第2話 宝玉を狙うモノ達

「命をかけるって、敵でも襲ってくるの?」

「当たり前じゃ、宝玉とは力の源。欲しがるものは山のようにおる。だから儂が任されたのじゃ。この地で一番強い儂がの!」


 自分の力の自慢をしたところで、ホクトは急に巨大化して全長5メートルくらいの巨大な白狐の姿になった。


「お主は宝玉の修復に専念せい。それはお主にしか出来ん」

「わ、分かった……」


 急かされるままに私は宝玉の修復作業を始める。とは言え、強く念じろと言っても勝手が分からない。念じても念じても手のひらの上の宝玉の傷はそのままだった。


「どうしたらいいのこれ~」

「泣き言を言うな! 集中しろ! お主に出来ないはずがない。自分を強く信じろ!」


 ホクトの激励に私も気合を入れ直す。ここまで来たらやるしかないよね。と、私が本気になったところイヤ~な気配が近付いてくるのが分かった。


「はは、本当に宝玉が具現化したぜ……お頭の言う通りだった」


 そう言って現れたのは、いかにもガラの悪そうなあやかし達。数は10人くらい? 大きさも大きいのは巨大化ホクトと同じくらいのから私より小さい子供くらいなのまでバラバラだ。その全員が一斉に私の方を見ていた。あれ? 私いつの間に霊感に目覚めたんだろ?


 妖達はターゲットを確認すると、勇ましく雄たけびを上げる。


「守りの神徒は俺らが潰す! チビ共は宝玉をかっさらえ!」

「おおーっ!」


 息の合ったやり取りと供に、妖達は一斉に動き始めた。巨人系がホクトを捕まえようと手を伸ばす。そうして、動きを止めたところでチビ達がその間を縫って私の方に向かってきた。


「させねぇ!」


 ホクトはそう言うと、長いフサフサしっぽを器用に動かしてチビ妖達をふっとばす。弾かれたチビ達は見えない距離にまで飛んでいってしまった。この仕打ちに大型妖達が大人しくするはずもなく、力任せに押し潰そうとする。


「よくもチビ共を! ただじゃおかねえ!」

「ふん、お前らごときが儂と張り合うなど100年早いわ!」


 巨人系妖は全部で3人。その見た目からしてどれも力自慢のパワー系のようだ。よく見ると、それ以外の敵はとっくにホクトがあしらったみたいで、周辺には何人かの妖が白目をむいてヘソ天で転がっていた。案外弱いなこいつら。


 ただし、流石にパワー系はそんな簡単にも行かず、ホクトも若干苦戦している。私は宝玉の修復も忘れ、この戦いの行末をつばを飲み込みながら観戦。戦いの最中にそれに気付いたホクトに雷を落とされた。


「ボーッとしてないで修復を急げ! 宝玉が具現化している間はこんなのが休みなくやってくるんだぞ!」

「えっごめん」


 大きな狐と巨人のバトルをもう少し眺めていたかったけど、私も観客じゃないんだよね。ホクトだっていつかは疲れもたまるだろうし、負けちゃうかも知れない。

 そうなったら誰も守ってくれない。私は改めて意識を集中して、手のひらの宝玉をじいっと見つめる。


「早く終わらせなきゃ……」


 どれだけ念じても宝玉に入っている傷の様子はちっとも変わらない。そもそもこのやり方が正しいのかどうかも分からない。ホクトももうバトルに必死で私の方を見てくれない。全部自分でやるしかないんだ。


 私が四苦八苦している間に、ホクトは何とか巨人3体を打ちのめす。倒れた時に発生した大きな音と振動は私の作業の手を止めさせた。戦闘で傷だらけの彼は荒い息を整えながら、目の前に散らかった複数の妖達を見下ろす。


「ふん、口ほどにもない……」

「……ほーう。俺様の手下相手に苦戦するようじゃ大した事ねーな」


 ホクトが十分に疲弊したタイミングで、またしても別の巨人系妖が姿を表した。今度はマッチョと言っても細マッチョで、パワーだけじゃない底知れない恐ろしさを感じる。その口ぶりから察するに、今まで倒した妖達のボスなのだろう。すっごく強そうだけど、ホクトなら大丈夫……だよね?


「お前があやつらの頭か。名は何と言う?」

「俺様の名は蛇丸。へへ……神徒のホクトも今日が年貢の納め時だぁ」

「ふん、安く見られたもんだな。儂がその性根を叩き直してやる」

「やれるもんならやってみなぁ!」


 口喧嘩が終わったと同時にガチバトルが始まった。強いと言っても今度の相手は1人だし、ホクトもいい勝負に持ち込めるはず。私は頭を振って邪念を飛ばし、宝玉修復に集中した。傷のない宝石をイメージ……傷のない宝石をイメージ……。


 ホクトの前足のキツネパンチが空を切る。蛇丸は素早く、どんな攻撃も見切って全てを空振りにさせていた。


「へいへいへい! 舐めてんのはそっちじゃねぇのか? 攻撃が手ぬるいぞ! それで本気かよ」

「くっ! ならばこれでどうだ!」


 パンチがダメならキック。キックがダメならしっぽ。ホクトはホクトで全力を出してぶつかるものの、蛇丸の動きを捉える事が出来ないでいる。蛇丸は近付いたり離れたりしてホクトを翻弄し、まるで弱体化させる事に専念しているみたいだった。


「おのれ……のらりくらりと……」

「もうお前の底は見えたぜ。そろそろ本気出してやろうか?」

「な、舐めるなーッ!」


 挑発されて堪忍袋の緒が切れたホクトは、口から青白い炎っぽい何かを吐き出した。この飛び道具なら蛇丸もひとたまりもないだろう。


「へっ、この時を待ってたぜ!」


 蛇丸はこの攻撃も余裕で避けると、吐き出した瞬間に硬直していたホクトの喉に向かって必殺のパンチを放った。狙いに気付いた彼は何とか避けようとするものの、蛇丸の動きの方が早く、パンチは見事に目標の喉を打ち抜いてしまう。この一撃をまともに受けたホクトは、そのまま力なく倒れてしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る