地元結界の謎! ~宮本鈴音レポート~

にゃべ♪

第1話 神社で待っていたのは小さな狐

 私の地元は災害が少ない。地形的な意味でそうなんだけど、周りの友達とかの間では『地元が結界で守られているからだ』なんて笑い話もあったりして。


 え? それを信じているのかって? 当然100%は信じてないよ。でも、ちょっとは信じてる。台風も地震も大雨の災害なんかも地元では起こらないしね。台風なんてわざと避けてるんじゃない? って思うくらい進路を外してくるし。

 こう言うのを見てると、不思議な力で守られてるのかも知れないなって思わない方がおかしいよね。


「じゃあさ、地元の神社を線で結んだこの六芒星の中心にお宝があって、それが結界を作ってるとか?」

「おお~。何だかそれっぽいじゃん」


 今日も私はそれ系の話の趣味の合う友達のはっとしょーもない会話を楽しんでいた。妄想が捗るって言うヤツかな。


「ねぇ、鈴音。あの神社あんたの近所じゃん」

「私にそこを調べろと?」

「話が早い! 意外と面白い発見があるかもよ?」


 こうして、私、宮本鈴音は白夏の話にホイホイと乗っかって近所の神社を調べる羽目になってしまった。ま、こう言うの嫌いじゃないんだけどね。もしかしたら本当に何か発見出来ちゃうかもだし。


 話には乗っかるものの、いきなり本命の神社に向かうのも違う気がした私は、白夏の示した6つの神社から巡ってみる事にする。地図を見ると、本当に六芒星の頂点に当たる場所にそれぞれの神社が建てられていた。勿論、こう言うのはいくらでも捏造が出来るものなんだけどね。

 最初の神社から時計参りに訪れてみるものの、そのどれもが無人の神社で特に珍しい発見は何もなかった。一応行く度にお賽銭は入れてたよ――10円くらい。こ、こう言うのは気持ちだから!


 外円に当たる6つの神社を制覇した後は、本命の中心の神社へ。そこがこの短い冒険の最終地点。ここをまわって明日白夏に経緯を報告したら終わり。そんな簡単な遊びのはずだった――。


「あれ?」


 その神社は私の家から一番近い神社と言う事もあって、何かある度に行くくらい身近な神域。だから、この神社に限って見慣れないものはないはずだった。

 けれど、石段を上がって本殿に着いた時に私は発見してしまったのだ。お賽銭箱の前にちょこんと座る小さな狐を。


「えっ? 狐?」

「おお、お主か。待っておったぞ」

「しゃ、シャベッタァァァ!」


 狸は見た事があるけど、地元に狐がいるなんて聞いた事がない。しかも喋る狐だ。どうやら私は化かされているらしい。この現象にどうしたらいいのか悩んでいると、その狐はぴょーんと軽く私の肩に飛び乗った。


「見たところ14、5と言ったところか」

「当たってるけど、私を待っていたって?」

「何じゃ、知らんのか……」


 狐は勝手に期待して勝手に失望する。そんな身勝手な獣に対し、私は常識を持ち出すのはあきらめて現実を認める事にした。確か狐は触ったらヤバいって話を聞いた事があるけど、コイツは喋る特別なやつだし大丈夫だろうと、私はその小さな背中を優しく撫でる。


「うほほほ、気持ちいいのう」

「神社にいるって事は、あなたは神の使いか何か?」

「そうじゃ、儂の名はホクト。宝玉の管理を任されておる。お主はその宝玉を直す巫女なのじゃ」

「は?」


 いきなりの急展開に理解が追いつかない。当然ホクトに説明を求めた。


「宝玉……?」

「何じゃ、1から説明せんとあかんのか……」


 彼は溜息をつくと、渋々説明を始める。ホクトといわく、彼はこの地を鎮める宝玉を守る神徒なのだとか。その宝玉の力によって、この地ばかりでなく日本全体が守られているらしい。その宝玉はすごい力を発しているものの、数百年に一度手入れをしなくてはいけないのだとか。

 その時期に正しい神社巡りをした生娘が、宝玉を修復する巫女に選ばれる――。


「それって私じゃん!」

「じゃから最初から言うておろうに……」


 ホクトは私の肩の上で可愛らしくため息を吐き出す。この突然の無茶振りに私は困惑するばかりだった。


「いや、知らんし。修復しないとどうなるの?」

「この国が滅んでしまうぞ。それを防ぐのにお主の力が絶対に必要なんじゃ」


 ホクトはマジトーンで私に脅しをかけてくる。ここまで来たら乗っかるしかない流れなのだろう。話は大袈裟だけど、この時の私は不思議とやる気になっていた。


「分かった。で、その宝玉はどこにあるの?」

「今のお主なら感じ取れるはずじゃ。儂自身は宝玉を見る事も触れる事も出来んからの」

「何か不便だね」


 色々引っかかるものを感じながらも、まずは目を閉じて感覚を研ぎ澄ませてみた。すると、すぐに真っ赤な光が闇の中から射し込んでくる。その感覚を信じて境内を歩いていると、発生源が分かってきた。分社の中の小さなお社から光が出ていたのだ。


「ここにあるのかな?」

「自分の力を信じるのじゃ」


 ホクトの言葉に背中を押され、私はお社に手を伸ばす。すると、丸くて赤くて所々に傷の入った宝石が突然手のひらに出現。それが彼の言う宝玉に違いないと、私は直感で理解する。


「本当に傷んでるね。で、これをどうやって直すの?」

「正しい宝玉の姿を思い浮かべて、ひたすら目の前の宝玉がそうなるように念じるのじゃ」

「え~、それ難しくない?」

「お主なら出来る! 頼むぞ。儂は今から命をかけてお主を守らねばならん」


 ホクトはそう言うと私の肩から飛び降りた。そうして必死に周りを警戒している。一体何が起こるって言うんだろう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る