第3話「ケルベロス討伐戦」
ケルベロス討伐戦参加者は一カ所に集まっていた。飛び入り参戦したシノンと
デネブの元に指揮官となる軍服を着た少女カリス・コールドウェルがやってきて
直接対談する。
「君たちが来るとは思わなかった。この話をどこで聞いたんだ」
「剣聖レオンハート・ローゼンタールから聞いたんだ。自分も加勢したいけど
仕事で行けないから頼まれて欲しいって。でもそれだけじゃないよ。
悪い魔獣は退治しなければならない。私たち自身も手伝いたいって思って
ここに来たの」
それは本心。
カリスはふと笑みを浮かべ手を差し出した。それは仲間であると認めた握手を
求めている。シノンはカリスの手をそっと握る。
「頼りにしているぞ慧眼のシノン、そしてデネブ」
「まぁ程々の期待でね。カリス」
戦力は揃っている。武器も揃っている。カリスはそう説明した。
中には獣人もいた。そして有名な騎士もいた。その騎士は秀才である。
剣聖と対を成す騎士、ダグラス・ウォーカーはシノンの前で片膝をついた。
「お初にお目にかかります。シノン・カンタベリー様」
「ダグラス、だよね?初めまして。あ、こっちはデネブだよ」
討伐戦を前にしている為、緊張感を醸し出している人々も多いが彼は
そう言った大きな戦いに慣れているのか平常心を保っていた。
それはデネブも同じだった。
シノンの眼には今、少し先の未来が見えていた。目の前に立ちはだかるのは
三つ首の巨大な狗、それこそが今回の敵であるケルベロスだ。
時間は夜8時、場所は王国の最西端に存在するカルム草原。
見えた情報はすぐにカリスに報告した。
そして作戦決行は夜8時に決まり、軍隊はカルム草原へ進む。
草原付近では避難勧告が出され、シノンたちが辿り着いた頃には
人気は全く無くなっていた。そこに吹き抜ける風がそれぞれの頬を撫でる。
夕暮れ時と言う事で赤い空が全員を囲っていた。全員が武装しており、
何時、何が起きても良いように警戒を怠らない。
どうやって勝つか、作戦など分からない。倒し方も分からないのだから作戦など
立てることが出来ない。
「ダグラスはどうしてこの戦いに参加しているの?」
シノンのしょうもない問いかけに彼は快く答えてくれた。
「ただ、ケルベロスを倒すのに貢献したという事実が欲しいだけです」
「お母さんとかに自慢するの?」
「まぁそんなところです。全て独学で学んだんです。剣も礼儀も知識も…あまり
裕福な家ではありませんでしたから」
ダグラスは笑った。自嘲しているようにも照れているようにも感じる。
シノンも同じようなものだ。あの屋敷は元々エレクトラが持っていただけで
彼女がシノンに継がせることを勝手に決めていた。彼女のおかげで
この生活が得られている。
午後8時、空は完全に黒くなり弱々しく光を放つ星々と儚い光を放つ月が
この戦いを見届ける。大きな遠吠えと共に三つ首の巨大な狗、ケルベロスは
姿を現す。久しぶりに集まってきた高級な餌に釣られて。
「怯むな!!ここで奴を討つぞ、かかれェ――ッ!!!!」
カリスの力強い掛け声に背中を押されて戦士たちは果敢に挑む。ただの餌には
ならない。ケルベロスもせめて道連れにして食われてやる。それだけの覚悟を以て
彼らはこの戦いに挑むのだ。この戦いは人間が、決して魔獣よりも弱くはないと
証明するための戦いでもあるのだ。
そしてこの先の魔獣への恐怖を和らげる為の戦いでもあるのだ。
「首の位置が高過ぎるな。やはり先に消耗させるべきか」
カリスは上を見上げる。天から見下ろす赤い瞳孔を睨み、忌々しそうに呟いた。
多くの被害を生んできた魔獣を討つために彼らは負けを許さない。
「やはり大き過ぎる。一気に大きなダメージは与えられないか」
剣を一心不乱に振るうダグラスも呟いた。大きな爪に薙ぎ払われ、大きな牙に
噛み千切られ、ケルベロスは自身の強さを誇示するように再び咆えた。
すると突然、多くの人間が戸惑いを見せた。
「か、体が…重いッ!?」
その時、ケルベロスは再び咆えようと息を吸っていた。
「耳を塞いで――ッ!!!」
手の上からでも響く猛者の叫びに全員が歯を食いしばる。その重い体を最も早く
動かしていたのはデネブだった。重力は下へ下へと向かう。ならばそこで
多少なりとも動きやすい人間は足腰の強い人間では?という勝手な推論。
無茶苦茶な推論をやってのけているのはデネブの他にダグラスがいた。
ダグラスのほうが少し苦しそうだ。
「あまり、無理はなさらず」
「お気になさらずに」
―百花闘術・脚技 弐ノ型「菊」
小さな人々を食らおうと開いていた口に並ぶ凶悪な牙の付け根を狙って放たれた
膝蹴り。人間の鋭利な部分の一つだ。その部分に更に魔力による完全硬化、
破壊力は飛躍的に上がる。元々の膂力が高いデネブの体がさらに強化されれば
凶器人間である。牙が付け根から折れ、ケルベロスは人を襲うどころではない。
痛みとの戦いだ。加えて目の前の人間を殺さなければならない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます