第3話わたくしは泣いてなどおりません
「何も聞かないのですの?」
「聞いて欲しいのですか?」
カイザル殿下の婚約破棄をされたのだ。
これ程の出来事が優秀なセバスまで伝わっていない筈がない。
そんなセバスにわたくしは意地悪な問いかけをするのだが、逆にセバスから意地悪な質問で返されてしまう。
「いえ、今は何も聞いて欲しく無いですわ」
「仰せのままに」
そしてわたくしとセバスは一言も発する事もせず、わたくしの帰りを待ち続けていたであろう馬車へと乗り込む。
「シャルロットお嬢様、これをどうぞ」
馬車が出発して少ししてからセバスがわたくしへハンカチを渡して来る。
何故と思いセバスの後ろ、その扉の窓ガラスに映るわたくしを見ると泣いるわたくしが映っていた。
「要りませんわ。わたくしは泣いてなどおりませんもの」
「………そうですね。シャルロットお嬢様は泣いてなどおりません」
そして暗闇の中わたくしとセバスを乗せた馬車は我がランゲージ家に向かい走り続けるのであった。
◆
「シャルロットお嬢様っ! 大丈夫ですかっ!? 今からお婆々がカイザル殿下を懲らしめに行きましょうかっ!?」
「お止めなさい、ばぁば。そんな事をしてもばぁばが逆に痛めつけられ最悪命を取られてしまいますわよ」
「しかしお婆々は悔しゅう御座いますっ!」
「ありがとう。そう思って頂けるだけでわたくしは救われますわ」
ランゲージ家へと着くと家は普段と違いまるでお通夜の様な静けさと、そして冷たい空気がわたくしを出迎えて来る。
そんな、いつもと違うランゲージ家に戸惑いながらも帰宅するとリリーばぁばが『とててっ』と最近膝が悪いと言うのが口癖となり始めているにも関わらずわたくしの元まで駆け寄って来るとカイザル殿下を懲らしめに行くと言うでは無いか。
その事から、わたくしがカイザル殿下に婚約破棄をされている事は既に使用人、そして父上と母上にまで伝わっているであろう事が伺える。
しかしながらばぁばがカイザル殿下へ懲らしめに行ってくれた所で返り討ちどころか倍返しをされる事は目に見えて分かるので止める様に言う。
そんなばぁばはわたくし以上にボロボロと涙を流しながら「お婆々は悔しいです」と、まるで泣かないわたくしの代わりと言わんばかりに、まるで自分の事の様に泣き、そしてわたくしに抱きついて頭を撫でてくれる。
大好きなばぁばの体温は温かく、頭を撫でられると思わず甘えてしまいそうになるのをわたくしがグッと堪える。
「ばぁばのその気持ちはとても嬉しく思いますわ。所で、お父様とお母様、それにお兄様はどこにおられるのでしょうか?」
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