第2話プロローグ2──婚約破棄を言い渡されたという事実だけである

ただ、分かる事はわたくしはカイザル殿下から直接、しかも王国立魔術学園高等部の一年を締めくくるパーティ会場で公開処刑よろしく婚約破棄を言い渡されたという事実だけである。


嘘であると言っていただければ、とどれ程願ってもその様な事は起きず、そして普段であればわたくしを取り巻いてくれる貴族令嬢達も現れず、パーティーが終わるまでわたくしは会場の隅でただただ佇んでいたのだが、結局カイザル殿下はわたくしの元へ来て下さるような事はせず、聖女メアリーと婚約する事をまるで自慢するかの如く方々へ二人一緒に説明して周っていた。


わたくしの時は一度たりともその様な事はして下さらなかったというのにである。


その光景をみて悔しいといった感情や、怒り等と言った感情は何故か無く、悲しみに暮れる事も涙を流す事も無くただただ無感情だけがそこに有った。


そして気が付くとパーティーは終わり、会場内は明かりも消され闇が広がっていた。


「シャルロットお嬢様、そんなところにいらっしゃいましたか」


どれ程の時間が経ったのだろう。そんなわたくしに婚約破棄という出来事以降初めて声をかけてくる者が現れる。


カイザル殿下から婚約破棄をされた娘など縁起が悪いとわたくしにも聞こえる声で皆避けていたというのに、そんなわたくしに、しかもパーティーも終わったこんな夜更けに一体誰が?と思い声のした方へ顔を向けると、そこには見知ったランゲージ家の執事のセバス・チャンがそこに立っていた。


すらりと伸びた背筋に整った顔、ぴしりと揃え後ろに流している青髪には少し白髪が目立ち始めている。


わたくしが彼、セバスに初恋をしたのはいくつの時であったか。


あれから十年以上も時が経てばわたくしは大人の体つきへ、そしてセバスは年相応に年老いた姿へと変わっていた。


毎日見る顔である為特に気にしてセバスの顔など見ないのだが、今日は何故かやけにその、自分の中のセバスと現実のセバスとの違いに目がいってしまう。


「いつもであれば取り巻きのお嬢様たちを連れてまるで大輪の花、その咲き誇った花々の真ん中におられますので、見つけるのに少しばかり苦労致しました」


そういうとセバスは優しく微笑んでくれるのだが、それが嘘である事はほんの少しだけ乱れたセバスの息から見て取れる。


きっと魔術学園中を走り探し回ってくれたのだろう。


その事をバレない様にというセバスの優しさが今は物凄く痛く感じてしまう。


「さて、夜も遅いですし帰りましょうか、シャルロットお嬢様」

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