第9話 流石にそれは可哀そうですよ

 いくら皆から無視をされていようとも何も食べなければお腹は減る訳で、一人で食堂へと向かう。


 普段であれば大勢で向かい、大勢で食事を取り、食後の雑談で花を咲かせるのだが今日は当然の事ながら一人である。


 無視という行為については恐らく公爵家であるランゲージ家からの報復が怖いのだが、だからと言って何もモーションを起こさなかった場合は今度は王族からの報復が怖い為間を取って何もせずに無視をする、という考えに至ったのではと思う事にした。


 むしろ、前々から腹の中ではわたくしの事を嫌っており、これ幸いと皆様無視をしはじめているかもしれない、等とは思わないと決めた。


 そう思うだけで心が張り裂けてしまいそうだからである。


 それにしてもカイザル殿下もわざわざ皆がいるパーティー会場でまるで見世物であるかの様に声高々に婚約破棄をしなくてもよいではないか。


 そうしたいと思わせる程わたくしはカイザル殿下に嫌われていたのであろう。


 しかしながら考える事は婚約破棄関連の事を考えてしまい、結局心がズキズキと痛むのだから今日半日しか経っていないにも関わらず既に心が折れそうである。


 当初のわたくしは魔術学園卒業まで気高く過ごしてやろうと思ており、そこはかとなく腹が立っていない訳でも無い為その僅かに心に宿る怒りの感情をかき集めて意気込んでみたものの、誰かに頼りたいと思っても今までと違い頼れる相手どころか相談する相手がいないというのがこれ程までにキツイものであるのだと、わたくしは初めてしる。


 泣いてはダメだ。


 そう思っても不意に込み上げてくる感情から涙が溢れ出しそうになるのを、俯く事により自身の髪の毛で表情を隠すと唇を噛みしめ何とか耐える。


 それにもし万が一涙を流したとしても髪の毛で隠れてだれもわたくしが泣いている事には気付けないであろう。


 そしてわたくしは食堂の中、いつも誰も座らない様なの隅の端の席に着くと、着席したわたくしを見たウェイターが本日の昼食を持って来る。


 今日の昼食はわたくしの大好物でもある鳥肉とトマトのサンドウィッチなのだが、一口食べても味はせず、調理してくれた方には悪いのだがまるで砂を食べているみたいだと感じてしまう。


 そんな状態では食欲が沸いてくるはずもなく、お腹は減っている筈なのに何も食べたくないという初めて体験する不思議な感覚に戸惑っているとわたくしの方へ近づいてくる二つの足音が聞こえてくる。


「何だ? 食わんのか? ならば俺が代わりに食ってやるよ」

「カイザル殿下、流石にそれは可哀そうですよ。ですが食べれないのに無理に食べる必要も無いですしあえて悪役を演じて元婚約者を助けようとするそのお優しい心からくる行動であると私はしっかりと理解しておりますっ!!」

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