第4話「天秤宮の大魔法」

「作戦、か…」


ダグラスは考えた。聞いた作戦の主軸となるのは自分であった。

星天魔術式アストラル

カンタベリー家でも限られて魔力が高い者が使える術らしい。

星々の力を地に降ろし他人に譲渡出来る。


「そんな力を、私が…良いのですか?」

「うん。良いの。その代わり、しっかり倒し切ること!」



―数多の星々よ


収束する魔力にケルベロスは反応するもその手を阻む人間が前に立つ。


―か弱き人間を代表し


ケルベロスの遠吠えも彼に意味を為すことは無い。


―我らに大いなる加護を与えよ!


丸太よりも太く、そして強靭な前足は折られた。


―捧げるは正義を貫く美しい志を持つ者!


抵抗しようと再びケルベロスは咆えるが、やはり意味は無い。


―天秤宮の加護をここに!


ダグラスは鞘から剣を抜く。構えた白刃に魔力が集まり彼の周りを

漂う。綺麗な紫髪は大きく揺れる。


「―天秤宮魔術リブラ・アストライア!」


魔力を上乗せされた剣は綺麗に一つの首を切り落とす。しかし他が残っている

以上、ケルベロスは殺せない。ニヤリと笑みを浮かべている。首の一つや二つ、

斬られたところで苦じゃないわい!

だがその顔がすぐに驚愕で塗り替えられる。他の二つの首も同じように綺麗に

切り落とされる。それが天秤宮魔術。ケルベロスにはよく効くだろう。


「同じ罪を持つ者に同じ傷をそのまま与える。それこそが天秤宮魔術、

絶対的平等な魔術!」


ケルベロスの死体の処理が行われている。その栄誉は今回の戦いに参加した全ての

人々に渡された。


「忙しいのですね。ダグラスさんは」

「あぁ、幾つか仕事を担っているからな。だからお先に失礼する。シノン様に

礼を言っておいてくれ。貴女のおかげで勝つことが出来た、と―」


マントを翻し、彼はその場から離れた。デネブは彼を見送り、シノンたちの方を

見た。ケルベロスという大きな恐怖が一つ消えた。決定打を与えたのはシノンに

よりダグラスに貸された魔法、天秤宮魔術だろう。

本当の平和に一歩近づいたと言えば良い。だがそれは人々が警戒を怠る原因にも

なるだろう。そしてその小さな隙間をこじ開けて平和を崩す輩もいる。

皆が疲れて眠った後、デネブに接触してきた人物がいた。

若い男だ。だが彼はデネブのように今の世界に満足していない人物であり

崩壊を狙う集団の幹部である。


「…」

「そう睨むな。俺は勧誘をしに来た」


目の前の男は手を差し出した。ぎこちない笑みを浮かべ、こういうのだ。


「俺たちと一緒に来い。そうすればシノン・カンタベリーには手を出さないと

誓ってやる」


彼女の名前を出せばきっと彼は動くだろうと予測していた。

だがデネブは断った。その手を払いのけた。


「アヴァロン、お前の誘いは断る。お前たちの計画、全て知っているからな。全ての

生き物を取りまとめ、神を造るなんて…」


デネブは嘲笑する。


「今のままで、十分だ」

「…そうか。ならば残念だ、これでも俺はアンタを慕っていたんだがな」


アヴァロンと呼ばれた男は姿を消した。デネブは間もなく、深い眠りについた。

嫌だった。

捨て子だった自分はいつの間にかそこにいて、拷問をされて躾されて…。

今のような優しい子どもでは無かった。

任務に出て、その人に会った。シリウスと共に彼女と出会った。

子どもをお腹に授かっている女の優しさに包まれて。

君たちの年齢なら、やり直すことが出来ると言われて。


「デネブ、おはよう」

「…すみません。寝坊、してしまいましたか」


デネブは体を起こした。柔らかい陽の光が地上を照らしていた。


「大丈夫だって。いつもデネブが早起きしてて私が迷惑をかけてるから、たまには

休んで欲しいなって」


シノンは頬を掻いた。従者を想うのは主人として当たり前だとも彼女は言った。

デネブは彼女の少し前を歩き、屋敷に帰る。


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異世界憑依してみた 花道優曇華 @snow1comer

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