Nostalgic=Seeker

横瀬 金魚

序文 一夜の夢への招待状

一応耳には入れてほしい、ちっとも面白みのない挨拶文


これを読んでいる人たちへ

最初にまずいうべき言葉がありますね。よくここまでご足労いただきました。その苦労のためにいくつもの犠牲が払われたことでしょう。まずはその犠牲に感謝を。


さて、このカビ臭そうな羊皮紙っぽい古い紙に書かれた、読んだところで大して面白くもない駄文を読んでしまっている、ということはつまりあなたたちは喜ぶべきか悲しむべきか「過去に浸る街」にきた、ということで間違いないのですよね?

今更こんなことをいうのも癪かもしれませんが……

皆さんがこの街にきたということはおそらく、今までの世界が「向かなかった」ということでしょう。現実逃避だってここではしっかり通用しますから、どうぞご安心ください。


亡命なり脱国なりしてきて、この国に入ってきたことでござりましょうから、さぞかし駄文なぞ聞きたくないでしょう。

しかしながらちょっとばかり、この街ができた経緯をほんの少しだけ、話しておくことにしましょう。

聞きたくない方は、適当に霧の中を走る荷馬車なり、光の不安定なガス灯でも見ていてください。




いいですか、まず20XX年。この年に幾つかの先進国によって同時多発的に発生した第六次産業革命により、全世界の都市の殆どが「電子の海」を始めとする様々な技術で覆われたのです。これにより、人類は技術的特異点を超え、人間社会そのものが百年前とは全く異なるものとなってしまいました。


ですが、電子化によって何もかも便利になりすぎて遂にはヒトがヒトを超えてしまった時代になったとしても、大昔の「あの頃」に心残りがある人も少数ながら存在するのです。あなたたちがまさしくそうでしょう?

しかし、人を支配するためには面倒な思想を持たれると大変厄介なため、皆さんも知ってしまった通り、民には投薬治療を行うことで考え方までも変えてしまったのです。何せそのほうがより都合がいいですから。


しかし当時にはまだ自由な思想を持った人が幾人もいて、それはこの街を作りたかった「かつての大物」達も同じでした。いち早くその情報をつかんだ彼らは自分たちの思想を、自由を守り、自由にふるまえる街を作ることにしたのです。そして彼らは技術的特異点の突破が近づく前に、「昔の世界を小規模ながら復活させる」ために、世界規模で「都市づくり」を始めたのです。

そこらの話は私もあまり聞いたことがないのでこれ以上は割愛させていただきますね。


そして遂に、太平洋の島国の一つにテーマパークのような都市が出来上がりました。世界各国の解体寸前だった古い建築物やインフラを集め、20世紀を作り上げたといっても差支えのない島国……、それこそが、皆さんが今、立っているここ「ガルザニート」なのです。




目を閉じてください。感じますか?人間味があり絢爛で、機械はまだ人間たちの道具でしかった頃の空気を。車輪がガタゴトとなり、静かとも騒音とも行かぬ程よい喧騒を。

そして目を開ければ、見えてくるのは石畳の路面にレンガ造りの倉庫、電球色に光るガス灯に行き交う馬車や博物館に飾ってあるかのような自動車。行き交う高架鉄道に、大昔の記録でしか見たことがないようなものばかり。

行き交う人々は皆、白電球の熱にうなされつつも、なんとその恰好や振る舞いはお洒落に富んでいるのです。

ちょっとそこにいる人たちを観察してみてください。落ちた酒瓶を拾って遊ぶ少年に、両親に手を引かれている、フリルのついたおべべを着た人形のように可愛らしい少女だっています。杖を片手にサロンへ足を運ぶ青年らに、礼装でパーティーに足しげく通う異形の姿の者たちも。不思議なことでさえここでは自然と起きてしまうのです。


巻き戻ったような時間の中で、セピア色じみた喜怒哀楽が今日も横行する。馬は駆け、人は行き交う、自由を謳える世界で最後の「理想郷」。それがここなのです。




おっと、最後に言い忘れていました。私からは最後にこの言葉を渡しましょう。


「ようこそ、『旧き良き郷愁の街』へ。私たち市民は貴殿を歓迎します。」








p.s.ここまでは「東方の物書き 横瀬 金魚」が「大物」の代弁者としてお送りしました。


どうぞ、今までのつらい過去は忘れ、良い人生を送ることができるよう願います。

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