少しお休みです。
せめて体の痛みが取れるまではお休みするのです。
――
私とレシアさんは、検査を終えるのに、この後三日間の入院を余儀なくされました。
そして、検査で問題がないと分かると、そのまま退院することができました。
正味五日間の入院でしたが、この間、ハル君が目覚めることはありませんでした。
このまま二度と目覚めないのでは? と不安になりましたが、実は麻酔で眠らせて無駄な体力を使わないようにしているとのことでした。
失った右足の具合が、もう少しだけ良くなったら、目覚めさせるそうです。
それが、いつになるのか、私には分かりませんが、今は回復を祈る他ありません。
そう言えば、レシアさんがハル君のために『猫の足』を探すと言っていました。
ハル君の幻導力、そして幻導物理学の知識を持ってすれば、それは可能なはずだと意気込んでいました。
レシアさんなりの責任感でしょうか?
巻き込んでしまったのは、私たちの方なのですが、そういう言い方をすると、レシアさんは、「私も仲間なんだから、そんな風に言わないでちょうだい」と一蹴するのでした。
オボステム市に来て約一ヶ月、これが最初に起きた、私、ル・リリカ・ボタニークにまつわる事件です。
そう、このオートムからの手紙が届かなければ、これが最初で最後の事件だったはずなのです。
リニカルリリカ 柚須 佳 @kei_yusu
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