第3話 宝玉の修復
蛇丸は得意げな顔で鼻をこすると、倒れた巨大狐を見下ろす。
「やっぱ大した事ねぇや。そのまま眠ってな」
神徒を倒したと言う事で蛇丸はしばらく自分の成果に酔っていたものの、不意にくるりと振り返った。そうだった。あいつの狙いは今私が手にしている宝玉だったよ。ヤバい、まだ修復は終わってない。戦っても勝てる訳ないし、逃げたって追いつかれるだろう。このままだと宝玉を取られちゃう。どうするの私ーッ!
「ま、待て……」
「おっと、まだくたばってなかったか。しばらく寝てな!」
ホクトは最後の気力で立ち上がるものの、蛇丸のトドメの一撃であえなく沈黙。ついに私の味方はいなくなってしまった。嘘でしょ……。彼は余裕たっぷりに私の前まで歩いてきた。
そうして、舌なめずりしながらニヤニヤといやらしい笑みを浮かべる。
「へへ、じゃあお宝を頂くとするかぁ……」
余裕でホクトを倒した妖だ。身長も3メートルくらいはある。至近距離に立たれた時の威圧感がスゴい。私の心は絶望感に満たされ、体が勝手に宝玉を差し出そうとした。こんな事をしたら駄目なのに……。
「素直な巫女だな。お前も美味そうだ……」
「ヒ、ヒイッ!」
美味そうと言う意味が、その言葉通りのものとしか思えなかった私は顔から血の気が引いた。ちょっと神社を巡っていただけなのに、ここで人生まで終わってしまうの? こんな不幸な事ってある?
「……そこまでにしときな、蛇丸よ」
「誰だ!」
「俺達を忘れたかい?」
謎の助っ人の声を聞いた私は周囲を見渡す。すると、いつの間にか周りを無数の狐達が囲っていた。数は数えている余裕はないけど、とにかくすごい数。この狐達はきっとホクトの仲間的なアレなんだろう。この期に及んで敵とかじゃないはず――。そうであって欲しい!
「ちっ、お前らもう追いついてきたのかよ!」
「俺達はお前を絶対に逃さない。ここで蹴りをつけようじゃないか。呪縛陣!」
「い、いきなりかよォ!」
周りを取り囲んだ狐達が何かを叫んだと同時に、蛇丸の足元に魔法陣的な光の模様が浮かび上がった。これまでの余裕っぷりはどこに行ったのか、彼は速攻でその呪縛から逃れようとどこかに逃げ去ってしまう。
この一瞬の出来事に私は呆気にとられてしまった。こんなに簡単に終わるだなんて……。
「あの、あなた達は……」
「俺達は神徒連合。ホクトの仲間だよ。宝玉を蛇丸が狙ってると聞いて急いでやってきたんだ」
「蛇丸って何なんですか?」
「落ちぶれた神の成れの果てさ。もう神なんて呼べる代物じゃないけどな。失った力を取り戻すために宝玉を欲しがってる」
これで全ての謎が解けた。後残る問題はこの宝玉の修復だ。蛇丸みたいなやつがまたすぐに現れるかも知れない。だから急がないと……。
「焦らなくていい。素直に宝玉に心を開けば、後は勝手に修復されていく」
「わ、分かりました」
大勢の味方に囲まれている安心感が、私に心の余裕をくれた。一度深呼吸して心を落ち着かせると、さっきの言葉を思い出してその通りにする。
するとどうだろう。今まで全然うまく行かなかった宝玉の修復が一瞬で終わってしまう。実行した私が信じられないくらいにそれは呆気なかった。
「出来……ちゃった」
「や、やったな……。さすがは儂が見込んだ巫女だ」
気がつくと、ホクトが私の前まで来ていた。傷だらけだけど、命に別条とかはない感じ。私は自分の仕事の成果を彼に見せる。
「これでいい?」
「ああ、上出来だ」
ホクトはとびっきりの優しい笑顔を浮かべる。ただそれだけで私は達成感に満たされた。それから宝玉を元の場所に戻すと、狐達は消えるように去っていった。
そうして、後に残ったのはまた小さくなったホクトと私だけ。
「終わったね」
「ああ、とんでもない事に巻き込んですまなかった。感謝する」
「そうだよー。でも楽しかった」
「そうか、それは良かった。ではお別れだ」
唐突にホクトが別れの言葉を告げた瞬間、私の視界がぐにゃりと歪んで真っ暗になる。カラスの鳴き声に目が覚めると、私はお賽銭箱の前で横になっていた。
「……あれ? 私ここで何してたんだっけ?」
起き上がった私は自分の記憶を
西の空がもう赤く染まっていたので、私は首をひねりながら神社を後にする。石段を降りる前に何気なく振り返った時、小さな白い狐が見えたような気がした。
「えっ?」
目を凝らしてよく見ると、狐はどこにもいない。地元に狐なんかいないと言う事を思い出した私は、そこでペコリと頭を下げると急いで自分の家に帰ったのだった。
(おしまい)
地元結界の謎! ~宮本鈴音レポート~ にゃべ♪ @nyabech2016
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